第172話 ケリーと海賊
冬の朝、海にはそよ風が吹いている。ケリーは海上にいた。紡錘形の板1枚。モーリーに作ってもらった。大きな帆はグーミウッドというおじさんに作ってもらった。メタルスライムのシート製だ。参考にしたのは一真の記憶にあったウインドサーフィあった
ケリーはセンサー(フル)スキルを使って風や波を完全に感じている。もちろん他の船や魚やモンスターの位置も完全に把握している。風が足りない時は、スキルで風を補いスピードを上げる。ジュリアスの作った下着を着ていると冬でも全く寒くない。
ずっと遠くで、悲鳴のようなものが聞こえた。猛スピードでセンサーで感知したところに向かう。それでも1時間以上かかった。
大きな商船が海賊に襲われていた。ケリーは船に近づくと、竜の咆哮でまず動きを止めた。全員が動けなくなった。粘糸を伸ばして、甲板に上がった。倒れている中で、海賊らしい人たちを粘糸で縛る。
「ファントム。ケリーだけど、僕のいる位置分かる?ポータブルダンジョン設置したんだけど、ポーションたくさんもってすぐ来てくれないかな」
ファントムはすぐ来てくれた。
「ケリー、ひどいことになっているね」
数十人が死んでいる。死んでいるのは商船の船員が多い。怪我をしている人には、ポーションを使う。もちろん海賊も。
「海賊の拠点はさほど遠くないかもしれない。おそらく天使降臨の夜に、サエカを攻撃した海賊団がいたが、その残党だな」
「僕は拠点探して潰しに行く。情報分かったら念話で教えて」
ファントムは生きている人は物化し、死んだ人や船は、海賊船も含めマジックバッグに入れて帰った。魔導書を使えば拠点の場所や残りの海賊の人数はすぐわかる。
ケリーはセンサーの倍率を上げて、海賊の拠点を探しながら、さっきの板と帆の状態で滑り出す。しばらくして鷹の目が大きな島を見つける。その方向に向かうと海賊の要塞が見えてきた。
人気のない入り江についてケリーは板と帆をマジックバッグにしまう。鷹の目で海賊の様子を探る。念話でファントムから残りの海賊は12人だと連絡が来る。それ以外に下働きの奴隷がいるようだ。
ケリーはゴーレム馬を偵察に出した。要塞の規模から見て人数が少ないが、8月15日のサエカ攻撃で50人くらい殺されている。今日40人鞍減らしている。
ゴーレム馬を使った偵察で、海賊12人、奴隷6人を確認した。ケリーは投げダンを要塞の出入り口に仕掛けた。エルザの開発したダンジョンにランダムに転移させる罠である。一真が予約というモジュールを開発してくれたので、明日の朝8時にセットした。これで罠に落ちた人は朝8時にダンジョンから疲れ切って出てくる。
ケリーはウインドサーフィンで帰る。明日の朝まですることはない。帰ったら木の瞑想をして、ダンジョンの難破船の階層でクラーケンと戦おうと思っている。
「ファントム。海賊のいた島を発見して、投げダン仕掛けてきた。僕は明日の朝8時にまた行くつもりなんだけど、その間何かあったらお願い。任せるから」
深夜、ファントムとお腹に子供を入れたゴーレム馬軍団が島に上陸した。罠から逃れた海賊たちへの夜襲である。
奴隷6人は小屋で寝ていた。海賊は3人しかいない。9人は今頃ブラウニーダンジョンのどこかをさまよっているのだろう。全員ブラウニーダンジョンに連れて行く。ついでに目についた海賊の財宝や武器など、すべてマジックバッグに収納して帰る。
ファントムはハルミナの兵士長に連絡して、明日の朝8時に海賊の逮捕をしてくれるように、場所を連絡しておいた。カナスの方が近いのだが、ハルミナの兵士長は面識があり、話を通しやすかった。
朝、ケリーが着いた時にはハルミナの兵士たちが待ち構えていた。海賊9人が疲れ切ってダンジョンから出てきた。兵士たちが彼等を逮捕していた。ケリーはゴーレム馬を回収し、みんながいなくなるのを待っていた。ファントムが来て、深夜に回収した海賊の財宝をケリーにくれた。
