第122話 聖女の道連れ
ハルミナは古い宗教都市で、大聖堂がある美しい町である。私はもうすぐこのハルミナを去る。プロポーズを受け入れたからだ。
相手はちょっと変わっている。異世界の日本という国からの転生者だ。詳しい事情は知らないが、日本に帰れることになった。一緒についてきてほしいというのだ。
向こうへ行ったらもう帰ってこられない。その代わり、私がリストアップした500人を、異世界に一緒に連れて行ってもいいというのだ。
彼と出会ったのは春の薬草摘みの時だった。私が一人で野原の美しい花を摘んでいた時、美しい青年に出会った。孤独な二人が恋に落ちるのは運命だった。
私は領主一族の3女として、ハルミナに生まれた。10歳の時のギフトで、聖女のスキルを授かった。
それから8年。私は結界を張り、ハルミナをモンスターや様々な災厄から守ってきた。自分なりに精一杯やったと思っている。でももう限界だ。
この美しい都市は内部から腐っているのだ。私の両親をはじめとする領主一族。権力を持った文官たち、将軍などの軍人、魔法師団、アズル教の聖職者、悪徳商人、権力と結びついた極道たち。みな腐っている。
内部からの腐敗に、結界は無力だった。ハルミナはゆっくり死んでいく。隣のピュリスとは、ハルミナとよく似た街だった。だがピュリスは活気のある町になっていくのに、ハルミナは死んでゆく。
何が違うのか。15歳の時、だれにも内緒でピュリスに1泊旅行をした。そこで見たのは一人の娼婦冒険者だった。彼女の名はリリエス。30歳くらいに見えるおばさんだ。彼女の近くにいるだけで楽しかった。この私が、歌って踊った。男だったらリリエスと寝たかった。
まさかピュリスの活気の秘密はこの女ではないでしょうね。聖女の私がおばさん娼婦に負けているとは言わないよね。でもその日、私の心は折れた。
ハルミナはますます死に近づいてゆく。死都ハルミナ。そう呼びたくなるほどに。政治的に大事なことは、母の実家のカナス辺境伯が決めてしまう。男たちは無気力に快楽を追うばかり。
七男の二コラだけは、目の輝きを失わなかった。清新な統治を目指して自分の側近を養成していることを私は知っている。でも腐敗はあまりに深く、たくさんの老害を除かなければ二コラの夢は実現できない。
私は連れて行く500人のリストを、異世界人の彼に渡した。南極や北極、砂漠に転移してもらう人々の名簿を。もし生きられたら、そこで頑張ってほしい。
私自身は日本の大学を受験する。聖女でヒーラーでもあるので、受験するのは医学部だ。受験勉強は大変だが、ある優秀な日本人の記憶を受け継ぐので、大丈夫だと彼は言う。
7月15日。私と彼と、ハルミナの500人のクズが、地球へ転移する日だ。満月の夜、私たちは旅立つ。500人いなくなったら、あとは二コラが何とかするだろう。
手紙は出しておいた。隠れたる神の教会のレイ・アシュビーという人。ハルミナでは教会の税は収穫の15%だ。他の地域では10%なのでこれだけで民は苦しんでいる。隠れたる神の教会では10%を取るが、全部を貧しい人に分け与えると聞いている。
7月16日、レイ・アシュビーがハルミナに来てくれるはずだ。それとカシムにも手紙を書いた。極道の空白地帯になっているから、来てほしいと。カシム組が王都アリアスでやってきたことの噂は聞いている。極道カシム。悪くていい人に違いない。スタンピードの英雄で、スラムの義人だ。
善なる領域は隠れたる神の教会に、悪の領域はカシム組に。善でも悪でもない部分は二コラに任せる。
私は女子大生になり、青春を満喫しようと思う。男も漁り放題だ。彼と別れても、私がハルミナに帰されることはない。それに医者になったら、裕福な生活ができるらしい。
私は天才外科医になる。私は決して失敗しないから。もし失敗しそうになったら、ヒールの魔法がある。私のヒールは強力よ。
異世界間臓器売買組織の詐欺じゃないかって?もしそうだとしたら、私はヒールを使って何回でも臓器を再生し、臓器を売りまくって、大金持ちになってやる。聖女はけっこうたくましくってよ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます