第166話 徴兵制?

 ハルミナの諮問会議はほぼ同じメンバーで続いていた。変わったのは領主が二コラから、地味なリオトに変わったことと、秘書がいなくなった。

 司会はリオトがしている。


「ヴェイユ家との共同牧場の建設について。ソトーから」


「まず馬牧場ですが、早い馬用と大きい馬用と、2カ所が完成しています。大きい馬の方には、農民競馬で目についた優秀馬3頭を加えて7頭にしています。他の種類も順調です」


 ファントムが発言する。


「ドンザヒから継続的に家畜を買い続けるべきだと思う。定期航路もあるしな。それと犬なんだが、軍隊でも犬を使っているところがあるみたいだ。ハルミナでも犬部隊作ったらどうかな」


「提案は2つとも採用する。ソトーすぐメシュトに、半年に全種2頭ずつ、もちろん犬も含めて、ニワトリは雌鶏19羽、雄鶏1羽注文しておいて。期間は10年で、この件で提案のある人はいますか。ヴェイユ家にも連絡して、同じようにしないか誘ってみて」


 カシム・ジュニアが発言する。


「犬ならカシム組も使っている。いい犬を5頭ぐらい選んで連れて来させる。適正価格でね」


 レイ・アシュビーも発言する。


「砂漠に野馬がいるが、あいつらはけっこう早い。タダだ」


 リオトが即決する。


「カシム組から犬の購入を決定する。詳細はソトーに任せる。次は軍事演習として、砂漠での馬の捕獲を決定する。これは詳細は兵士長に一任する。これもヴェイユ家との共同事業としたい。リングルのボルニット家も巻き込めるとなおいい」


 ソトーが答える。


「万事了解です」

 

リオトが爆弾発言をする。


「1月から徴兵制を開始したい。15歳以上男女関係なく全員。平時は1年に3週間。戦争の時は戦ってもらうが、基本後方支援だ」


 ソトーも初耳のようだ。


「領民に充分な利益がないと、他領に逃げるだけですが」


 リオトが答える。


「徴兵を務めたものは、税の3割減ではどうかな。徴兵に応じない者には今までどおりだ。領民は選択可能というわけだ」


 カシム・ジュニアが言う。


「貧民は税など払っていない。貧民には一方的な負担増になる」


 ファントムは発言する。


「貧民の中には、生活3魔法が使えない奴が多い。徴兵に参加したやつに生活3魔法を与えちゃどうだ」


 カシム・ジュニアが言う。


「生活3魔法を持っているやつにはメリットがない」


 ファントムの発言。


「生活3魔法を持っている成人は、限界突破というスキルを使うと、クリーンがヒールレベル1に、飲水が水魔法レベル1に、着火が火魔法レベル1に進化するんだ。魔法を手に入れたやつは大儲けだし、領主も軍隊が強くなってメリットしかない」


 リオトが冷静に聞く。


「それがファントムにできるのか。できるとしたら、いくらでできる。いつから開始できる」


 ファントムが答える。


「8億チコリ。三日でできる」


 レイ・アシュビーが発言する。


「1万人の火魔法部隊ができても、魔力が弱くては実際の戦争では使えないな。1日3発のファイアーボールに、兵士一人分の給料を払うのは無駄というものだ。水魔法も同じだな。ヒールは使えるが、他人に使えるのはレベル2からだ」


 リオトが発言する。


「実際上私がほしいのはヒールと土魔法だ。土魔法は岩石パレットが使えるし、平時には農業に使える。スキルをスクロール化して、市場で火魔法や水魔法と土魔法を交換できないだろうか」


 ファントムは答える。


「スキルをスクロール化する機能をシステムに加えるなら、10億チコリほしい。開始には4日。それでスキルの交換は俺にはできない。人手がいるからな」


 カシム。ジュニアが発言する。


「それは俺がやろう。今から土魔法スクロールを買い占める。ただ土魔法の価格が上がるから、火魔法や水魔法1に対して土魔法1では無理だ。その条件で、いくらかの手数料をくれれば俺がやる」


 リオトが言う。


「すぐそのシステムを作ってくれ。でき次第兵士・衛兵・文官・女官・冒険者で試行する。1年目はこれで人が来る。2年目以降はどうする」


 レイ・アシュビーが提案する。


「訓練にダンジョンを使い、そのダンジョンのドロップや宝箱をいいものにするんです。美味しいダンジョンに入れるとなると、民衆は必ず来ます」


 カシム・ジュニアが発言する。


「徴兵制という言葉は止めましょう。義勇軍を募集するということにすればいい。戦時の徴兵はまた別の問題ですね。戦える人間がいればどうにでもなりますから」


 試行が始まる。限界突破で確かに3つの魔法が発現した。しかし魔力が低いものに3つの魔法が使いこなせるわけがない。冒険者以外はヒールのみを残して他のスキルは一旦スクロール化する。自分をヒールできるだけでも兵士には恩恵だ。ヒールレベル2以上のものは12人に増えた。冒険者には口は出さない。


 魔導士部隊の火魔法使い2人と水魔法使い1人はレベルを限界まで上げた。二人ともレベル6が限界だった。余った魔法スクロールは売って、土魔法スクロールを買った。冒険者はギルドが中心になって、スキル交換が行われたようである。リオトはスキルのスクロール化にのみ協力した。


 これだけでもハルミナの軍事力はセバートン王国で、王家とカナス辺境伯を除けば、最強になっていたかもしれない。そこに1月から義勇軍の募集が行われた。第1期1500人の募集に、2000人以上が押しかけた。


 リオトの判断は早い。早朝から並んでいたものをシステムにかけ、3つのスキルを発現させる。ヒールは残し、火魔法と水魔法をスクロール化しいったん没収。土魔法スクロールを与えた。20人の臨時パーティー作ると兵士一人をつけ領内の魔獣討伐に送り出したのである。


 生活3魔法のないものは残した。受付開始の9時には1500人が残っていた。当初から最後の1週間は周辺の魔獣討伐訓練が組まれていた。これを時期をずらして、3班に分けて実施することになっただけである。


 生活3魔法を得たものは340人になった。人口の5%は生活3魔法がないと言われていたから、あと700人くらい残っている。彼等の生活は厳しかったから、大きな恩恵である。ヒールレベル2を得たものは6人。10歳のギフトでヒール1を得ていた者たちだ。火魔法レベル2になったのは5人。水魔法レベル2になったものは3人。


 残りのものには、火魔法と水魔法をスクロール化させたうえでいったん没収。土魔法レベル2か、火魔法、水魔法、リテラシー、計算、料理、身体強化、性技、楽器演奏、ダンス、木工、絵画など多彩なスキルから選ばせた。最初に魔獣討伐に出た班にも選び直しをさせている。リオトは強制的に土魔法を与えるのは避けることにしていた。


 午前は体操や座学。読み書きができない者は、最低自分の名前が書けるようにした。午後の訓練はダンジョン実戦。5分の1、2分の1、通常の、強さが3コースのダンジョンだ。


 ここのドロップや宝箱はかなり良かった。ずばりお金まである。もちろんリテラシーや土魔法が多いのは言うまでもない。住民はまた来年も来るに違いない。それに野外での1週間の魔獣討伐が意外にも楽しかったのだ。

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