誰もいなくなってから、ケリーはサーチをかけた。この島の宝物と入力してみた。島の奥の洞窟に海賊の隠し倉庫があった。6個の宝箱があり、中には宝石をはじめ高価そうな宝が入っていた。
「テッド、僕ケリー。久しぶり。海賊の財宝発見したんだけど」
「すぐ行くからちょっと待って」
テッドは何も変わっていなかった。いつも優しい。
「テッド、転勤してどこの支店に行っちゃったの」
「場所は決まっていないんだ。でも念話と転移ができるようになったから、いつでも念話してくれていいんだよ」
「この海賊の財宝、どうしたらいいと思う」
「そうだな一般的なものは私が引き取ってもいいが、領主に渡して元の持ち主に帰すと繋がりができて良い。それ以外の特殊なものは、ケリーが欲しいものは取って、あとはケリーが自分で売ってみるか」
「やってみたい」
ファントムに来てもらって、一般的なものは、ハルミナの領主リオトに渡すことにした。
「それじゃ残りのものだが、好きなものをとってごらん」
ケリーはきれいな宝石を2個とった。
「おや、いいものを選んだね。誰かにプレゼントするのかな」
「大きい方はリリエス。小さい方はミーシャ」
「ミーシャはジュリアスの妹だね。仲がいいんだね」
「うん、リリエスの次に可愛い」
「それじゃ残ったものを値付けをしてみようか」
「この3つは明日のオークションに出すから、一緒に見に行こう。残りは市場で実際にこの値段で売ってみればいい。損をするのも勉強になるから」
ケリーはテッドの紹介してくれたピュリスの宝石店で、2つの宝石を指輪に加工してくれるように頼んだ。テッドも一緒に付いてきてくれた。7歳の子供では相手にされない。それ以前に不審がられて、通報されるだろう。テッドの後ろ盾があればその心配がなくなる。出来上がるまでに、1か月かかるそうだ。
翌日の午後ケリーはン・ガイラ帝国東端の都市、サーザラにいた。ここでゾルビデム商会の秘密のオークションが開かれる。ケリーが出品しているのは昨日の宝石の中で大きすぎて指輪になりそうもない宝石。あとはテッドが選んだ小さな杖ときれいな魔石。
最初にオークションにかかったのは魔石だ。ケリーがつけた価格は全部10万チコリ。何だったのかもわかっていない。
「次はワイバーンメイジの魔石。10万チコリから」
会場に失笑が湧く。
「100万」と最初の声がかかる。ケリーの値付けは桁が違ったらしい。結局230万チコリで落札された。
次がユグドラシルの杖。これが690万チコリで落札された。宝石はサンゴの大原石と紹介され1089万チコリになった。10万チコリの値付けに失笑も起こらない。会場を興奮させる白熱したオークションになった。
ケリーは目を輝かせて、オークションにハマっていた。伝説の宝物が目の前を通過していく。ケリーの取り分は落札額の8割だから、1600万チコリ以上。金額以上にオークションの魅力にはまったケリーである。
テッドは午後からサーザラの市場に連れて行ってくれた。そこでゾルビデム商会の名前で小さな場所をとってくれて、ケリーの持ってきた海賊の財宝の残りを並べたのである。
先ほどのオークションを参考にして、値付けは5倍にした。財宝は1時間もしないうちに完売した。テッドに手数料を払い、一緒に屋台の串焼きを食べて、町の中の店を覗いていると、さっき売ったばかりの小さなナイフが飾ってあった。
短い間に研がれて、きれいにされて、30万チコリだ。ケリーが売ったのは5万チコリ。自分では大儲けをしたと思っていたが、大損をしていたのだ。こうしてケリーのトレジャーハンターの道は始まった。
テッドはケリーが鑑定スキルを得るのは、2年以内と予測していた。この調子で市場に揉まれていけば可能だ。魔導書で海産物だけでなく、いろんな物の名前と価値を知り、いろんな人と出会い、いろんなモンスターと戦えば、大きなスキルが手に入る。普通は20年かかる道である。
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