第177話 ハルミナ諮問会議

 リオトが口火を切る。


「今日は軍制の見直しをしたい。義勇軍がかなり力になりそうだ。かといってセバートン王国の決まりは人口500人に正規兵一人。これを変えると王家に睨まれる」


カシム・ジュニアが聞く。


「60人の内訳はどうなっているんですか」


 執事長のソトーが答える。


「500人以上の村にも正規兵はいる。あと衛兵もいる。王都アリアスの治安部隊まで全部入れると160人はいる。その内弓兵が10人。攻撃魔法を使えるもの2人。ヒーラーが3人、それ以外の145人は歩兵だ。数字は限界突破以前のものだ。今は魔法を使えるものは、増えているかもしれない」


 カシム・ジュニアが発言する。


「ヒーラーは住民を入れれば100人くらいになるでしょう。彼等は村や町で領主直営の治療院をやってもらいましょう。火や水の攻撃魔法を使える人は冒険者として稼いでもらいましょう」


 リオトが質問する。


「兵士としてカウントしないということか」


 答えるのはカシム・ジュニア。


「兵士とカウントしなければ、国の規制には抵触しません。弓兵は騎馬弓兵部隊を作って、各村に一人配属。各自警団の中核になってもらえばいいと思います。村をモンスターから守るのは騎馬弓兵、それに村の治療院で働くヒーラーには剣技も持っている兵士をあてましょう。二人を中核として、ゴーレム馬や犬部隊。あとは自警団で何とかなるはずです」


 レイ・アシュビーが口を開く。


「平原で戦うなら騎士団が絶対必要だ。実は砂漠の隠れたる神の兄弟団でも聖騎士団を持っている」


 カシム・ジュニアが答える。


「そうですね。騎士団は水路防衛隊という名目で養成していきませんか。費用も水路から上がる交通や運輸の利益で維持できると思います」


 ファントムが発言する。


「水路なら水軍が必要じゃないかな。俺はこないだジェホロ島の海賊を退治したんだ。その時海賊船3隻手に入れたしな。ここに水軍の基地を作っちゃどうかな。俺は今そこで30人ぐらい訓練中なんだが、これを寄付しよう」


 リオトが言う。


「その時はありがとう。ファントム。その水軍は私が適正価格で引き取る。以後騎士団と水軍で水路防衛隊を結成しよう。水軍の訓練はリングルに協力してもらう。あそこは良い水軍を持っているから」


 ファントムが発言。


「ジェホロ島は良い魚がとれるし、海底から宝石珊瑚が出てくる。それを使えば税金投入しなくても水軍の維持はできると思うよ」


 リオトが言う。


「ファントム。素晴らしいよ」


 カシム。ジュニアが続ける。


「軍の中核は150人近い歩兵になる。これを強くする。これができれば勝てるはずだ」


 リオトが聞く。


「カナス辺境伯の軍には2000人の兵士がいる。それにこの程度の軍で勝てるだろうか」


 カシム・ジュニアの答え。


「2000のうち500はカナス防衛のために置いていくさ。だから1500。戦争はハルミナ単独ではない。リングル、ピュリスと同盟しているから、それぞれに向ってくるのは500人しかいない。しかも長距離遠征だから、100人は輸送隊になる。つまり400人しか来ませんよ」


 リオト。


「それでも多いな。こっちは敵の半分しかいない」


 カシム・ジュニア。


「最初は野戦になる。戦場はこっちで選べる。待ち伏せして敵の数を減らして、籠城戦に移行です。城壁がしっかりしていて、食糧さえあれば籠城戦では負けません」


 ソトーが言う。


「城壁と食糧ですか。事前準備が大切ということですな」


 カシム・ジュニアが答える。


「土魔法使いはカシム組で全員雇います。水路工事と城壁建設を請け負わせてもらいます」


 リオト。


「そう言えば、城壁をハニカム構造にすることや、城壁の上で山羊を飼うこと、ビートという甘い野菜のことなんかがダレンからの手紙に書いてあった。ヴェイユ家もやるもんだ。ビートについてはゼラリスという知り合いに、種を半分送って栽培を依頼をしてある」


 ソトーの発言。


「山羊については、メシュトに定期船で送ってくれるように依頼済みです」


 カシム・ジュニア。


「城壁のハニカム構造についてはお任せください」


 ファントムが発言する。


「戦争というのは現場の戦争だけではないんだ。敵の情報をとってくる諜報という仕事もあるし。戦場で斥候をする索敵隊も必要だ。ピュリスにはいい索敵隊があるが、ハルミナには諜報部隊も索敵隊もないな」


 カシム・ジュニア。


「諜報はカシム組が引き受けよう。カナス方面に土の家の建設会社を作るから、それを足掛かりにして諜報部隊を作る。任せてくれ。ただ金はもらうけどな」


 ファントムが言う。


「索敵はピュリスから2,3人来てもらって、10人ぐらいの索敵隊を育成したらいいと思う」


 リオトの発言。


「それでいいだろう。ソトー、さっそく手配してくれ。それで気になっていることを3人に頼みたい。一つはエリートの育成だ。武技や魔法で特別優れた人材を育成したい。上位30人くらいを人外と言われる存在に育てたいんだ。これをカシム・ジュニアに頼む」


 カシム。ジュニア。


「面白そうな仕事ですね。了解です」


 リオトの発言は続く。


「ファントムには、底上げを頼む。使えないと言われるような障碍者、病弱者、犯罪者。底辺の50人くらいを1人前に使える存在にしてほしい」


 ファントム。


「了解しました。私にふさわしい仕事ですね」


 最後にリオト。


「レイ・アシュビーには騎士団の訓練を頼む。隠れたる神の兄弟団の騎馬隊で慣れていると思うので、よろしくお願いしたい。もちろんそれぞれに予算は潤沢につける。以上」


 ソトーと二人だけになってリオトが聞く。


「勝てそうな気がしてきたが」


 ソトーが答える。


「事前準備次第ですね。それとエルフとドライアドがが援軍に来てくれれば、勝てるかもしれません」


「ドライアドは世界中のどこにでも実体化できて、事実上不死だ。しかも長弓隊の矢は鎧も貫通する」


「エルフとドライアドは本当に味方してくれるんでしょうか」


「エルフは長い間奴隷狩りの被害にあってきたから、今度はユグドラシルが本気で怒っているらしい。ドライアドはエルフの乳母みたいなものだから、エルフが本気ならドライアドも味方してくれるだろう」


「ドワーフはどうなんでしょう」


「砂漠に住んでいたグーミウッドが、プリムスに移住している。グーミウッドは鍛冶の名工だ。ということは、ドワーフも本気なんだと思う」


「今度兵士の装備をグーミウッドに頼んで見ましょうか」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る