第114話 ブルーハウス

 クルトが借りてくれたリングルの拠点は、ブルーハウスと名付けられた。リングルの粘土の色は青だったのである。ブルーハウスにはリビーと母親のターニャ、妹のシエラの家族3人が住んだ。


 ブルーハウスにリフォームしてくれたのは、リングルに分家を作った極道のカシム組である。ブルーハウスのある場所は、中流市民が住む一帯である。ピュリスでは土の家は貧しいスラムの家という印象だった。しかしリングルでは、最初からスライムゼリーでコーティングして、お洒落に仕上げてある。高級住宅だ。


 カシム組は土の家を建設する部隊を5人、飲食店部隊5人を送り込んでいる。ピュリス領主の娘プリムが、秋にリングルに嫁入りしてくる。執事やメイドを連れてくる。それは表の働きをする。


 ヴェイユ家のリングルにおける裏の働きをするのがカシム組である。極道であることは隠している。建築でも飲食店でもある程度の格式を備えることは必要だった。幸いどちらも好評のようだ。


 プリムのもう一つの影の協力者として、エルザはリングルの冒険者ギルドに赴任する。その助手がリビーと家族たちだ。チームとしてもセバートン王国西部に情報の拠点が必要だった。


 リビーとその家族はチームの一員ではない。しかし協力者なので、無料育成していいことになった。すでに3人はピュリスで基本の育成は終わっている。3人ともFランクの冒険者になっている。エルザのピュリスでの最後の仕事である。


 リビーはケンタウロスとリザードマンのミックス。年齢は15歳。魔法武器のギフトを持っている。今は剣技と火魔法で魔法剣士になっているが、武器も魔法も何でもいい。身体野力も高く、魔力も高い。冒険者となれば相当高いレベルに至るだろう。ベガス村で盗賊団の性奴隷にされていたのとは全く違う人生になる。


 リビーの母親は31歳のターニャ。リザードマンで、持っていたギフトは魔法盾。盾はチームの武器庫から大盾を進呈した。魔法は風魔法にした。風刃での攻撃もできるし、盾に魔法をまとわせることも可能だ。


 もちろんリテラシーも忘れない。能力値も最低50に上げる。HPと防御力が80以上で、さすがリザードマンである。普通は成人の能力値は50くらいだ。ターニャの数値はC級の冒険者程度ある。切れ長の目をした凛々しくたくましい女性である。


 リビーの妹は12歳のシエラ。父親はヒューマンだったのだろう。ハーフリザードマンである。10歳の時に授かったギフトスキルは、リペアだった。これはリリエスも持っていた、壊れたものを修理できる有用なスキルだ。魔力量が多くなれば大きなものも復元できたりする。


 エルザはシエラの能力値をアップし、リテラシーをつけ、弓技と水魔法を与えた。母親のターニャが盾士で前衛。姉のリビーが魔法剣士で前衛。シエラは弓と攻撃魔法で後衛である。水魔法にはキュアという回復スキルもあるので、将来は回復担当もできる。


 3人には成長促進の指輪1.8倍をチームから特別に与えてもらった。ワイズが作るポーションとMPポーションは使い放題である。かなりバランスの良いパーティになったとエルザは思う。今は3人ともFランク冒険者だが、鍛えればランクはすぐ上がりそうだ。


 さてリングルの冒険者ギルドでのパワーレベリングである。エルザはピュリスから赴任のために、1か月の期間休みということになっている。ダンジョン転移を利用して、実際は既にリングルにいる。今はブルーハウスに一緒に住んでいる。


 エルザがリングルにいるのは、冒険者ギルドには内緒である。ギルドには顔を出せない。それでカシム組に協力してもらった。リングルには10人いるが、二つの職場で1人ずつ休みを取っている。休みの日は二人で冒険者ギルドのクエストをこなしている。休みの日に冒険者をするだけで月5万チコリは稼げるのだ。


 カシム組は男女ともエルザが育成してきた。10人は全員Eランク以上だ。Dランクの人もいる。カシム組のパーティーに加えてもらうことで、ガラの悪い冒険者に絡まれることもない。なにしろ隠していてもヤクザの組員なのだから、どことなく迫力があるのだ。冒険者といえどトラブルは怖い。


 母親のターニャは毎日カシム組に参加。盾ができる人は少ないから役立てるはずだ。魔法剣のリビーと弓士兼水魔法のシエラは日替わりでカシム組に参加。ちなみにエルザはカシム組の男たちに3人に手出し禁止を厳しく命じている。


 エルザはカシム組に行かない方の娘、この日はリビーだ。彼女を連れて訓練に行く。まずピュリスの索敵隊用のダンジョンだ。相手はコボルト。気配遮断して追跡して、巣を潰す。斥候の能力は生き残るためには大事だ。その後乗馬か水泳でリフレッシュする。


 10時頃にオークの階層へ行く。今夜の夕食を狩る。リビーにはオークはちょっと格上というところだ。エルザと協力すれば苦労しないで倒せる。緊張した後は、ボルダリングとトランポリン、あるいは迷路もアスレチックもある。


 ここから後が地獄になる。エルザは知らないダンジョンの5階層へ転移する。ランダム転移ができることはルミエから聞いていた。ここでエルザは気配遮断を使って見えなくなる。リビーは実力より深い階層に一人で取り残される。エルザは見守って、必要な補助はしているのだが、リビーには見えない。


 リビーは必死で戦う。気を抜けば本当に死ぬのだ。この午後のダンジョン転移を4つ繰り返す。1つのダンジョンが終わると、15分ずつダンジョン入り口から出て、近くのゴミ捨て場を探す。そこでゴミ漁りをするのだ。それが息抜きだ。翌日は妹のシエラが特訓。リビーはカシム組についていく。姉妹が強くなりたいのは本気だが、毎日ではエルザの特訓にはついてこれないだろう。


 帰るとダンジョンで狩った魔物の肉を焼いて夕食の準備をする。4人そろって夕食を食べるのは楽しい。ベガス村では楽しい夕食なんてなかったから。夕食に食べるものがないことも良くあった。夜に性奴隷になることもあったし。


 夕食後リビーとターニャは魔力操作をしてMP増加の訓練をする。シエラはみんなで協力して集めたガラクタのリペアをする。これはエルザが売って、代わりに3人のスキルスクロールを買ってくれる。罠発見とか、気配察知とか、忍び足とかいろいろだ。


 ダンジョンで冒険者をするとけっこうお金になる。ギルドの3人の口座にはベガス村にいた時と比べると、信じられないようなお金がたまっている。お金が励みになっていることも確かだ。でもここは自分のやったことが、だれにも奪われないのだ。全部自分のものになる。


 母娘3人は寝る前に本を朗読する。読むのは順番だ。カシム組のお兄さんが貸してくれた『ピュリスの4人の勇者』と言う本だ。ピュリスのスタンピードの時に現れた4人の勇者のことが書かれている。黒騎士クルト。ヴェイユ家の二人の息子。勇者アーサーと極道カシム。みんな素晴らしい。


 暗記するほど何回も読む。本が読めることだけでうれしいのだ。まるで貴族になったようだ。3人は最後はいつも涙ぐむ。

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