第119話 実証実験
索敵隊は予定通り安息日に、サヴァタン山に出かけた。7月の迷彩服も夏の森を美しく描くことができて、その出来上がりにジュリアスは満足していた。移動手段はゴーレム馬。索敵隊は一真の協力で、ゴーレム馬のブースター走行を実験している。
魔石を20倍装着することで、時速を15キロ以上に上げている。普通は時速5キロ。サヴァタン山はピュリス東南60キロなので、4時間かからずに着ける。
4時間もぶっ続けに馬に乗ると疲れだろうって?リリエスの考案した皮の馬具セットであんまり疲れないはずだ。それにワイズの新しいポーションもある。
この日ワイズとサイスは急に来れなくなった。参加者は隊長のジュリアスを含め9名。吹き矢の装備も万全である。朝5時出発。できるだけ広がって、分散して進む。途中の地形も調査対象だ。ワイズの地図の精密化も目的のひとつだ。
サヴァタン山と言っているが、正確にはいくつかの山が連なる山地である。ハルミナやピュリスなど都市や村からほぼ等距離にあり、何もないので人が寄り付かない。だから特に山地内部についての情報がない。今日はサヴァタン山とその周辺のマッピングと様々な実証実験が目的だ。
午前9時に山地の北端に到着。ゴーレム馬をマジックバッグにしまう。ブースター走行、馬具、ポーション、実証実験は全部上手くいっている。
横隊で山地内へ入り、調査開始。連絡には犬笛を使う。人間には聞こえない高さの音だが、一真の魔道具を耳に着けると、笛の音が聞こえる。長音は安全に進んでいる。短音はその回数によって誰が吹いたか分かる。それを聞いたら全員そこに集合だ。この犬笛のテストも今日が最初だ。
経って
吹き矢は優秀でボアやスライム程度は一人で倒せる。この程度では犬笛は吹かない。2時間くらい経って、短音が5回吹かれた。ジュリアスはそれを繰り返して吹いて、5番目の隊員のいる、隊列の真ん中に向かう。
そこは川筋だった。忍び足のスキルで歩いているし、気配遮断をしているので、お互いどこにいるのか分からない。迷彩服も有効。これでいいのだ。再び笛が鳴って、ようやくみんな集まった。
川でゴブリン3体が水を飲んでいる。おそらく近くに巣がある。ダンジョンでいつもコボルトを相手にやっている訓練と同じだ。外にいる敵の数を減らしながら、尾行し巣を発見する。ハンドサインで実行を指示。
吹き矢は音もなく3体のゴブリンを倒す。今日は麻痺毒を使う。敵を殺さないで倒す訓練だ。麻痺させた後、剣でとどめを刺す。一手間増えたが何事も訓練だ。
巣を潰す前に昼食だ。一真の改良した魔石コンロを活用してお湯を沸かす。ドングリパンにソーセージをはさんだものを持って来ている。お湯を沸かして、香のないハーブティーを淹れる。魔石コンロは煙が出ないので戦場では便利だと思う。
河岸段丘の崖に洞窟を発見した。木の上や茂みに隠れて包囲完了。出入りするゴブリンを気づかれずに減らした。出入りが止まったところで、睡眠の効果を持った毒霧の魔道具を洞窟の中に投げ込む。
睡眠の薬をワイズが作り。毒霧発生装置を一真が作った。索敵隊御用達の魔道具士として一真は大活躍だ。一真の試作品の実証実験に、索敵隊が使われている感じもなくはない。
あらかじめ耐性薬を飲んでいる。全員で警戒しながら洞窟に侵入。その場でとどめを刺して、死骸は川原に捨てる。野獣が死体を食べてくれる。これも自然の循環だから、無駄に焼いたりしてはいけない。
洞窟はクリーンを徹底的にかけて清潔にする。ここは拠点化できる。最後はゴブリンの財宝を奪う。こんな場所でも人間から奪ったものがけっこうあった。武器や宝石もある。見たことのない黄色の宝石もあった。
ゴブリンの汚い腰布も全部持って帰る。クリーンして、セバスにリペアしてもらう。この頃はリペアはセバスがしてくれるから気安く頼める。それを一真の作った繊維製品の分解統合機にかけると、真新しい糸が糸巻に巻かれて出てくる。
ジュリアスが織機で織って、染色したら立派な布の完成だ。市場に出してもいいし、デザインして服を作ってもいい。市場に安く出せることも、とても必要だ。すべての布がスパイダーシルクである必要はない。替えて
ピュリスに帰ったのは夜の8時頃。順調な一日だった。ゴブリンなどの魔石と財宝は、お金に替えて均等に分ける。様々な野獣やモンスターの肉はモーリーに。経験値は参加隊員で均等に分ける。最後は森の銀狐で美味しい夕食を食べた。もちろん強制参加ではない。
今日の実証実験。ゴブリン馬の長距離走行。改良馬具ののテスト。犬笛セット。吹き矢の麻痺毒。改良型魔石コンロ。睡眠薬入り毒霧発生装置。すべて成功だ。地図情報も集められたし、拠点となる洞窟も確保。索敵隊、今日も活躍だ。スノウ・ホワイト逮捕で報奨金も出たし、実証実験で役に立っている実感もある。
ジュリアスは翌日もサヴァタン山に行った。染料になる植物の群生地を発見していた。ついでに薬草もかなり珍しいものを採取。そして川でゴブリンの財宝にあったのと同じ、黄色い宝石を見つけた。
実は昨日目についたが秘密にしていた。セバスはゴブリンの財宝の中にあった宝石を琥珀だと言っていた。川で見つけたこの黄色の宝石は、貴重な琥珀なのだ。このサヴァタン山に琥珀を含む地層があるはずだ。ジュリアスの兆候発見のスキルはまたいい仕事をした。
ジュリアスはワイズに念話してみる。ワイズの潜入先はこの近くなのだ。イメージ共有で地図データを送り、川で琥珀を発見した場所をマークした。あとはワイズが暇なときに探してくれる。ワイズは夜寝ないから、みんなが寝静まった夜は暇なのだ。いい暇潰しになると思う。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます