第176話 ワイズの錬金術の修行
ドライアドのベルベルは、錬金術は金魔法だという。でも『錬金術入門』の魔導書が教える内容は幅広かった。
まず第1章は識字。計算・機器の扱いから始まる。薬師であるワイズにとって初めて見る道具は錬金窯だけだ。これは一真の分解と統合のスキルで代用できる。
これで第1章はクリア。高レベルの薬師であるワイズには簡単だ。第2章は、各分野で自分で素材を手に入れて、実際に何かを作る実習だ。第2章は4つに分かれている。第1節は金属。第2節は薬。第3節は魔石。第4節は食品・染色。ワイズは薬師だから第2節はクリア。お茶を作っていたから、第4節もクリア。
第1節の金属に挑戦だ。鉱石を採掘し、インゴットに製錬するのが課題だった。ワイズはピュリス近郊の廃鉱山へ出かけた。地中活動のスキルで地下に潜ってみる。
リリエスが拠点にしていた場所を中心に、1辺10メートルの仮想立方体を作り、地層のデータを収集していく。ワイズの得意な地中マッピングである。
いったんセバスのダンジョン地下にあるマップ工房に帰る。マッピングのデータに廃鉱山のデータを統合する。鉄鉱石の鉱山だったようだが、掘りやすい所しか掘ってない。離れたところに取り残している大きな鉱脈らしいものがあった。
今発表すると騒ぎが大きくなるので、しばらく秘密にする。そこの場所に戻って、サンプルをある程度たくさん採ってくる。
鑑定はセバスに頼む。たしかに鉄鉱石であった。一真の知識を検索すると、酸化鉄を還元すればよいのだ。クリーンで不純物を除き、アンチファイアーボールで還元、分解のスキルで鉄だけを取り出す。案外簡単だった。
ワイズは廃鉱山に戻り、鉄鉱石を採った後のクズを集めてきた。効率は悪いが、同じ方法で鉄がとれる。ゴブリンの武器からも同じ方法で鉄がとれる。ゴブリン鉱山である。
面白がっているうちにインゴットが10くらいできた。ここから刃物を作ったりするのは、錬金術の次の段階になる。とりあえず第2章第1節はクリアした。
次は第4節。魔石を使ったモンスター生成である。魔導書にはスライムとゴーレムの2種類の課題が出ていた。どちらかを作ればいい。
ワイズが選んだのはゴーレム。まずゴーレムの魔石を採りに行く。ルミエの拠点のダンジョンに、ゴーレムが出る階層があるというので出かけてみた。
「ルミエ。久しぶり」
「ワイズか。今何やっているの」
念話である。ルミエは感じが変わった。以前はエルフの聖女として神秘的神々しさがあった。今は黒い魔女として、呪いの修行中である。人間臭くなったというか、人間の器が大きくなったというか、ともかく成長しているようだ。
「私は錬金術の修行を始めているの。今魔石からモンスターを作る課題に取り組んでいて、それでゴーレム倒して魔石を手に入れなくちゃならないのよ」
ルミエが念話で答える。
「それじゃ一緒にゴーレム倒そう」
ルミエの呪術は、ワイズには刺激的だった。最初に出てきたのはウッドゴーレムだ。姿形はいろいろだが、みんな木でできている。ルミエはトロールに似た大型のゴーレムにエイジングの呪いをかけた。急に動きが鈍くなり、ボロボロになって朽ちた。
残っているのは魔石だけである。範囲攻撃のエイジングをかけると、出てきた人型のウッドゴーレムが、群れごと朽ちる。怖ろしいスキルである。
「凄いスキル覚えたわね。ルミエ」
「これミンガスの持っていたスキル。嫌な奴だったと思うわ。そして私もどんどん嫌な奴になっていくのよ」
「どっちにしろモンスター殺すのは同じだから」
「ワイズはこんなスキルほしい?」
「私は魔力少ないから、ムリ」
ワイズはエロスの小弓と言う美しい弓を取り出した。3種の矢が打てる。金の矢は相手を魅了する。鉛の矢は相手を狂戦士化する。鉄の矢は特殊効果がない。ワイズは今日は鉄の矢を使って戦う。神器なので特殊効果がなくても一撃必殺である。
2層は金属製のゴーレム。ルミエはホーリーアローや魅了、メイスで殴るなどいろんな技を交えて戦った。顔盗というシャナビスのスキルも見せてくれた。ゴーレムの顔を奪って、違うゴーレムムの顔と取り換える。混乱している隙にメイスで殴り殺した。
