第180話 グッバイ
今日は氷竜のダンジョンに挑戦する。寒さ対策は万全だ。ダンジョン全体が寒い。リリエスは腰痛持ちなので、腰痛が再発しないように特に念入りに重ね着をしている。寒くてもジュリアスの下着は温度調節をしてくれるので動きは快適だ。顔が寒いけど。
1層はメタルスライムだった。多分氷系のメタルスライムだろう。2層はワイバーン。これも氷雪系だと思う。隠密で3層到達しているから、メタルスライムとワイバーンとは戦っていない。3層はボス部屋になっている。ボスは氷虎。
氷虎の周りにはワイバーンが12体いた。際限なく呼ばれると面倒なことになる。今日もリリエスは観戦から始める。ケリーがボス部屋に入ると氷虎はいきなり駆け寄ってきた。かなりのスピードだ。
ケリーが回避しようとしたときには、もう2メートルくらいに迫られていた。この至近で咆哮した。虎の咆哮は、竜ほどではない。だが近いと効果は大変なことになる。ケリーは固まり、ボス部屋の壁まで吹っ飛ばされた。
幸いまだ生きている。マナスのペンダントでHPを補充し、リンクでHP、MPを満タンにした。骨に異常はないようである。念のためにリリエスはケリーにハイポーションを飲ませる。
ケリーは勇敢に氷虎に近接戦を挑む。手に持っているのは即死剣である。氷虎は口でまともに剣を受け、即死は不可避と思われた。しかし死んだのはワイバーン。生贄のスキルだ。身代わりのアミュレットと同じことを仲間のモンスターでしている。
序盤の戦いは、どちらもあと少し足りなかった。ケリーは昨日得たばかりの月蛾触覚というスキルで、氷虎の目を原点に設定した。そして照準のスキルで、原点に即死剣を投擲。
効果はあって、ワイバーンが4体倒れている。残り7体だ。もう作戦などない。ケリーはアリアの乳を飲んで、自分の能力を上げる。防御無視の剣で氷虎に突入。原点設定しているので、剣の攻撃は当たる。1回の攻撃で、氷虎のHPは7は削れている。
7体のワイバーンはブリザードを吹いてくる。下着が温度調節をしてくれるので、ケリーにはさほど効果がない。脅威はやはり氷虎だ。噛みつき、体当たり、前肢での爪攻撃。致命傷には至らないものの、ケリーはボロボロである。
リリエスが鑑定すると、氷虎のHPはまだ8割は残っている。時間はかかるが、即死剣の投擲が一番効果がある。剣には鋼糸がつけてあるので、回収されている。クールタイムが空けたので、リリエスはケリーに
「即死剣」
と念話する。
前回と同じように氷虎目がけて順次5本投擲。念のため、氷虎は粘糸で動かないように固定する。効果は短時間だが、効いている。ワイバーンが4体減った。1回は即死剣が回避された。残り3体だ。
ケリーはゴーレム馬を出して氷虎を牽制する。鋼糸に防御無視の剣をつけて振り回す。同時に吹き矢で目先を変えて、クールタイムをしのぐ。ゴーレム馬も吹き矢を打たせる。
リリエスはワイバーンのブリザードを強奪。ついじれったくなってワイバーンをファイアーアローで倒してしまった。ケリーはちょっと怒った顔をしたが、すぐ氷虎に攻撃を集中。
氷虎は長時間の戦いで瀕死になった。リリエスはスキル強奪をして、生贄と虎の咆哮をのスキルをえた。ケリーは即死剣のクールタイムが終わってやっと氷虎を倒した。1時間半かかった。
ここからはケリーのソロで、ボス周回タイム。始まりは10時なので13時まで、3時間。その間リリエスは下層階を狩っているそうだ。13時から昼食タイム。14時から氷竜攻略戦だ。
ケリーは全部で3回氷虎を倒した。4回目は時間切れ。リリエスが残っていたワイバーンと氷虎を倒した。ケリーの課題は攻撃力が低いことだ。しかし負けない戦いはできている。
昼食はボリボリと野菜スティック。マヨネーズつき。このごろ卵からマヨネーズソースを作るのが流行っている。クリーンをするからこの世界は清潔で、問題もなく美味しい。
リリエスに完全にヒールしてもらい、温かい甘いお茶を飲んでケリーはくつろいだ。ケリーは若いというより、少年の元気さで疲れを知らない。さて氷竜戦の開始である。
