第152話 ハルミナの闇情報屋
開店した闇情報屋の怪しいバー。最初の客は領主の二コラだった。何故かこいつが闇の世界の暗号を知っていた。暗号を言われれば誰でも客である。ゴーストだろうが赤ちゃんだろうが。領主だって暗号を言われたら、例外ではない、客だ。
二コラは聞く。
「兵士を強くする裏技を知りたい」
ファントムは指を2本立てる。サイスはピュリスにいてファントムと感覚を共有している。20万チコリだ。わざとボッテいる。帰ってくれてもいいのだ。二コラはうなずく。交渉成立だ。
「闇オークションで、能力上昇のスクロールを買う」
わずかに二コラが侮っている。ファントムは続ける。
「もし獣人がいるなら、進化の実を食べさせる。能力値が1・5倍になる。獣人ハーフまでは効果がある。倍率は落ちるがな。これも闇オークションで売っている。相場は1個で1億チコリ程度かな」
兵士には身体能力の高い獣人が多い。兵士長は確か熊獣人だ。進化の実は高価だが、能力値の平均が200前後の者が、一気に300前後になるなら、1億チコリの価値はある。能力値平均300はもう勇者パーティーのレベルだ。
「マスター、代わりに買ってくれるか」
「情報屋はそこまでしないのがルールでね」
クールに微笑むファントムである。二コラは200万チコリ払って帰った。一気に投資資本を回収した。次の日も二コラが来た。
「アズル教の聖女派と教皇派、それと隠れたる神の兄弟団の後ろ盾を教えてほしい」
ファントムは指を3本立てた。二コラはうなずく。
「教皇派は神聖クロエッシエル教皇国。聖女派はセバートン王家。確証はないが、隠れたる神の兄弟団はン・ガイラ帝国だと、俺は睨んでいる」
「隠れたる神の兄弟団と帝国のつながりの証拠はあるか」
「証拠なんかあるはずがない。強いて言えば哲学。差別を嫌っている。ただの俺の直感だがね。もしかしたら民主主義者という可能性もある。帝国宰相のゾルビデムは民主主義者だという噂があるんだ」
「最大帝国の宰相は高位貴族だろ。もうすぐ皇帝の外祖父だ。それが民主主義者のわけがない」
「ただの噂だよ。でもゾルビデムは、世界最大の商会の会長でもある。ありえないとは言えないな」
不味いワインを飲んで二コラは帰った。300万チコリを置いていった。
3日目も来た。客は開店以来、彼一人だ。二コラは聞く。
「ヴェイユ家のダレンがハルミナに琥珀鉱山を売り渡したのは知っているか」
「そうらしいな。詳しい条件は知らない」
二コラが指を1本立てる。サイスはその条件を知っている。でもあえて二コラの情報を買ってみた。急遽、念話で真偽判定スキルを一時的に導入する。
「10万チコリなら買う」
「いいだろう。毎年売り上げの1割を支払うことだ」
サイスは表情を動かした。嘘だったからだ。ハルミナが払うのは琥珀の売り上げではなく、利益の1割だ。似ているようだが、売り上げと利益では全く違う数値になる。ファントムは無表情を守れた。腹話術は便利である。
サイスは考える。こいつは何を試しているのか。サイスが正しい情報を持っているかどうか試しているのか。そうだったら、どう対応するべきか。率直に聞いてみた。
「領主の二コラさんよ。なぜここでニセ情報を俺に教える。俺にはあんたの意図が読めない」
二コラは落ち着いている。荒事になっても勝てるという、強い男だけが持つカリスマがある。そしてこう言った。
「あんたがどういう人か知りたくて。すまん」
「それでどういう人だと思ったんだ」
「分からない。ただどういう人か、もっと知りたくなった」
「どういう意味だ」
「明日の諮問会議に出席してくれないか」
ファントムは指を5本立てた。サイスは二コラの人たらしに落ちたのである。二コラにはサイスを引き付ける魅力があった。それからサイスは、誠心誠意二コラに仕えている。ちなみに給与は月5万チコリである。
二コラにはカリスマが備わっていた。何しろアーサーと同じ能力値になっている。しかも10兆チコリの金を持っている。そして子爵で、ハルミナの領主なのだ。冥界の強力な兵士もいる。環境が整えばだれでも風格は出てくる。
ファントムが居なくてもブラウニーダンジョンは回る。シルベスタは1日に何回も自分をヒールしているうちに腰痛が治った。しかもヒールのレベルが上がってレベル2になった。水魔法は状態異常回復のキュアを覚えた。今やヒーラーでもやっていける。ガンガン稼げば借金は返せる。
だが奴隷3人は誰も借金を返そうとしない。奴隷をやめたくないのである。カエリはサーチのスキルを30万チコリで買ってもらえた。自分を買い戻せる。だがそのお金で透過の魔眼を買った。
なんとそれでカエリは視力を取り戻したのである。隠し部屋が見えるには、その周辺も見えなくてはならないからだろう。余ったお金で『キノコ大図鑑』の魔導書を買った。秋が楽しみなカエリである。視力を失ったものが魔眼を購入すれば視力が戻る。この事実は将来大きな影響をもたらすだろう。
アミーフは『ウィンク』と『魔石喰い』のスキルを売って40万チコリのお金を得た。彼も自分を買い戻せる。しかしアミーフは鎧操作のスキルと必中のグローブを買った。
シャツの左手の袖の先に、必中のグローブを縫い付けると、まるで左手があるかのように、思い通りに動かせるのだ。鎧操作の効果である。しかも弓が必中になった。四肢を失った冒険者は復活できる。その波紋はこれから大きくなるだろう。今はまだ静かな生活だ。
魔石喰いはアミーフたちへの指名依頼になった。毎日魔石を100個食べるだけで、千チコリもらえる。スキルがあると、廃魔石でも美味しく食べられるのだ。廃魔石はチームの仲間、特にアリアの幻像のサチュロスが良く拾ってきてくれる。
能力値を上げるスクロールが出たときは、自分のものにしていい。スキルが出たときはセバスに買い取ってもらえる。他の2人も魔石喰いのスキルを、一真に買ってもらって、アルバイトしている。
しかも魔石を食べていると、筋肉がつくようだ。廃魔石でもいい。多分栄養があるのだろう。普通にダンジョンを周回しているだけで、良い筋肉がつき始めた奴隷たちである。
ファントムのテイムした子オオカミのちび丸も、順調に大きくなっている。もうちび丸という名が似合わないくらいに大きくなった。そして妊娠しているようだった。かなり早い成長だ。特に何回も妊娠できることは、生物にとって有利だから、そういう進化を遂げているのかもしれない。
ちび丸に会いたくてジュリアスやルミエが、ときどきブラウニーダンジョンを訪れていることは秘密ではない。しかしサイスは知らない。サイスはブラウニーダンジョンと奴隷たちは放置するつもりでいる。放置育成という新育成法?である。
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