第173話 ヴェイユ家の諮問会議
ダレンは、ハルミナのリオトの真似をして、諮問会議を開いてみた。執事のバトロス。カナスからアデルのメイドのマリリン。プリムスから鍛冶師のグーミウッド。ピュリスからは新興実業家のナターシャ。ピュリスの人材は思いつかなかったので金を払ってファントムに聞いた。
まずダレンが口火を切る。
「今日は最初の諮問会議だ。自己紹介を兼ねて、何か一つ提案してほしい。じゃあナターシャから」
「私には二人娘がいまして、上の子がジュリアスで、下の子がミーシャと言いますの。上の子は狐獣人のハーフで、下の子は狐獣人とケンタウロスのミックスです」
「あのナターシャさん。それ提案ですか」
「そうですよ。それでどうして上のこと下の子と違うのかというと、私が娼婦だったので、父親が違うというわけです。それでミーシャは今年から学校に行くようになりまして、勉強ができてとても喜んでいます。ミーシャは小さいころから図書館に通っていまして、絵本を読むのが好きだったので」
ダレンが口をはさむ。何でもいいから話を止めたかった。
「思い出した。ミーシャは次の図書館長に任命する予定でした。あなたがミーシャのお母さんでしたか。ファントムと知り合いですか」
「ファントムという人は知らないですね。それで上の子は今旅に出ていまして、旅先から不思議な食べ物を送ってくれました。これです」
ナターシャが見せたのは丸い20センチくらいの大きな蕪のようなものだった。
「これはビートと言いまして、煮物にしてもえぐみがあって、食べられたものではないんです」
「あのう、ナターシャさん。これって提案ですよね」
「提案ですよ。でも私はこのえぐみの中に甘みを感じるんですね。もしこの甘みだけを抜き出すことができれば、私の店で出している蜂蜜の代わりになるのではと思うんですけど、皆さんいかがですか」
グーミウッドが発言する。
「できるよ。ナターシャ。俺ならね。このビートを回転する魔道具の中に入れて細かくする。ドロドロの状態にして、絞るんだ。しぼり汁を、成分を分解する魔道具に入れる。そうすると、甘い部分だけを取り出すことができる」
「素晴らしい。これで私の店はさらに繁盛すること間違いなしですわ」
ベテラン執事バトロスが聞く。
「このビートなんですが、種はあるんすか」
「ええジュリアスがたくさん送ってくれました。良ければ少しバトロスにもあげましょうか」
ダレンが発言する。
「ぜひお願いします。バトロスは畑を確保して大量栽培の手筈を整えること」
「了解です」
若くてチャラそうな女性が発言する。
「それじゃ私ですね。私はサエカから来ましたマリリンです。メイドです。サエカの町は全部土の家なんです。城壁に囲まれた丸い集合住宅に住んでいます。その丸い集合住宅が30くらいありまして、分かりますか」
グーミウッドが発言する。
「私の住んでいるプリムスも同じですから分かりますよ」
「それで城壁や家の壁に、地下から粘土を掘り出すので、どこの家にも地下室があってですね、地下が2階になっています」
新興実業家で元娼婦のナターシャが言う。
「マリリンさん。私の家も同じですよ。暖かくていいですわよね」
「それれですね。私の提案は地下でコオロギを飼うことなんです」
グーミウッドが発言する。司会の許可はいらないというルールらしい。
「虫の声を聞く家か、風流な趣味だ」
「いえ食べるんです」
ナターシャがいう。
「うちのお店でも出しています。コオロギの空煎り」
「直接食べても酒の肴になるんですけれど、山羊に食べさせています。山羊もコオロギ好きなんです」
またナターシャ。話が弾む。
「山羊ですか、あの髭のある」
「はい。山羊から乳を搾ってですね、乳を飲んでもおいしいんですけど、チーズを作るとですねすごい美味しんです」
