第106話 盗賊退治(1)
ケリーは行商の護衛として、ピュリスの東門からベガス村に向っていた。村までは特に何も起きなかった。盗賊に襲われることに慣れているので、何も起きないと少し退屈なケリーであった。
村に着くと、まず痛み取りの商売を始める。もう常連さんがついて、ガラクタがたくさん集まる。これをリリエスがリペアして、テッドのゾルビデム商会に売る。チームのメインの収入源である。おろそかにはできない。村では物は丁寧に修理して最後まで使われる。だからガラクタも本当に使い込まれている。
その後広場の南端に移動して、獣人の人たちから薬草を書いとる。行商はピュリスに向かう西側で行われている。そこには村長宅があり、旅人を泊めることもできる立派な家だ。獣人たちの家は南端にあって、みすぼらしい一角になっている。ケリーの買取は南の獣人たちの家の前で行われる。春なので薬草以外に山菜も多い。
その時、東から数騎の騎馬が突入して来た。東はハルミナに通じる道である。騎馬は7騎。後ろから20人くらいが走って付いて来る。村の東の建物は煙を出し始めた。侵入者はベガス村を燃やそうとしている。
「みんな助けて。ベガス村。30人くらいに襲われている」
ケリーは念話で助けを求めると、鷹の目で状況を確認した。先頭の騎士は赤い鎧を着ている。その人がファイアーボールで建物に火をつけている。その周りを騎馬の集団が守る。自分の家の火を消そうとした村人が、槍で攻撃された。徒歩の盗賊たちは略奪を始めた。
ケリーの傍にいた獣人たちは、走って自分の家に帰り、数人は武装して侵入者の方へ向かっている。ゾルビデム商会の手練れの2人は、村人を安全な方に誘導している。ベガス村の戦力はそれしかいない。圧倒的不利だ。このままでは村は全焼してしまう。
行商が来る日なので、ほとんどの村人が広場に出ていた。家の中にいるのは赤ちゃんや、病人や高齢者だ。侵入者は焦らず、ゆっくり略奪している。慣れている。徒歩の人たちは盗賊団だろう。騎馬の隊は少し異質だ。盗賊団ならば、村に火をつける理由がない。
家を燃やされた人は中にいる家族を助けようと走る。騎馬の侵入者は槍で、容赦なく村人を倒す。略奪は徹底的だ。物も人も家畜も、金になりそうなものを根こそぎ奪っていく。いつもここを襲う盗賊団ではない。彼等は村を生かしておいて、寄生虫のように富を奪う。
ケリーは騎馬の軍団に立ち向かおうとする。火をつけているのは赤い鎧を着た人だけだ。その赤鎧の騎馬が村長宅にファイアーボールを打った。ケリーは横から風刃でその軌道をそらした。騎馬たちが唯一抵抗するケリーに目を付けたのが分かる。
最初に来てくれたのはジュリアスだ。ジュリアスが現れたのは、村の西方だ。戦闘を避けてまず東側に回り込んでいく。火を噴き始めた住宅に向っているようだ。迷彩服の索敵隊の制服を着ている。水魔法で火事を消し始めた。燃えている建物に豪雨を降らせて火を消している。
次に現れたのはルミエだ。同じく西方に現れて、怪我をした人を治療し始めた。その次が一真。飛翔して全体を見て取り、念話で指示を出す。
「ジュリアスとルミエは消火・救護を継続。騎馬と歩兵を分断」
一真自身は略奪する歩兵と騎馬の7騎の間に入り、東側の略奪している歩兵を火魔法で攻撃し始める。ケリーは獣人たちと広場の中央にいる一真に合流する。一真はケリーに、先頭の騎士の火魔法を止めるように指示する。獣人たちには一緒に略奪している歩兵の攻撃を頼む。
ケリーは風刃で先頭の騎士を攻撃する。ファイアーボールの連発は止めることが来た。リリエスとモーリー、アリアが相次いで出現。一真の指示が飛ぶ。
「リリエスとモーリーは消火。アリアは蜘蛛になり、火をつけている騎士の皮膚に潜入」
ワイズとエルザ、ミックスの獣人リビーが出現する。
「ワイズは上空からの土魔法で砂をかけて消火。エルザとリビーは略奪している歩兵を攻撃。ケリーは騎馬隊を逃がせ」
という指示が出る。
獣人たちが武器を持って略奪している盗賊たちを囲む。略奪は止んで、盗賊たちは戦闘モードに入る。獣人たちと、一真、エルザ、ミックスのリビーに囲まれている。それでも敵の方が数が多い。
火は下火になった。消火活動が効果を示し始めている。救護はリリエスも加わって、ヒール魔法を使う。外でのけが人は命を取り留めている。
不利を悟った騎馬隊は、盗賊団を残して逃亡に入った。方向は北だ。サエカへ向かう方向だ。騎馬なら道は通れる。ケリーは粘糸で一番後ろの騎兵の馬の脚を絡めた。落馬した騎兵に近づき、粘糸で拘束した。
「ケリー。追わなくていいから」
残り6騎は追うなという一真の指示だ。何か考えがあるのだろう。
消火活動は、村民の桶リレーで火は消えた。赤ちゃんとおばあさん二人合計3人が火から逃げ遅れて死んだが、それ以外の怪我人は治療した。リリエスは火をつけられた建物をリペアしたので、7軒は新築の状態に戻っている。
残りは略奪をしていた21人。殺すなという指示が出ている。粘糸で絡めとられたり、落とし穴に落とされたり、吹き矢で麻痺させられたり、さんざんな目にあっている。
中でも獣人ミックスのリビーは目覚ましい動きを見せている。長剣に火をまとわせて、華麗な動きで相手を傷つけていく。家族や仲間の獣人たちは目を見張る。リビーは今朝、剣技や火魔法を贈与されたばかりだ。もう使いこなしている。
リビーに殺せと言えば、瞬殺できそうだ。しかし捕虜はこの後奴隷に売る予定なので、殺しても、四肢を切断してもだめだ。短時間で盗賊21名は全員拘束された。それとケリーが拘束した騎士1名の22名が捕虜になった。
チームで来られなかったのは、王都アリアスで東地区のダンジョンマスターをしているクルトと、図書館を閉めることのできなかったサイスの2人だ。
チームはケリーを残してまたどこへともなく消えた。アリアは、赤い鎧の騎士の、皮膚の黒子になってまだ仕事中?
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