第133話 シエラの娼婦落ち?

 天使降臨の嵐が過ぎて、いつもの日常が帰ってきた。チームのベテラン組はカリクガルと間接的に接しただけで、彼女の圧倒的力を感じていた。ピュリスに出張ってきた幻像スキルを使う手下でさえ、かなり強かった。おそらく能力の平均値で300以上。成人の平均で50くらい。前の勇者アーサーで350前後だ。


 クルトとアリアが話している。


「カリクガル。恐るべしだな。彼女の能力値の平均どれくらいだと思う。アリアさんよ」


「1000行くかも。それくらいは覚悟していないと。クルトは今どれくらい」


「200超えたぐらいだよ。アリアは?」


「私は神獣だからけっこう高いけど、500はいかない」


「3年半後に戦うと言っても、ジル達には勝てるかもしれないが、親分のカリクガルには到底かなわない」


「あの時リリエスを止めなかったら対抗できたかもね」


「30倍か。でも誰一人あいつが神様みたいになるのを望まなかった。俺もな。自分の寝た女が神様になったら、俺は男として駄目になる」


「わからない理屈ね。それにあんたの寝たのは体はリリエスだけど、心はアリアだから」


「ややこしい話は置いといて、どうすれば強くなれるのかな。リリエスの能力やスキルのスクロール死蔵されているんだが、金も腐るほどあって、どうして強くなれないんだろう」


「なんかはっきりしない限界があるようなのね。エルフのルミエガ言っていたけれど、スクロールでスキル強化しようとしても、相性や能力値で制限がかかるみたいなの」


「まずその辺セバスに研究してもらって、若い連中をガンガン強化しなくちゃな」


 3年半後に向けて、エルザ以下の若いメンバーの強化が行われることになった。こないだの天使降臨の買い取った経験値も分配しなくてはならない。


 それにお金が無駄にキース銀行にたまっている。これも育成に使うべきだということになった。スキルスクロールは活用されずに放置されている。これも若い連中に使ってもらいたい。


 ベテラン勢は?自主練だ。


 リングルでちょっと問題が発生。ピュリスのヴェイユ家の娘、お転婆プリムの結婚延期が、思わぬ余波を引き越した。プリムは第3学校魔法科へ入り直すことになった。ご学友はもちろんついて来る。メイドも執事もついて来る。


 シスコンの長男ダレンが


「遠くで大丈夫かな」


 と、一言父の伯爵に不安を漏らした。父がクルトにそれを伝えた。クルトはふと12歳の女の子がリングルにいることを思い出したのである。ベガス村にいた獣人ハーフのシエラである。盗賊団の性奴隷にされそうになっていたあの子である。


 強化のために学校に行っていたらいいと思いついた。若いものの強化の第1弾。受験勉強のついでに、強化の限界を見極める。獣人が引け目になるなら、養女にしてもいいし。


 そうだあのリザードマンのお母さんと形だけ結婚したら、家族ごと身分も騎士になる。いいかもしれない。それでエルザに頼んだ。シエラ本人にやる気があるかどうか、打診ししてもらうことにした。


 エルザの聞き方は少し説明不足だったかもしれない。


「シエラ。あんた覚悟ある?どんなところでもスパイやれるかどうか聞きたい」


 シエラは覚悟を決めた。こんな幸せが続くわけがなかった。立派な1軒家が与えられ、差別もなく、家族一緒に暮らせる、そんな生活が自分たちに許されるわけがなかった。


 シエラは娼館に売られるのだと思い込んだ。そして覚悟を決めたのである。盗賊団の全員共有の性奴隷よりは、恵まれていると無理に思い込んで。


「もう家族では暮らせないんですよね。エルザ姉さん」


「一緒の方が良かったか。どっちでも好きな方でいいよ」


「いいえ、一人でいいです」


 母や姉まで娼婦にはできなかった。


「助けてもらったときに、身体はエルザさんに預けています。好きなように使って構いません」


「それじゃすぐピュリスに行ってもらう。準備がいろいろあるから。訓練しなくちゃならないこともたくさんあるから」


「わかりました。今夜準備して、家族と別れてきます」


「ピュリスが終わったら、王都のアリアスに行ってもらうから。そこで女を磨いてもらう。それはクルトがやってくれるから。きっと見違えると思う」


 シエラはクルトというヤクザに性技を仕込まれ、その男が自分のヒモになるのだと理解した。家へ帰って母と姉に、自分は娼館に行くことになったと伝えた。二人は暗い顔でそれ受け入れた。二人ともこんな幸せが続くわけがないと思っていたのだ。


 ピュリスではイエローハウスに宿泊した。歳の近いワイズやジュリアスとの生活は楽しかった。森の銀狐で食べる食事は美味しかった。ジュリアスの母親が、狐獣人で娼婦だったと聞いて、娼婦になってもこんな幸せになれるんだと、気持ちが明るくなった。


 訓練は進化の実を食べることから始まった。闇オークションで手に入る。かなり高価なものだが、金はある。


「これ食べたら私にどんな変化起きるんですか」


「いろんな能力が上がって、体型も女らしくなるはずです。胸も大きくなるから楽しみに」


 獣人やモンスターの血を引いていると進化の実を食べると色んな効果が出る。シエラの場合、ハーフなので能力値が1,25倍になった。モーリーのように純粋なモンスターだと1.5倍になる。そして言われていた通り胸やお尻に肉がついた。男のおもちゃになると思うとシエラは悲しかった。背も少し伸びたようだ。


 セバスの訓練は厳しかった。シエラの水魔法レベル2は、レベル3になり、氷魔法を派生した。攻撃魔法としてアイスアローが使えるようになった。もちろん以前から持っていたキュアという回復魔法や、ウオーターバレットが消えたわけではない。弓技もレベル3に。第3学校の魔法科新入生でもかなり強いはずだ。


【名前】 シエラ

【人種】 ハーフリザードマン

【年齢】 12歳

【HP】 61/61

【MP】 70/70

【攻撃力】 67

【防御力】 58

【知力】  48

【敏捷】  46

【器用さ】 52

【運】   62

【ギフトスキル】 リペアレベル1

【武技】 弓技レベル3

【攻撃魔法】 水魔法レベル3 氷魔法レベル1 

【チーム共通魔法】 念話レベル2 表計算レベル1 

          カード型記憶レベル1 センサー(ライト版)

【その他】 乗馬・リテラシー


 王都アリアスではクルトの家に宿泊。第2学校魔法科の受験勉強。制服やドレスの作成、礼儀作法の勉強をしながら、自分は娼館に売られるという思い込みを修正しないままのシエラであった。


 処女のままなのは、それを高く買う変態貴族がいるからなのだと信じ込んでいる。自分の現状を受け入れ、一日も早く立派な娼婦兼スパイになろうと努力するシエラ。誤解したまま入学式は迫っている。


 セバスがケリーの開発した統合スキルのセンサーを、チームスキルとして改良してくれた。ケリーの場合ほとんどが自分の訓練の中で獲得しているから、負担は少ないが、他の人はフルで持つと他のスキルが持てないかもしれない。そこでライト版を開発してくれた。


 それでもチーム共通魔法のレベル合計が5というのは大きすぎる。魔道具を使って外部化できないか、一真に検討してもらうことになった。

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