第143話 新しいエリクサー?

 チーム全員に無事共有スキルの刺青が終わった。ジュリアスはアリアから、古代魔法の魔法陣を受け継いだようである。念話のイメージ共有は便利である。忘れない。


 セバス2も稼働している。効率は2倍になっている。セバス2に呼ばれたのはワイズ。アリ型モンスターで一真の従魔だ。一真とワイズが付き合っているのかどうか、それはよくわからない。チーム内の恋愛関係ではっきりしているのは、サイスがルミエに片思いしていることだけ。それ以外は多分本人たちにも分かっていない。


 ワイズは5歳から、魔法的に8年スキップして13歳になっている。能力的には調整されているが、8年の経験がない。そのせいで幼いまま、魂の純粋さを保ったまま13歳になっている。その魂の美しさを無くさないでほしいと思うセバス2であった。


 ワイズには進化の実は使えない。先日使ってしまった。一真が憑依している身体だ。それはワイズが進化の実を使って、分裂して作り出したものだからだ。5年は間隔を空けなければならない。


 ワイズが今取り組んでいることは2つある。一つは2つポーションを再現することだ。1つはカリクガルのポーション。レニーに使われ、訓練効果を高めたものだ。もう一つはアリアの乳がある。スキルとしてはエクスタシーだ。これを飲むと戦いを怖れなくなり、一時的に能力値が上がる。ケリーが使っていたものだ。


 そして似たようなものをワイズは独自に開発していた。エロスの小弓の鉛の矢を射た時、敵は狂戦士化する。これを薬品で再現する。ポーションには仲間を憎むという成分を取り除けばいい。3つは似ているがそれぞれ効果が違う。


ワイズの最終目的は、このデータを活用して、自分独自のエリクサーを作ることである。セバス2は言う。


「エリクサーは、今夜盗みます」


ワイズは驚く。


「できるんですか。それ悪いことなんじゃ」


「ファントムというのがサイスの仲間にいますから、幻像になればできます。それにエリクサーはほんのわずかしか盗みませんから。大量に複製しますけど」


「でも人のものを盗むのは、いけないことだと思います」


「エリクサーが安く出回れば、どれだけの人が幸福になれるでしょうか。蛇姫もこんなに長い間苦しまないで済んだんですよ。それにワイズはエリクサーを真似するのではなくて、自分のエリクサーを作る参考にするだけです。ワイズは悪くないんです」


「そうかな」


「新しいエリクサーはできますか」


「新しい何かが必要なんです」


「買えるものは買ってあります。ウムドレビ・ベラドンナ・仙桃・プロメテイオン・黄金のリンゴの5種類です」


「高かったでしょう」


「いったん手に入れたらコピーして転売するのでむしろ儲かります」


「あくどいです」


「でもこれじゃダメでしょう。これでできたら、エリクサーは誰でも作れます。これじゃ多分ダメです」


「ではどうしたら?」


「それはワイズが考えることなんですが。独自のエリクサーを作るには、まだ知られていない物質が必要かもしれませんね」


「私もそう思ってはいるの。キノコなんか怪しい。でも膨大な時間がかかりそうなの。おそらく数万年」


「一真に助けてもらうしかないです。一真のいた異世界は薬が発達していたから、それがヒントになりませんか」


「異世界の薬の成分と同じものを、こちらの世界で探すということ?」


「一真の映像記憶を探れば、なんか出てきそうな気がします」


 セバス2は本音では、エリクサーをコピーすればいいだけだと思っていた。本当に欲しいのは未知の毒薬である。カリクガルに勝つためには、彼女が知らない毒薬を使うしかない。それならまだ耐性がなく、必ず効くはずなのである。でも清純すぎるワイズには言えなかった。


「あとは地図作製も行き詰っていて」


「人手が足りていません。ワイズだけでは無理なので、何か私も考えます」


「それで私は2週間で、何をすればいいかしら」


「薬師レベルを上げるのはどうですか」


「少し前に薬師レベル3になりました」


「それじゃレベル4を目指して、今できる薬品の大量生産と、作れる薬品の種類を増やしましょう」


「私寝ないので、さすがに24時間同じ事やると、集中が切れます」


「それじゃ4時間やったら、1時間エロスの小弓でダンジョン攻略してみますか。弓技のレベル上げや土魔法のレベル上げもしてみましょう」


「わかりました」


「あとワイズは不死なんですけれど、ネストというスキルどういう仕組みになっているんですか」


「HPが1になると、自動的に暗い空間に飛ばされて、待っているとHPとMPが満タンになって、前いたところに自動的に戻ります」


「そこはどんな場所ですか」


「何にもない虚無かしら」


「アリ型モンスターは、みんな同じ場所を使うんでしょうか。他の人に会ったことはありますか」


「ないです。多分あそこは私だけの場所だと思います。無理やり誰かを連れて行ったら、その人は永遠にそこに取り残されると思います」


「自分でそこへ行くことってできますか。HP1でない時に」


「試したことはないんです。今度やってみます」


 ワイズの薬師訓練はかなり成功だった。作った者の種類が多かった。リリエスの毒耐性を作る苦いお茶を、飲みやすくしたり、甘くしたり、ポーションの成分を入れたり20種類以上。お茶も眠りやすくなるもの、さっぱりするもの、香りの良いものなど、たくさんレシピ化した。


 レニーのつかったポーションは再現できた。アリアの乳も再現した。ワイズが考えていた敵を狂戦士化する毒も作り出した。成分を一真に分析してもらい、手に入りやすい素材で作り直し、効能の強弱を変えた。朝1カップ飲むだけで、夜まで元気になるのもある。夜用の媚薬も作った。マンドラゴラから、できてしまった。


 一真には、かつて住んでいた世界の記憶を活用してもらった。成分が分かると、セバス2に頼んでダンジョンメニューに丸投げする。ダメなものもあるが、けっこう素材が手に入った、お茶の成分の、テアニンはキノコから、カフェインはある果樹の花からとれた。


 虫刺されの薬、馬車の酔い止め、女性の痛み止め、虫よけ、モンスター除けなど、身近な薬もたくさん作った。薬師のレベル上げ判定は、経験の長さより、薬の種類の多さだったのか、レベル4に上がった。


 エリクサーの復元はできなかった。これを復元するには無理やりにでも薬師のレベルを上げる必要がある。スクロールで限界まで上げるとワイズの薬師レベル7まで上がった。これ以上上げるには、知力の能力を上げるか、地道に経験を積むしかない。多分今ワイズは薬師のトップ10になっている。


【名前】 ワイズ

【種】  アリ型モンスター

【年齢】 13歳

【職業】 薬師

【HP】   70/70

【MP】  88/88

【攻撃力】 68

【防御力】 71

【知力】  107

【敏捷】  66

【器用さ】 103

【運】   72

【種族スキル】 人化 ネスト 飛翔レベル1 蟻酸攻撃レベル1

        毒針レベル1 

【ユニーク(ギフト)スキル】 地下活動レベル1

【武技】   弓技レベル3

【攻撃魔法】 土魔法レベル2

【その他】  薬師レベル7 食品加工レベル1

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