第171話 カシム親子
極道カシムはオークとのハーフである。カシムの妻は犬獣人である。社会の最底辺を歩いてきた。妻の名前はムーエルという。
「ムーエル。俺な、女を一人増やしたいんだ」
「私に相談するなんて珍しい。バジェットの娘を妾にして、子供産ませたばかりじゃないか」
「実は今度の女は正妻にしたい。それが相談だ」
「正妻?誰よ」
「没落した男爵の娘で、しかも美人ではない。だが頭がいいんだ」
「別に構わないわよ。でも私も男作って、子供産むわよ」
「もちろん大丈夫だ。身内が増えればカシム組は安泰だからな」
王都アリアスでカシム組は着実に地歩を築いていた。最初にヴェイユ家の治安部隊にもぐりこんだ。その後、土の家の建設業、孤児院、図書館と世間の受けのいい商売で王都に進出した。
その後で極道としてスラム地区に拠点を作り、本来の娼館・賭場・飲食業・奴隷商を始めた。パジェット組との抗争に完全勝利し、スラムの覇権を握った。
正義の極道カシムがスタンピードで有名になったのが良かった。それに育成を依頼したエルザが、全員にリテラシーの能力をつけてくれたおかげで、極道なのにインテリだと評判が立った。
エルザのおかげで、料理人や娼婦まで、全員冒険者登録をしている。クルトと癒着してギルドにも組員を送り込んでいる。エルザがいなくなってからは、エルザのやり方で自前で新人の育成をしている。
いまやカシム組は多角的に事業を営む、新興の実業家だ。ピュリスとの輸送業やカシム・ジュニアの金融業も順調である。
さらにカシム・ジュニアがハルミナにがっちり食い込んだことで、セバートン王国でも有数の実業家になり上がれそうである。
カシムが考えたのは、さらなる世間の名声である。男爵の娘との結婚もその一つだ。そして極道カシムのイメージを払拭する事業。それがカシム文化賞の創設である。
メインは文学賞だ。小説の課題部門は「天使降臨」をテーマとした。それに自由部門と戯曲部門がある。さらに彫刻部門も作った。町の広場に展示するためのものである。4か月後に〆切では間に合わないので、彫刻はアイデアをスケッチしたもので応募できる。
ハルミナのカシム・ジュニアはファントムに重大な疑惑をかけていた。彼は鑑定できないのである。高度の偽装がされているらしかった。
ファントムは有能である。むしろ有能すぎる。誰かが背後にいる。そうでなければあんなに何でもできるわけがない。
カシム・ジュニアは部下を使って「入るな・危険」という店を見張らせていた。客として店に入るのは、ほとんど客が来ない店なので、見破られる危険があった。
「ボス。1か月見張ったので、わかったことを報告します」
「うん、簡単に頼む」
「あの店には4,5日に一人しか客は来ないです。客の素性を調べると犯罪者か、ろくでもない冒険者で、どうも情報を売ってお金をもらっているようです。闇の情報屋というのは本当でしょう」
「怪しいが、闇の情報屋としては普通だということか。変なところはないのか」
「1つあります。どうも配下に奴隷をたくさん抱えていて、冒険者をやらせているようです。これを収入源としている可能性があります」
「良し、お前がその中に潜り込め。スパイしてこい」
1か月後。
「ボス。1か月潜り込んできました」
「どうだった」
「奴らかなり強かで、完全なプロでした。潜り込んですぐばれたと思います」
「ひどい目にあったか」
「いいえ、相手は気がついたのに、気づいたそぶりも見せなくて」
「詳しく話してみろ」
「まずその日、俺以外に2人、仲間になりたいというやつがいまして」
「仲間募集しているのか」
「冒険者クランでして。ブラウニー・クランと言います。そこはいつでも冒険者を募集しているんです」
「それで」
「入団はできたんですが、最初に魔導書にスキルや経験をコピーされてしまいました」
「じゃあ、隠密や気配遮断のスキル奪われたか」
「いえ、コピーだけで、スキルは残っています。ただその時にスパイだってばれたはずです」
「でも黙って入れたのか。相当な自信だな。そこにいたのはどんな奴らだった」
「全員ポンコツでした。何しろ目が見えない、足がない、捨てられていた小さい孤児や老人。獣人も多かったです。五体満足な大人は私だけで目立ってました」
「それがどうして冒険者なんてできるんだ」
「まず魔石喰らいというスキルを覚えさせられました。食事は廃魔石で、100個食べると千チコリもらえます。これで月3万チコリもらえます。衣食住にお金がかからないので、食べているだけでお金がたまるんです」
「不味そうだな」
「それが慣れると魔石も旨いんです。しかも筋肉がつくんですかね。俺もだいぶ力つきました。それに朝と昼でノルマ達成すると夜は普通なんで」
「いくら筋肉がついても、足のないのは治らないだろう。そういうのはどうしているんだ」
「それがどうしたわけか、特別な服を着せられると、あるのと同じになって、普通に歩いてました。目の見えないのも見えるみたいになって」
「捨てられていた老人はどうなった」
「若返りまして、普通に冒険者していました。ですが寿命は変らないようで、死の間際に『すべてをブラウニーに捧げる』と叫んで死ぬんです。死体はダンジョンに吸い込まれて無くなって、着ていたものまでリペアして再利用していました」
老人は捨てられているのをファントムが拾って来る。若返るのはルミエに頼んだアンチ・エイジングのおかげである。死後にスキルをもらうことを明文化していない場合は、対価としてスキルを得る契約ではないから、ブラウニーが得るのは永続スクロールになる。
「宗教がらみか、闇魔法だな。ちっこい子供はどんな目にあっていた」
「子供たちはブラウニーが面倒見ていて、楽しそうに遊んでいました。遊び場が子供用ダンジョンらしくて、経験値がもらえるそうです。おやつが廃魔石で、子供にはノルマないそうです。それでも子供らは、月5千チコリほど貯金していました」
「そいつら強くなりそうだな」
「勉強もしてましたから、4歳で読み書きできるらしいです」
「他には」
「犬8頭とゴーレム馬数頭とスライムが1匹いました」
ゴーレム馬は索敵統合スキルでもらったものを、ブラウニーダンジョンで育成している。
「テイムしているんだな」
「ゴーレム馬なんですが、夜間に働いてまして」
「何してた」
「結界士の女の子がいるんですが、その子が子供たちを結界に入れて、結界ごとゴーレム馬の中に入れていました。子供はスキルで眠らせているようです」
「意味が分からん」
「それで結界士の女の子もゴーレム馬に入って、そのまま山羊のモンスターといなくなりました」
レニーは恐怖パニックから脱出できないでいた。なのでブルースと命名されたゴーレム馬と一緒に、サチュロスが交替でパワーレベリングを継続している。ゴーレム馬のブルースも、レニーもけっこう強くなっているようだ。
「他の子たちは?」
「ゴーレム馬の中に入ったまま、1頭ずつに分かれて、ダンジョン攻略していました。あ、犬やスライムも着いて行ってましたね。俺の考えでは、あれはパワーレベリングですね」
「そんなことしたら、大人になったらとんでもなく強くなるぞ」
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