「シャナビスはこれを人間にやっていたのよ。本当悪魔よね」
そういうルミエも結構怖い。
3層は森林のダンジョンで、出てくるモンスターも実際の動物に近い。モンスターではなくて、意図を持って動物をモデルにしたゴーレムだった。ウルフやイノシシがたくさん出てきた。
クロヒョウが出て来たときワイズは、自分の作りたいゴーレムはこれだと直感した。ルミエに協力してもらう。ワイズは金の矢を使って心臓を狙う。近くにある魔石は絶対傷つけない。同時にルミエに顔盗をかけてもらい、生きているマスクを作ってもらった。
黒豹は大きな魔石を残したが、黒ではなく青い色だった。それは黒豹の目の色だ。ドロップは、美しい黒い毛皮だった。ワイズはルミエとの別れの挨拶もそこそこに、急いでセバスのダンジョンの自分の工房にやってきた。
『錬金従入門』の魔導書によれば、魔石はできるだけ高品質のポーションに入れて、魔力によって溶かすのである。細い金属の先端に何かの魔力素材をつけて、その魔石溶液の中に置いておくと結晶ができる。それが新たな魔石である。
この新たな魔石を、モンスター素材で作った人形に埋め込み、魔力を注ぐ。そうすると新たなモンスターを作り出すことができらしい。
夢中になったワイズは普通のポーションではなくて自分の作れる最高品質のハイポーションを使った。魔石結晶の核となる魔法素材に自分の魔石の一部を使った。ワイズはアリ型モンスターだから魔石を持っている。
人形は本当はそんなに精密なものでなくてもいいのだ。モンスターは自分で成長するので、成長の過程でそれなりに整ってくる。ポーションも普通のポーションで十分。核となる魔法素材もモンスターの爪程度でいいのだ。ワイズは入れ込みすぎである。
ワイズはグーミウッドのところへ行って、メタルスライムゼリーを購入した。硬さを粘土くらいにして、小さいが丹精込めて、あのクロヒョウとそっくりなものを作った。心臓の位置に出来上がった魔石を埋め込み、表面にはドロップの毛皮を使った。
顔の部分にはルミエがマスクにしてくれたクロヒョウの仮面を張り付けた。あとは魔力を注ぐだけである。リンクしているから魔力は無限であり、何かとんでもないものができるかもしれなかった。
魔力を注ぎ続けて3日後、可愛いクロネコが生まれた。本当の姿はクロヒョウなのだが、今は区別がつかない。目の色は青。ワイズはクロネコにわざとそっけない名前を付けた。可愛い名前をつけると自分が虜になってしまうと思ったからだ。命名は「1号」である。
ワイズはルシアットの薬屋で、見習いやお客に人気の看板猫になった。可愛い上に頭が良い。人語が分かっているかのように賢かった。
ワイズはこの店ではドワーフ体形のおじさん、ワイドと名乗っている。誰にも不愛想である。でも心の底では1号を溺愛していて、ジュリアスに頼んで索敵統合スキルを刺青してもらっている。
リンクもしているから、死ぬことはまずない。ただワイズは厳しくしようと理性では思っている。昼間はマッピングのためにひとりで散歩をさせ、夜はブラウニーダンジョンに行かせて、パワーレベリングを受けさせているのであった。
さてともかくワイズは『錬金術入門』の第2章を速いスピードでこなしてしまった。スキルは錬金術レベル1とメイクゴーレムレベル1が発現した。
第3章は実際に役に立つ魔道具を作ったり、鍛冶や合金を作ったりする幅広い実践編である。ここからは専門のコースを学べばいい。ワイズは目的を忘れていない。エリクサーを作ることである。それは薬師のレベルを上げるだけでは到達できないようなのだ。
それを乗り越えるには何を学べばいいのか。ある程度幅広く学んでいく方がいいだろう。問題はこの魔導書には第4章以下がないことだ。
第3章を始める前に、周到なワイズは、次の段階の魔導書を用意しておきたかった。困った時は、リリエスに依頼すれば何とかなる。ワイズは最高の錬金術の魔導書を見つけてほしいとリリエスに頼んだ。
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