第121話 センサースキル

 ケリーに短剣技レベル1が生えた。朝夕の狩は欠かしたことがない。1年間毎日努力した結果だ。そう言えばいつの間にか6歳になっていた。能力値も1年前にリリエスに奴隷として買われた時より上がっている。


 短剣技の他にもう一つスキルが出現していた。センサーレベル1だ。遠視や鷹の目、嗅覚強化だけでなく、気配察知、気配遮断、マッピング、映像記憶、絵画などが、スキル統合してセンサーという統合スキルになったようだ。


「セバス。僕、やっと短剣技手に入れたよ」


 こんなに努力しないと剣技系のスキルが手に入らないのは、多分才能がない。


「おめでとう。ケリー。他にもセンサーという珍しいスキルを獲得しましたね」


 ケリー一人しか持つことのできないユニークスキルかもしれない。いや一真もケリーと同じ経験を共有しているので、一真にも生えてくる可能性が高い。ともかくレアスキルであることは確かだ。


「でもこれなんなのかな」


「感覚が鋭くなって、いろんなことが分かるようになります。そしてイメージ共有を使って他の人にもどこに敵がいるとか、分かるようになるんですよ」


 戦略や戦術レベルでも戦いは情報戦だが、戦いの現場も実は情報戦なのだ。敵の情報を感じ取れることは、戦いにおいて圧倒的に有利になる。負けそうなときは逃げればいいのだから、無敗になるはずだ。つまり最強?


「それ大事なことかな」


「ケリーの場合、映像記憶を高速検索することで、敵の情報がある程度わかります。チームのみんなと敵のいる位置、数、強さを共有できたら、かなり有利になります」


「それは鑑定じゃないのかな」


「鑑定は相手のスキルや能力が分かりますが、センサーのスキルではそれはできません。ケリーの知っている情報が分かるだけです」


「セバス。僕、鑑定が欲しい」


「スクロールをあげることはできますが、自分が努力して獲得したスキルの方が精密です。そのうち鑑定も獲得できますから、頑張った方がいいですよ。自分の経験から手に入れたスキルは、能力値の制限を受けないんです」


「どういうこと」


「贈与やスクロールで手に入れたスキルは、能力値の制限を受けるんです。MPが60なら、魔法スキルは6個まで。知力が80なら、知的スキルは8個まで、攻撃力が40なら攻撃スキルは4個です」


 これはエルザが欲しがっている情報である。育成の中で、スキルスクロールをあげていいのかどうか、エルザはいつも悩んでいた。リリエスの30倍事件のおかげで、スキルスクロールはたくさんある。


 とんでもなく強い人外の化け物を作ることもできた。でもそれは自滅の道だとエルザは考えていた。チートな方法で強くなることを、ジンウエモンの呪いとエルザは呼んでいた。できるだけ経験からスキルを得ることが大切だ。エルザの経験から得た知恵と、セバスの情報はほぼ一致している。


「鑑定はどの能力値になるの」


「鑑定は知的スキルなのですが特別で、スキル2個分使います。だから自分で苦労して手に入れるとそれだけ価値が高い」


「僕、鑑定のスキル、手に入るかな」


「テッドがずっと鑑定の経験値育成してくれていますから、そのうち鑑定スキル手に入ります」


 セバスはお祝いに触覚強化と、味覚強化のスキルをプレゼントしてくれた。これはセンサーというスキルに統合されるので、能力値の制約は受けないそうだ。肌で熱を感じるので、茂みに潜んでいるモンスターの存在がよりはっきりしてきた。


 天使降臨が近づいても、ケリーの生活はさほど変わりない。まず朝の狩りをする。1年前はアリアに頼っていた。今はワイズと連携している。センサーで見ると、上空からモンスターのいる場所が分かる。気配を遮断して近づき、粘糸で拘束、短剣でとどめを刺す。


 サエカや2つの村への行商。糸術と風魔法の訓練をしながら、馬に乗って護衛。並列思考でいろんな本を読んでいる。サイスの図書館にある本は映像記憶ですべて頭の中に入っている。最近読んでいるのは前の勇者アーサーの自叙伝だ。リリエスなど知っている人が出てくるので面白い。


 帰ってきて孤児院の子たちと勉強する。ケリーは読み書き計算ができるので、先生役をしている。その中にジュリアスの妹、ミーシャがいる。勉強が終わった後、二人でダンジョンで薬草採りをしたり、トランポリンをして遊ぶ。


 ゴミ漁りをしながら帰る。この頃めぼしいごみがなかなかない。それがケリーの悩みだ。夕方の狩をして、モンスターから武器や魔石をもらう。ケリーのゴミ漁りがチームの財政を支えている。それは1年前から変わらない。


 少しだけ変わったことがある。センサーのスキルを得てからだ。悪意の存在を感じるようになった。敵と言ってもいい。ベガス村、テルマ村、サエカ、そしてピュリスの町でも。


 相手はモンスターではなくて人間だ。最近来た人ばかりだ。ケリーはテッドから与えられた課題を、真面目にこなしている。最近もダンジョンコアのセバスから、テッドの課題を真面目にこなしていれば、鑑定のスキルが手に入ると言われたばかりだ。


 今の課題は、人間を良く知るために、会った人すべてを記録している。表計算というスキルはとても便利で、記録の整理にも使うことができる。計算だけではないのだ。1枚のカードにその人に関する情報をすべて蓄積している。映像も音声も文字情報も、まぜこぜで記憶できる。


 悪意を感じるのは、この1カ月半くらいに、新たにやってきた人ばかりだ。敵意はケリーに向けられたものではなくて、そこはかとした悪意だ。

朝食はいつものようにリリエスが作ってくれる。耐性をつける苦いお茶と大麦のおかゆ。


「リリエス。僕6歳になって性格悪くなったかもしれない」


「性格は知らないけど、6歳になっても朝飯も作れない無能だということは、よーく知っているよ。ケリーは奴隷としての自覚が足りない。奴隷商に返品しようかな」


「僕、最近悪意を読み取ることができるの。リリエスの言葉に悪意は少しもないってわかる。それで最近来た人が、悪意を持っている件なんだけど」


 ケリーがピックアップした悪意のある人のリスト。一真の魔道具で魅了がかけられている人たちのリスト。ほとんど一致した。リストの片方にしかない場合、もう片方で確認。全部合わせて258人の侵入者を発見できた。既に相当数がヴェイユ家の支配地に浸透していた。


 監視の人数は最初の予定したものではとても足りなかった。今は契約魔法で情報漏洩を防ぎ、正規軍、衛兵、義勇軍の総力をあげている。そして危険な敵、暗殺者や凶悪な盗賊団は逮捕して、持っているスキルを強奪した。















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