第105話 テッドの朝食会

 エルザのリングルの冒険者ギルドへの転勤が決まった。早ければ早いほどいい。ピュリスの領主の娘プリム。秋にリングル子爵の嫡男と結婚し、リングルに住むことになった。もちろんメイドや執事、武官は付いていく。


 だが有能な、裏の仕事ができる人物が欲しい。できれば女性。ヴェイユ伯爵からクルトにそう依頼があった。それにぴったりの人物はエルザしかいない。チームとしてはカナスかリングルに、情報の拠点が欲しかった。利害は一致している。


 秋の結婚と同時では、エルザとヴェイユ家との関係が疑われる。この任務は極秘である。関係が知られてはならない。できるだけ時期をずらす必要があった。ただ一人では動きががとれない。エルザは助手を探している。


 クルトに依頼して、クルト名義で既にリングルに住宅を購入してもらっていた。クルト名義は、エルザを隠すためである。エルザはギルドの斡旋の家に住む予定だ。こちらは助手たちの住む家だ。数人で住むことを想定していた。イエローハウスのリングル版だ。


 そんなエルザの忙しい朝。一真から念話で連絡が来た。


「一真ちょうど良かった。ダンジョンマスターやってくれないかな」


 エルザは自分が抜けた後の穴を埋める手当もしなければならない。


「え、エルザ。アンジェラに似てきたような気がする」


「あんな肉食じゃないわよ」


「それ緊急じゃないよね。来れたらこっちに来てほしい。盗賊団の壊滅作戦しているんだけど、困っていて」


「5分待って」


 エルザは本当に5分で来た。5分が本当の5分の人は珍しい。一真は状況を話して、エルザを二人に会わせた。まずケンタウロスとリザードマンのミックスのリビー。彼女はエルザが助手としてリングルに連れて行くことに即決。15歳と若く、素晴らしい能力を持っている。一真は美女がいなくなるのはもったいないと思いながら、エルザの素早さに口をはさめない。


 リビー本人も納得だ。もう村に帰っても居場所がなかった。リングルの獣人差別は緩いと聞くと、エルザの提案に同意した。エルザはリビーの幸運値を55に上げ、リテラシーと火魔法、剣技のスキルを贈与した。リビーは魔法武器というスキルを持っているのに、攻撃魔法も武術のスキルも持っていなかったのだ。


 エルザはリビーと一緒に転移して、リビーを冒険者ギルドに連れて行く。Fランクに登録して、ダンジョン周回を命じて帰ってきた。この間20分。アンジェラと似てきているという一真の言葉は、正しいのかもしれない。


 それにしても、リビーも切り替えが早い。性奴隷にされていた悲しみの涙、そこから解放されたうれし涙のシーンがあっても良いはずだ。ヒロインを助けたヒーローは一真であり、ちょっと期待していたのだが。一真の周りには乾いた女しかいないのか。


 盗賊団の見張りをしていた男の方は、聞きだせることを聞き出して、あとは奴隷に売る。テッドの朝食会に連れて行って、アンジェラに引き渡せばいいということになった。盗賊団を攻撃するまで、あと二日ある。それまでできるだけ情報を引き出す。方針が決まるとエルザは帰った。


 6時からのテッドの朝食会。一真が話している途中、ワイズから念話が来た。ワイズは朝の狩に合わせてリリエスのところに帰っていた。監視はセバスが代わってやっている。盗賊団は混乱しているが、大きな崩れはないという。


 おそらく呪縛のスキルが機能しているのだろう。まだ12人残っている。ボスの呪縛スキルを奪っても、呪縛自体は、解呪しないと消えない。かなり厄介なスキルだった。


 ワイズの話では女がいないと不便なので、また村へ行ってだれでもいいから女を連れてこようという話が出ていたらしい。もし2,3人で村へ行くなら、本隊を離れた盗賊たちを拉致することにした。新たな被害を防ぐと同時に、人数を減らしておく。セバスから連絡が来たら、ワイズが対応してくれる。


 次の議題はエルザのリングル転勤問題だ。プリムの結婚で、リングルとピュリスは同盟することになる。それ自体にはだれも異論はない。領主レベルの話だし、サイスの報告でリングルにはみんな好感を持っている。エルザが必要なことも納得している。


 問題は二つある。一つはリングルでのエルザの助手の必要性だ。ピュリスでアリアとエルザがいなくなって、さらにチームの人員を外に出すのは難しい。獣人ミックスのリビーが助手になってくれるとしても、それだけで大丈夫だろうか。テッドが発言。


「俺の情報では、カシム組がリングルに10人くらい人を出してくれるそうだ」


「カシム組はみんなエルザを姉御と慕っているから、上手くいきそうだね」

 

 とサイス。みんなも賛同する。


 エルザの抜けた穴をピュリスで埋められるか。そっちの方が深刻だ。ダンジョンマスター。新人の育成。どちらもエルザに頼ってきた。


 エルザはダンジョンマスターを一真に頼みたいらしい。ベテラン組ではリリエス、モーリーがいるが、彼等はマイペースすぎて、組織の一員にはなれない。サイスやジュリアス、ケリーは10歳以下だ。ワイズも純粋すぎて無理だ。ルミエは千日の試練中。そうすると前世で24歳だった一真しか残らない。


 育成。カシム組やヴェイユ家から頼まれたら、エルザのマニュアルがあるから、一真やワイズがやればできそうだ。自分たちの育成は?これはリリエスかな?


 テッド、アンジェラにも協力してもらって乗り切るしかない。念話もあるし、セバスもいる。

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