第145話 クルトとアリア

「ずいぶん頑張っているらしいな。アリア」


「クルト。聞いてよ。幻像が進化の実を食べたら、サイスまで能力アップしたって聞いてね。やる気になった」


「今、アリアの能力平均はは700くらい。サチュロスはどのくらいだ。100くらいか」


「ひとりだけ私が連れて、パワーレベリングしている。最下層で。いま170。500に行けば、進化の実を食べさせる。そうすれば私はカリクガルと戦える。能力値1000超えるから」


「どれくらいかかる」


「1年半」


「そうなってから、まだ2年近くあるな。どうやって勝つか見えてきたか」


「何にも。ノープラン。ただひたすら強くなっている。それに一人でもやるつもりだから。クルトには手伝ってもらうかも。昔私を抱いた時、お金払って無いから」


「俺が抱いたのはリリエスで、リリエスはあの夜は俺を愛していたんだ。どちらも純愛だったんだよ」


「手伝ってくれないの」


「手伝うさ」


「でもなんで?不思議なのよ。なんでくだらない女のために、命までかけちゃうの」


「リリエスも、アリアもいい女だし、俺はリリエスに借りがある」


「それでエルザまで巻き込んでいいの」


「エルザはもう大人だから、何かに命かける自由はあるさ。ただあいつの命は俺が守る。それでさ、なんでやる気になっているのか聞いてもいいか」


「昔の男が、惨めになっている。その男を殺してあげたいのよ。いまならそいつを殺せる気がする。このチャンスを逃したらもうできない。多分永遠に」


「それ終わったら、どうする?」


「私を殺してくれたらうれしいけど」


「それはテッドの役目だろ」


「私とテッドのこと知っていたのね」


「みんな知っているよ。アンジェラも」


「どうして」


「テッドってロマンチストだから、わかりやすいんだな」


「テッドは私を殺せるほど、器が大きくない。もっと巨悪じゃないと、私を殺せないと思う」


「俺にも無理だな。そう言えばスノウ・ホワイトな」


「どうなったの?」


「夢魔の刑だってよ」


「何よそれ」


「自分がやったことを、夢で再現されるんだ。加害者と被害者入れ替わって。3年くらい」


「毎日可愛い子に針で刺され続けるのか。死んだほうがましね」


「それが終わったら、俺たちに引き渡されて、ついにチームの目的の復讐が始まる」


「出がらしね。美味しくない」


「まあ何らかの演出が必要だな。ケリーにとってのドラマ」


「そう言えばジル隊の4人のうち、ミンガス死んでいたわ」


「やっぱりあのの天使降臨の夜だ」


「あの日、ザッツハルト傭兵団の別動隊がサエカを攻めた。その隊長だったらしいの」


「あと二人しかいない。守ってやるしかないのか。他の奴らに殺されないように。俺たちがあいつらを」


「クルト。私達って何なのかしら。チームって何なの」


「たまたま同じ馬車に乗ってしまった他人さ」


「他人よね。あとから乗ってきた人なんかもいるし。私なんか、目的も違うから。あんたどうなのよ。あんた何をしたいのかな」


「おれはもうすぐ死ぬからさ。死ぬ前に南下しておきたかった。センチメンタルな自己満足。理由なんか、俺たちには銅でもいいんじゃなかったっけ」


「チームっていうけど、はっきりした決め事って何だろう」


「いやなことはしない。それだけかな。殺すんだから、自分が納得していないやつを殺すのは嫌だ」


「私たちは軍隊じゃないからね。軍隊ってそういえば憐れよね。国家のためとか、組織のために、他人殺すんだから」


「私ね。自分が神なんだけど、自分の人生、神が許してくれるのかなって思うことがあるの」


「笑ってもいいか」


「泣いてほしいとこなんだけどな。それで神が言うのよ」


「なんて?」


「お前はもう許されている。既に許されているってさ」


「隠れたる神かよ。年取ると迷信深くなる神様って初めて見た」


「あんた私以外に神様の知り合い居るの」


「いるわけないだろう」


「神様のことが分かるのは、殺しまくってきた人だけなんだよ。あんたが神様のこと考えないのは、まだ殺したりなりからなんだと思う」


「俺はただ神を信じない主義なんだ。それにしてもさんざん快楽の限りを尽くしたエロ神獣が最後は神に頼るのかよ」


「哲学の問題なの。否定の果ての自己肯定ってね、陶酔する自己肯定と似たようなもんなのよね。あんたには一生わかんないだろうけどさ」


「リリエスにでも聞いてもらいな。あいつもうすぐ死ぬと思う」


「死相出てきたとか」


「いや、優しくなりやがった。ケリーを可愛がっているのが、あいつらしくない」


「リリエスも私と同じこと考えていたりしてね。いやね年寄りの会話って。自分が死ぬこと前提で話してる」


「神は知らないけどな。人間は必ず死ぬって、お前知らなかったの」


「そうだ大事な情報を伝えに来たのよ。マリアガルなんだけど生きているらしい」


「なんで大事なことが最後なんだよ。マリアガルってカリクガルの双子の妹だったか」


「神聖クロエッシエル教皇国の偉い人の娘なんだって。それで二人してカナス辺境伯に嫁いできて、同じ年に子供産んで」


「鏡合わせだな」


「その子供どちらもカナス辺境伯の子供じゃないんだって」


「じゃあ誰の子供だよ」


「聞いて驚け」


「ジンウエモンか」


「なんで先に言うのよ。それでジンウエモンが死んだあと、どちらの子が辺境伯の嫡男になるか二人が争ったらしい」


「で、勝ったのがカリクガルだと。カリクガルは何で殺さないのその双子のマリアガル」


「マリアガルの子は殺された。でもマリアガルは生かしてある。リッチになるのにマリアガルを生贄にするらしいわよ」


「カリクガルはリッチになろうとしているのか。リッチになっちまったら俺たちじゃ到底勝てないな」


「能力2倍。単体で不死の力を持つ」


「いつだよ。その儀式みたいのやるの」


「数年後。すぐには条件満たせないらしい。すごい情報掴んで来たでしょ」


「初めてまともな情報掴んだな。どこにいるんだマリアガル」


「知ってどうする?」


「敵の敵は味方。溺愛していた息子を殺されて恨み骨髄。カリクガルと同格の魔法使いだ。こっちの味方にしたら、心強いだろ」


「私は見つけたら言ってやる」


「なんて」


「お前はもうすでに救われている」


「サチュロスとまぐわっている蜘蛛女が、そういうのか。そこまで馬鹿だと思わなかったぜ」


「事実でも言ってはいけないことがあるわよ」


「ともかく、見つけよう。俺の情報網もフル稼働させる」


「金はいくらかかってもいいから」


「お前の金じゃないし。稼いだのはリリエスとケリーのゴミ漁りだから」

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