第167話 ドライアド

 ルミエはイエローハウスがレストランに改装されることになってから、リリエスが拠点にしていたピュリスの東の巨樹に来ていた。


 別に荷物があるわけでもないし、寝るわけでもない。でも人間はどこか自分の場所が必要なものらしい。木の洞に包まれていると、安心できるのが不思議だった。


 ルミエは自分のキャラをうまく転換できないでいた。血まみれ聖女として自分を作り上げてきた。今ルミエは、悪をなしうる存在になろうとしている。ヒールではなくアンチ・ヒールで、敵のHPを削り取って殺す。モーリーとは違う道を歩き始めたんだなとルミエは思う。


 ジル隊の3人の呪術は結構陰惨だ。スノウ・ホワイトは相手に魅了をかけ、無抵抗になった相手を殺す。シャナビスは敵を瀕死にして、顔を奪い人格を仮面に保存する。そんな陰惨なスキルを、エルフのルミエが学んでいるのだ。


 カナス攻撃で死んだ美少年エルビスのスキルはエイジング。このスキルを魔導書から学んで、モンスターにかけてみた。ゴブリンが急速に老化し干からびていくのを見て気分が悪くなった。


 ルミエは孤独になり、自分の進むべき道に迷っていたのである。生産スキルは料理を持っていたが、自分が食べなくてもいい彫像の状態では、料理を作る気持ちになれなかった。気晴らしもなく、陰惨なスキルを行使する日々が続いていた。


 木の洞で考え込んでいるルミエのもとに、コンコンとノックの音が聞こえる。この場所が誰かにばれている。ルミエにはショックで、うろたえてしまった。念話で聞く。


「誰?」


「精霊を探していると聞いてやってきました。ドライアドのベルベルと言います。面接してほしいんですが」


「・・・・・」


「ダメですか。僕お祈りされてしまいますか?」


「ユグドラシルがすべての精霊に、私と契約すること禁じたの。あなた知らないの」


「僕はユグドラシルの支配から、ドライアドを解放したいんです。民族解放の聖戦を挑むつもりで来ました」


「あんた何歳?」


「12歳ですが」


「ちょっと早いけど中2病ね」


「僕みたく弱いのじゃダメですか。やっぱりサラマンダーとか、ウンディーネとかじゃないとダメですか」


「あなた、そこにいるの」


「木の傍に」


「ちょっと待ってて」


 ルミエは木の洞から外へ出た。座って話せる場所がある。念話だが。


「良く私のいるところが分かったわね」


「十日ぐらい探して、見つけてからはずっと見ていました」


「ストーカーね。まあいいわ。私がユグドラシルの千日の試練を拒否した事情は知っているのよね」


「偉大なる人種エルフという言葉を否定したと聞いてます」


「それを聞いてどう思ったの」


「伴侶を見つけたと思いました」


「どういう意味?初対面でプロポーズ?」


「同じ目的をもって人生を歩める相手を見つけたと」


「それ誤解招く言い方よ。ともかく茨の道を一緒に歩くということでいいわね」


「僕はユグドラシルとドライアドの一族に背く覚悟です」


「それで精霊の契約方法を私は知らないんだけど」


「使役精霊ではなく、同盟者の契りをしてほしいんです」


「なにそれ?」


「ただの約束です。契約魔法ではなくて、対等な個人同士が誓うだけです。背いても自分の誇りを失うだけで済みます」


「お試し期間を設けてもいいかな」


「どうぞ。納得するまでお試ししてください」


「あらためて聞くけど、あんたと同盟して、私に何のメリットがあるの」


「まず訓練場所を提供できます」


「私はここでもいいんだけど」


「そこはルミエの先祖のエルフが12年間眠っていた場所です。そのエルフは10月1日に、カリクガルによって異世界に転生されてしまいました」


「先祖って、あなた私のこと知っているの?」


「エルフとドライアドは種族同士深い関係で、もちろんルミエの事も、10代前の先祖のことまで知っています。学校で習いましたから」


「私は知りたくないわね。そんなこと」


「サーラはショウという転生者と一緒に、世界を変えようとしたんです」


「サーラって、私の先祖?ショウが転生者なの?一真以外に転生者いたんだ」


「ジンウエモンも転生者です。250年前の日本から来た」


「私は歴史にあんまり興味が無いの。行ってもいいわよ。訓練場。気分を変えてみたかったしね」


「それじゃ転移します」


 そこはさっきまでいた洞のある樹とよく似た木が生えていた。ベルベルの話では、砂漠の南端に近く、セバートン王国とン・ガイラ帝国の中間にある、どちらにも属さない場所だという。


「考え事をする時なんかは、この木の洞を使ってください」


 周りには良く刈り込まれた広い芝生が広がっていた。弓の練習をしたのだろう。いくつかの的が置いてあった。地下へ降りるドアがあって、そこを降りると、室内の訓練場になっていた。細長い一人用のプールがあって、温泉プールになっている。隣にはトイレと温泉のお風呂があった。


 その奥は広い実験室。おそらく錬金術のためのものだろう。実験室の奥にもう一部屋あって、そこは錬金術関係の書庫になっていた。


「サーラは錬金術師だったのね。私よりワイズにふさわしいような気がする」


「お友達を呼んでも構いませんよ。好きなように使ってください」


「お願いが二つあるんだけど」


「どうぞ」


「私はこれから呪いの黒魔女になる決心なの。それで呪いを受けてくれるゴーレムが欲しい。死んでも何回でもリポップしてくるやつ。もう一つはあなたの持っているスキルを魔導書にコピーさせてもらって、私達の財産に加えさせてほしい」


「近くにダンジョンがありますから、その1層をゴーレムダンジョンにします。明日の朝9時ごろまでにやっておきます。日の出前の4時間は、僕の本当の居場所に戻らなくてはならなんです」


「教えてもらってもいい?本当の居場所ってどこなの。そしてやらなければならない事って?」


「タナルゴ砂漠の北端にゼラリスの研究所というところがあって、僕はそのオアシスの丘に生えています。僕は雨女なんで、日の出前1時間そのオアシスに雨を降らせなくてはならないんです。準備もあって0時から日の出までそこに戻っています」


「魔導書の件は?」


「今でもいいですよ。ドライアドの全スキルは無理ですが、私の知る範囲なら大丈夫です」


 ルミエは念話で空白の魔導書を買って、ベルベルのスキルをコピーした。無事『ベルベルの魔導書』が出来上がった。


「私の好きなスキルもらってもいいわよね」


「もちろんどうぞ。でも僕たち対等の同盟者なので、ルミエのスキルも僕も学ばせてもらうことになるけど大丈夫ですか」


「いいわよ。早速だけど木魔法の中に、木の瞑想というスキルあるわね」


「1時間以上木の瞑想をすることで、1日1回だけ、ランダムに能力値が1上がります。毎日続けることをお勧めします」


「さっそくやっていいかしら」


「どうぞ。それじゃ僕は戻ります。明日の朝また会いましょう」

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