第112話 金融業

 カシム組は王都アリアスで大成功していた。カシム自身がピュリスのスタンピードで名声を得ていた。それだけではない。カシム以前にスラム地区を支配していたのはバジェット組だった。人望はなかった。その潰し方が鮮やかだった。実際エルザに育成されたカシム組は強かった。


 スラムに土の家や孤児院、老人ホーム、図書館を作ったことが、慈悲深い極道というイメージを作った。しかもヤクザなのに、読み書きできる。全員本を書いているインテリ?なのだ。


 カシム組の娼館の評判が良い。歌って踊れて、話が面白い。魅惑のスキルを使っているせいだ。料理が美味い。テクニックがすごい。これも全部スキルを使っている。


 さらに東地区の治安担当のヴェイユ家が、カシム組をあからさまにひいきにしている。もう一人の権力者、ギルマスの黒騎士クルトとカシムは親友だという噂だ。要するにスラムのある東地区の実力者3人は癒着している。カシム組が失敗する要素は一つもない。


 カシム組に有望な後継者が現れた。カシム・ジュニアである。カシム・ジュニアは昨年の10歳のギフトで、鑑定という素晴らしいスキルを得た。商人に有用なスキルだが、ヤクザの二代目にも役に立つ。組織のトップには人事が最重要だからだ。


 父のカシムはハーフオークであり、母は犬獣人である。だからカシム・ジュニアは最底辺のミックスだ。しかもオークは人間の中には入らない、獣人以下のモンスターだ。最底辺の下というやつだ。


 二人は成り上がるためには自分を捨てて、どんな汚いことをしても成り上がってきた。人に言えないことがたくさんある。自分の犯した罪は、ある種の悪人を苦しめるのだ。


 このタイプが成り上がると子供を溺愛し、子供には苦労させたくないと考える。そして溺愛して育てると、二代目は馬鹿になる。ところがカシム・ジュニアは奇跡的に賢く育ったのである。


 ただ欲しいものは奪い取る。我儘な性格はどうしようもない。極道の二代目には、覇気があった方が成功する。親馬鹿な両親は我儘を言われても、そう思って甘やかしてしまう。


 カシム・ジュニアは鑑定のスキルをもらったときに、もう一つ鑑定スキルをねだったのである。スキルレベルを2にしたいという我儘だ。鑑定のスクロールは1千万チコリもする。普通子供がねだって買ってもらえるものではない。


 長男を溺愛しているカシムは、息子に言われるがまま鑑定スクロールを買い与えた。鑑定のレベル2は世界でも100人はいないだろう。喜んだカシム・ジュニアは周りの人を鑑定しまくった。


 カシム組が経営する奴隷商。このスキルは、レベル2になると潜在能力まで見ることができた。相手が1年後までに獲得できるスキルが分かる。カシム・ジュニアは11歳で世界一の奴隷商になれることが確定である。


 そこにいた9歳の男子奴隷が、10歳のギフトで剣技を授かることが分かった。今なら20万チコリだが、剣技を授かった後なら50万チコリになる。迷わず買った。その後冒険者をやっている組員に預けて、パワーレベリングをしている。


 しかし自分の店の奴隷を買うより、よその店の有望な奴隷を買って、カシム組のものにする方が利益がある。王都のよその奴隷商で9歳の子を片っ端から鑑定した。ギフトで有用なスキルもらえる奴隷を探す。3人いた。弓技、土魔法、薬師の各スキル授かる子たち。もちろん全員買った。


 王都から馬車で1日かかる人口500人くらいの村で飢餓が発生した。200人は他の村や王都に逃げたが、300人くらいは動けなくて死ぬという。飢餓はこの世界で良くあることだ。


 餓死寸前の村の場合、奴隷商はただで商品、つまり人間を仕入れることができる。大抵は高齢者が多く売り物になる人間は残されていない。売り物になるのは、きれいな若い女性などである。


 父カシムは、カシム・ジュニアをその村に派遣した。ヒーラーを付けている。300人いたら4,5人は売れる人間がいる。カシム・ジュニアならスキルを見逃すことがない。10歳の時にギフトでスキルをもらう。だからスキルがない人はいない。しかし有用なスキルは多くはない。


 大工(19歳)、教師(18歳)、料理(21歳)、馬調教(15歳)、裁縫(17歳)、養蜂(19歳)、隠密(13歳)、計算(21歳)8人を無料で仕入れた。ヒールをかけて、アリアスへ連れてきた。若くて使えそうな男は一人もいなかった。8人は全員女だ。娼婦になれそうな美しい女も一人もいなかった。みんな体つきが貧相な痩せた女ばかりだった。


 あとは孤児院だ。ここにはスノウ・ホワイトの孤児院にいた子が3人いる。その最年長の7歳の子がヒールを持っていた。本を書いた子である。将来ヒールを習得するのではなく、既に持っているのだ。もしかしたら生まれながら持っている固有スキル?カシム・ジュニアは幸運に感謝した。


 この女の価値をすぐお金に換算した。現在時点で数億チコリ。将来聖女になったら、その千倍と計算する。その日のうちにもらって帰ろうとした。結果、タダでもらって帰ったのだが、5歳と3歳の子も付いてきた。


 カシム・ジュニアは奴隷は好まない。効率が悪いからだ。自由意思で動かないと、人間は本気になれない。だから奴隷からは解放する。その上で債務を負わせる。かかった費用に、ピュリスに送って育成する費用を上乗せする。リテラシーがない場合50万チコリ。リテラシーがある場合20万チコリ。例外はない。3歳でも。


 買い集めた14人を最初の客として、カシムジュニアは金融業を始めた。彼等は借金に利息を付けて返さなくてはならない。例えば100万チコリ借りたら、150万チコリの返済証文が作られる。期限は10年。月12500チコリと明記する。この世界では計算できる人が少ないから、分かりやすいことが大事だ。


 タダで手に入れた孤児は、ピュリスでの育成費用だけ。能力値が底上げされ、攻撃魔法と武技のスキル、冒険者Gランクの資格を得て、30万チコリの借金持ちになる。返済期限は3年。月々8000チコリ返せばいい。3歳の子もピュリスに送ったが、育成対象外として返された。無料で魅惑のスキルが付けられていた。


 スラムの住人にも貸す。鑑定すればいくらまで貸せるか分かる。その半分を貸す。例外がある。9歳の子を持っている場合だ。有用なスキルがもらえる子の場合、親に返せる額の100倍貸してあげる。カシム・ジュニアは優しくて怖い男だ。


 

 


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