第109話 盗賊退治(2)

・リビーの家族脱出成功


・血抜きされた熊獣人は驚異的生命力で生きていた。救出して奴隷として売却


・盗賊団は朝7時全員就寝。目が覚めるのは夕方5時の予定

 

 セバスによって作戦の進行状況が共有掲示板に公開されていく。


今後の予定


・盗賊団の監視

・スキル・武器・馬強奪

・宴会準備

・明朝6時 攻撃開始


 スキルや武器の強奪はうまくいくだろうか。盗賊団全員が熟睡している状況で、失敗する要素が何もない。


 盗賊団を2回目の宴会に誘い込む作戦はうまくいくだろうか。起きた時点で夕方であれば、夜間に逃亡しようとは考えないだろう。そこにアリアのエクスタシーをかける。宴会準備ができていれば宴会に突入する可能性が限りなく高い。


 一真は激しく悩むのであった。これでは朝6時に襲撃した時、敵が勝つ要素は全くない。襲撃に驚いて、眠い目をこすりながら、何とか起きる。寝間着にすっぴんで出てくる盗賊団。生理的欲求を我慢できず庭で用を足す。しゃがんだまま、吹き矢で打ち取られるスノウ・ホワイト。


 どう作戦を立てても美しい絵が書けない。これはケリー、一真、ルミエの復讐のセレモニーでもある。それが何のドラマ性もなく、戦いの盛り上がりもなく決着?それでいいわけがない。なんとか物語を成立させたい一真である。でもどうしても間抜けな結末になってしまう。


 昼過ぎ。アンジェラがやってきた。


「一真。この物語をヴェイユ家に売ってもらえないか」


「ごめん。分かるように話してくれる」


「明日の早朝。盗賊団を捕まえるのはプリム義勇軍ということ」


「それ索敵隊も含んでいるかな」


「もちろん。索敵隊に花を持たせる」


「3つの願いを聞いてあげよう」


「何でもいいのか」


「まかして」


「決めるのはいつまで」


「午後3時。回答は午後5時」


「譲れない条件があるんだ」


「聞いておこうかな」


「実はスノウ・ホワイトという女は、俺とケリー、ルミエの復讐の相手らしい。だから最終的に身柄は俺たちに渡してほしい」


「最初の取り調べはヴェイユ家でいいかな。実はこっちの意図をあらかじめ知らせておくけど、これは芝居になるんだ。プリムが主役の」


「それで物語を買うということか。事実と違う部分があっても文句は言うなということだね」


「物語は価値があるんだ。だからせいぜい吹っ掛けて」


 念話で全員に話を聞いた。掲示板を活用して、ヴェイユ家の申し出を受け入れるべきか意見を求めた。


 エルザからは獣人差別の禁止を宣言してほしいという要求が来た。ミックスの獣人がどんな目にあっているか。リビーの話を聞いて、改めてひどいと思ったらしい。もともとジュリアスの妹、ミーシャがリビーに同情したことから起きた話だった。1つ目は獣人差別の禁止でいいだろう。

 

 それで獣人差別が本当になくなるわけではない。それはみんな分かっている。それでもヴェイユ家の支配地では、表立っての獣人差別はしにくくなる。


 第2はリリエスが森の手入れをしている土地の所有権だ。森はだれのものでもない。だが将来モンスターがいなくなったら、人が住みはじめるかもしれない。あの森に村ができると、モーリーの居場所がなくなる。それを防ぐための措置だ。


 都市が無制限に拡大するのは危険なのだ。もし人口増加するなら、サエカやプリムスのように、新都市を建設した方がいい。


 ただ土地の所有を認めるには貴族になる必要があるかもしれない。リリエスは貴族には決してならないだろう。もしどうしても貴族にすると言われたら、どうすればいいか。


 エルザの意見では、チームでそれを嫌がらないのはクルトだけだ。一真は直接聞いてみる。クルトがいやいやながら受け入れてくれて、もしそうなったらクルトに騎士になってもらう。身分は名前だけのものになると思うけど。


 第3はサイスの求める義務教育だ。7歳から3年、ヴェイユ領の子供は全員学校に通うことになる。無償だけではなく有給だ。時給500チコリ。ヴェイユ領の子供は3時間授業を受けたら、帰りに1500チコリもらえる。


 孤児院の子が1日市場で働いてもらえるお金は500チコリ。たった3時間で3倍稼げる。貧しい親は決して子供に学校を休ませないだろう。全員が読み書き計算ができたら、社会は変わる。サイスの夢だ。


 とんでもない財政負担になる。学校が200日としたら、生徒一人あたり年間30万チコリ。さすがにこれは無理だろう。でも吹っ掛けてと言ってアンジェラは帰ったから、最初はこれぐらいでいい。


 アンジェラは3つのお願いを平然と聞いて帰った。2時間後受諾された。


「一真。学校は10月からでいいね。それと時給は半分。クルトが騎士になるとか、獣人差別禁止とかは、ヴェイユ家にタイミングを任せてほしい」


「ずいぶん簡単なんだね」


「どうしても物語が欲しい。それだけ価値がある。それに塩の販売が上手くいけば、ヴェイユ家には相当の増収になる。金はあるんだ」


 一真は考えている。もともとミーシャを泣き止ませるのが今回の目的だ。リビーと家族を救い出して、目的は達している。派生した目的は索敵隊の訓練だから、達成できるだろう。


 スノウ・ホワイトは予定外だった。でも復讐はケリーが10歳になったらという話だった。さすがに5年間スノウ・ホワイトを生かしておく必要はないが、復讐の舞台を整えるには時間的余裕が欲しい。


 早朝5時。予定通り監視を索敵隊に引き継いだ。プリム義勇軍が活躍して、盗賊団退治は終わった。


 最近スキルコレクターになっている一真だが、魅了と呪縛という珍しいスキルが手に入って、かなり喜んでいるのだった。

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