第146話 ルミエの決意

「セバス。私、石化の意味が分かってきた」


 ルミエはケリーと同じ日にジル隊に誘拐された。おそらくジル隊の主目的はエルフの幼女の誘拐で、ケリーはついでだった。この誘拐の背後には巨大な悪の組織があるのだろう。ユグドラシルは長く続くエルフ誘拐に本気で怒ったのだと思われる。


「石化の意味ですか」


「ユグドラシルは私に堕落させないように呪いをかけた。それが石化の呪いなの。彫像だからセックスできないように。性奴隷として役に立たないように」


「それだけではないとおもますが」


「沈黙。不眠。激痛。それは強くなる訓練をするためのユグドラシルの鞭なんだと思う」


「たしかに。こないだサエカに石化したエルフの男性が現れました」


 ユグドラシルは彫像化した男性のエルフをサエカのアデルのもとに遣わし、毎年エリクサーを贈る約束をした。そしてアデルにエルフの友という称号を与えたのだ。スタンピードの時から、ユグドラシルはヴェイユ家との連携を探っていた節がある。


「ユグドラシルは何人か石化して、戦士を育成しているのだと思う」


「本来ならルミエもユグドラシルの下で戦士として育成されるはずだったんでしょう」


 セバスはスタンピードの後、チームに加わったダンジョンコアなので、直接はその頃のことを知らない。


「でも何らかの手違いで、ピュリスのチームに入ってしまった」


 ルミエを持て余した誘拐団、ジル隊はルミエを持て余し、闇のオークションで売り飛ばしたのだ。チームがルミエをオークションで落札できたのはアリアの右目の幸運スキルのためだった。


「そうかもしれません。帰ることもできますよ。チームは何も強制しないと思います。帰るならみんなに伝言しておきます」


 チームには名前もないし、規約もない。リーダーもいない。たまたま乗合馬車に乗りあわせて親しくなったような、一時的なものだ。出入りは自由だった。


「ユグドラシルから念話が来たことがある」


「帰って来いって言ってましたか」


「私喧嘩したの。偉大なる人種エルフっていうのが我慢できなくて」


「エルフはそう思っていますよね。自分たちは偉大で美しい」


 エルフはヒューマンに対し、なぜか優越感を持っている。社会的地位は貶められ、奴隷にされることも多いのだが、人種的に自分たちを偉大だと信じている。その意味では彼等も差別に染まっている。


「それじゃカマキリ型モンスターのモーリーで卑小で醜いっていうのかしら。モーリーこそ偉大で美しいわよ」


「帰らないんですね」


「ユグドラシルとも戦うつもり」


「具体的に何をしたいかいってください」


「悪をなす」


「罪を犯すダークエルフになるていうことですか」


 エルフは善しかなさないという建前である。悪をなしたものは、追放される。それがダ-クエルフで、エルフ以外と恋愛し、子供産んだものもすべてダークエルフとされる。


「悪いこともできるから善いこともできる。悪いことしかできないダークエルフになっても意味はないの」


「一真のスキルに、分解と総合というスキルがあって、いろんなスキルを分解して、スキルの部品みたいなものを取り出しています」


「何が言いたいのか。意味不明」


「スキルを反転するパーツを見つけたらしいです」


「ちょっと興味あるかな」


「アンチと名付けたんですが、このスキルを導入しますか」


「ヒールしたら、相手のHPを奪うってこと?」


「アンチ・ヒールしたらです」


「アンチ浄化したら?」


「多分相手は呪われます。アンチ・ウオーターボールで、相手の身体から水分奪いましたから」


「やられた方はどうなったの?」


「死にました。生物は水分奪われると死にますから」


 スキル自体が悪意に満ちている感じがする。エルフが持っていいスキルには思えない。ユグドラシルが知れば激怒しそうである。


「その話乗るわ。自分のやりたいことと同じかどうかわからないけど、石化の呪いは窮屈すぎる」


「石化の呪いは自分で解けないんですか」


「実は少しなら解ける。背中の石化を解いて刺青してもらった」


「チーム共有スキルの刺青どうしたのかなとは思っていました」


「それでさっきのユグドラシルの念話は、10歳になってもギフトの精霊魔法が使えないから、ちょっと待ってという話だったの」


「1000日の試練が終わったらということですか」


「そう。だけど私1000日の試練をユグドラシルに解いてもらうつもりはないから。ステータスのあと何日というのを消した。それは私が決めるのよ。カリクガルと戦って勝つまでね。不死の方が都合がいいし、その頃には呪いは自分で解けると思う」


「カリクガルと戦う気はあるんですね」


「復讐という個人的なものより、怒りかな」


 ルミエにもエルフの誇りがある。自分を汚そうとした悪意を放置することはできないのだ。それはジル隊にとどまるものではなくて、大元に向けられている。


「チームに属し続けるんですか」


「カリクガルに勝つまで。そして終わったら、一人でユグドラシルの呪いを解いて、浜辺で遊ぶ。一人でね」


「2週間で何をしたいですか」


「アンチ魔法を使いこなす。それと精霊契約をしてみたい。部分的に呪いを解いて精霊召喚してみたいんだ」


「プログラム考えますので、午前中ダンジョンで狩りをしてください」


 ルミエがアンチ魔法を覚えて、アンチ・ヒールや、アンチ・浄化を使いこなすことが第1の目標だ。しかしルミエは寝ないから、セバスはルミエの能力全般の底上げも図ろうと思う。


 棒術はレベル3まで上がってしばらくたつから、レベル4にあげられるだろう。ホーリーアローはレベル4になっているが、ここからホーリーレインという範囲魔法を発現させる。


 ルミエは料理スキルのレベル上げも希望している。森の銀狐に提供しているスープやコカトリス料理、ジャムやクッキーを美味しくしたいというのだ。精霊召喚はルミエにまかすしかない。セバスの力量を超えた問題だった。


 2週間後、5%の能力値アップ後。精霊召喚はできなかった。精霊に呼び掛けることはできたが、ユグドラシルが禁止していることを、精霊たちが破るわけにはいかないというのだ。


【名前】 ルミエ

【人種】 ハイエルフ

【年齢】 11歳

【状態】 試練中 (石化 不死 不眠 沈黙 激痛)

【HP】 98/98

【MP】  110/110

【攻撃力】 124

【防御力】 79

【知力】  68

【敏捷】  72

【器用さ】 69

【運】   52


【種族スキル】 精霊召喚(停止中)

【武技】    棒術レベル4

【攻撃魔法】  ホーリーアローレベル4 ホーリーレインレベル1

【その他】   痛み耐性 ヒールレベル4 浄化レベル2 

        解呪レベル1 料理レベル3

【スキルモジュール】 アンチレベル1



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