氷竜も咆哮から始めた。予期していたケリーは聴覚を遮断して影響を受けない。氷竜は飛んで接近すると、さっそくフローズンブレスが来た。それを回避の魔眼で避けてから、氷竜とケリーは消耗戦に入った。氷竜はフローズンブレス以外には、爪での攻撃、氷槍の投擲、咆哮しか攻撃手段がなかった。
1時間経過した時、リリエスが戦いに介入した。
「ケリー、勇者パーティーのドラゴンの倒し方を伝授するから、よく見て覚えなさい」
「うん分かった」
「結界レベル5で覚えられる完全結界よ」
「普通の結界じゃないの」
「普通の結界は自分たちを守るけれど、完全結界は攻撃する結界なの。ドラゴンの攻撃は一切通さない。こちらの攻撃は通る」
「攻撃してみる」
フローズンブレスも通らないし、爪の攻撃も完全結界の外には無効になる。
「結界を絞るよ」
結界を小さく絞る。中の酸素も通さない設定にすると、呼吸をしている生物はいつかは息絶える。ケリーが一方的に攻撃して、瀕死になった氷竜から、リリエスがスキルを強奪する。フローズンブレスのスキルを奪った。さらにシャナビスの顔盗術をかけて、氷竜の顔を奪う。
「ケリー倒していいよ」
ケリーが即死剣でとどめを刺して、戦いは終わる。ポータブルダンジョンを置いて、ファントムに来てもらう。昨日と同じ手続きで、ここもブラウニーのダンジョンに統合される。
ダンジョン攻略すると特別なモンスターは失われて、昨日のダンジョンのラスボスはスケルトンキング。こちらのダンジョンのラスボスは氷虎になった。
昨日は夕方の海で二人でウィンドサーフィンで遊んだ。今日は寒いので帰って温まることにする。その前にルミエの拠点に転移する。ここには小さな温泉がある。ルミエはいなかった。勝手に二人で温まってから、リリエス(リーゼット)の家で焼肉だ。
2日間の成果を確認する。まず魔導書が2冊。滅びの王宮から出た『結晶世界の錬金術』氷竜ダンジョンから出た『ヘルメスの魔導書』。最高の魔導書を欲しがったワイズは満足してくれるだろうか。
スキルは月蛾の月光というデバフスキル。甲虫からは照準とランダムダメージという2つのスキル。ヴァンパイアの自己修復。氷竜のフローズン・ブレス。その他いろいろだ。
ドロップは滅びの王宮から、甲虫が落とした30個以上の各種宝石。月蛾から月蛾触角という原点設定のスキル・スクロール。氷竜からは氷槍というスキル・スクロールが落ちた。氷の矢が無限に作り出せるので、投げ槍に向いている。
それに宝箱から2個のサンサーラの宝石が出た。これはどんな相手でも輪廻に帰すという宝石だ。不死者でも輪廻に帰る。それと記念に奪った氷竜の仮面。それ以外も価値あるものは、ケリーのマジックバッグに移して、セバスに渡してもらう。
焼き肉を食べながら、昔の話になった。リリエスがマジックバッグから、ケリーが描いたリリエスの似顔絵を取り出した。少しお酒に酔ったリリエスは涙もろくなっている。なぜかこの似顔絵はケリーが持つことになった。
腹いっぱい食べたケリーは今日はブラウニーのダンジョンに泊まる。ケリーはプレゼントしようと、珊瑚の指輪持って来ていた。でも甲虫のきらびやかな宝石と比べると地味で、ケリーはリリエスに渡しそびれた。別の日にしようと思ったのだ。
ケリーが帰った後、リリエスはモーリーを呼ぶ。モーリーはもうすべてを知って準備していた。目で合図だけして
「私が得たスキル、私が得た能力、私の得た財のすべてをブラウニーに捧げる」
と言ってカマキリ型モンスターに戻り、どこかへ去って行った。
次はリリエスだ。
「すべてをブラウニーに捧げる」
リリエスの身体はブラウニーダンジョンに転移し、光の粒子になる。
今日下層で狩った普通のスキルは無数のスクロールとなって、学校や義勇軍や、リリエスに縁のあったダンジョンの宝箱になった。
着ていた服もクリーンされ、リペアされてダンジョンの宝箱に入る。身体もダンジョンポイントに加算されたのだ。きれいな死だった。
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