執事のバトロスが常識的なことを言う。
「問題は山羊をどこで飼うかということですね」
「私、言ってませんでしたか、城壁です。どこの家にも屋上が城壁の屋根になっていますよね。そこに土入れて、草を生やして、そこで山羊飼うっていう提案なんですよ」
ダレンの発言。
「バトロス。このプロジェクトもお前に任す。城壁の上で山羊を飼う。そこからチーズを作る。餌は地下で飼っているコオロギ」
ナターシャが口をはさむ。
「待って、チーズじゃなくて、ヨーグルトじゃダメかな。お願いよ。うちの店で穀物や木の実の蜂蜜かけあるんだけど、ボリボリという料理ね。ヨーグルトかけたら売れる。半分ヨーグルトで決定」
ダレン。
「そういうことにしよう」
作務衣を着たおっさんドワーフ。名前はグーミウッド。
「うちの隣に色っぽい木工技師がいて、俺はその気まったくないのに、寄ってくるんだ。それである時こんなもの持ってきやがて、あ、俺はグーミウッド」
グーミウッドは30センチ四方の厚さ5センチの板を一枚見せる。
「普通の板なんだ。ちょっと持っていて」
そう言って、板をダレンに渡す。その板に飛び蹴りするグーミウッド、板はパカンと割れ、ダレンは壁まで飛んでいく。
「あれ順番待ちがえた。持ってきた方はこっちな。ちょっとまた持って」
今度は板は割れない。ダレンはまた飛んでいく。
「いや実は」
薄い板をぺりっと一枚剥がすと、直径2センチくらいの6ッ角形が密着した構造が出てきた。ハチの巣型。
「これハニカム構造っていうらしいのよ。やたら強い。そして軽いんだ。材料も少なくて済む。俺の提案ていうのは、城壁をハニカム構造にすることなんだ。以上」
マリリンが言う。
「私いいと思います。グーミウッドさん何歳ですか。40代かしら、私たくましい人好きです」
「ごめん、俺には妻と子がいてだな。昔俺がカナス辺境伯に楯突いたことがあって、それで捕まって俺だけでなく妻まで捕まってぼこぼこにされたことがあってよ。二人で立ち直った夫婦なんだ今更、人生やり直すわけにはいかないんでね。ごめんよ」
ナターシャも参加してくる。
「すべて捨てたくないですか。苦しい記憶はかかわった人と一緒に捨てればいいんですよ。捨てたら楽になりますよ。人生軽く生きないと損しますよ。女から誘われたら、何にも考えずに一発やった人が勝つんです。私も独身ですけど」
「軽く行きたいんだがよ。俺には子供がいてな。今は女より子供なんだ」
マリリン。
「縁がなかったですね。残念です。私軽い女なのに処女なんです。魅力ないのかしら」
ナターシャ。
「あのマリリンさん。あなたメイドより娼婦に向いてますよ。私の友達、娼館やってますけど」
「ありがとうございます。でももうすぐ領主のアデルが私に落ちそうなんです。今回は大丈夫です」
「残念だわ」
諮問会議は終わった。
「バトロス。諮問会議どうだったかな」
「どうなる事かと思いましたが、終わってみれば十分な成果がありましたな。第1に甘味調味料が手に入る。第2に城壁を利用した非常用食料の確保。第3に軽くて丈夫な城壁の拡張。どれか一つでも実現したらヴェイユ家の未来はもっと明るくなります」
「それにしてもファントムとは何者だ。なぜ娼婦上がりのナターシャを知っている?」
「ジュリアスが娘と言ってましたな。ジュリアスは泥炭を発見して塩の価格を大きく下げた娘です。それだけではないですぞ。琥珀を発見した二人の娘の一人です。そして索敵隊の隊長でした」
「過去形か?」
「いつの間にかいなくなりました」
「母親の話では旅をしていると言っていたな。旅先でビート発見か?もしかしたらジュリアスはピュリスの幸運の女神なのかもしれないな」
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