第104話 リビー
テッドの朝食会は6時から。アンジェラが参加するようになって、食品加工工房の試食会になった。アンジェラは味にうるさい。試作品はなかなか合格しない。それでも昆布で出汁をとった塩味のうどんとか、ダンディライオンの根のコーヒーとか、茶わん蒸しとか、朝食会から生まれた逸品は多い。
ここで合格した食品は、森の銀狐のメニューに加わる。森の銀狐はますます繁盛するのだった。黒い肌のアンジェラが通うようになり、彼女はいつもプリム義勇軍を何人か引き連れている。索敵隊と義勇軍は意外なところで融和し始めていた。
今日のメニューはコカトリスのだし巻き卵である。ジュリアスがワイズの情報を報告する。1つはベガス村と港町サエカの間の地盤が安定している話。これで馬車の通れる道にするめどが立った。馬車が通れば、塩や船で移入した物資が運べる。ベガス村の先にある人口3万のハルミナが商圏に入る。
もう一つは、長くベガス村の血を吸う寄生虫。盗賊団のアジトが判明したことである。盗賊団の壊滅も、塩のコストを下げるために大切だ。ジュリアスは索敵隊の初仕事に、この盗賊団の監視を行いたいという。チームとしては盗賊団の壊滅と、ミックスの女性の救出を行うつもりだ。エルザやクルトの同意は既に得ている。女性のこととなると、一真が一枚かんでくる。
「サイスはこの女性に会っているんだよな。どんな感じ。リザードマンとケンタウロスのミックスって、想像つかない。足はどうなっているの」
ケンタウロスは足が4本、手が2本という人種である。敏捷で戦闘に長けているだけでなく、最近は身体の強健さを生かして海洋に進出している。リザードマンはトカゲ型の人種で、硬い鱗を持ち、身体能力が高い。誇り高い武人が多い。
「足も普通に2足歩行だし、言われてみれば面長かな。眼が大きいのがケンタウロスの血を引いているのかもしれない。一真の好きになりそうなタイプだった」
次の安息日、3日後にこの盗賊団を壊滅させ、捕らわれている獣人のミックスの女性を救出する予定だとジュリアスが言う。
これに食いついてきたのが、アンジェラだ。アンジェラは肉食系で、戦争が大好きなのだ。テッドは反対はしないが、索敵隊は情報収集だけにとどめるべきこと。盗賊団の命は取らず、奴隷に売ることを提案した。
テッドに反対する意見はなく、大まかな戦略が決定する。アンジェラが望んだのは、一真がアンジェラに憑依して、指揮をとることだ。劇場での憑依の経験はよほどアンジェラの気に入ったらしい。
索敵隊が遠巻きに監視。盗賊団壊滅メンバーは、一真(小次郎)、ジュリアス、サイス、ワイズ、アンジェラの5人。指揮はアンジェラに憑依した一真がとる。まずミックスの女性を救出したら、索敵隊は彼女をテッドのところに護送。
すべての戦いは情報戦だ。まず動いたのはサイスだ。ハルミナとピュリスの闇の情報屋から情報を集める。両方の情報を統合すると、盗賊団は総勢13人。頭目はケーセリーという男性で、何か怪しげなスキルで配下を統制しているらしい。精神支配系のスキルだろう。5万チコリと3万チコリ。情報は金を食う。
それでも貴重な情報が手に入った。頭目のスキルをあらかじめ奪つておこう。スキル強奪を使えば可能だ。それ以外にもめぼしいスキルはあらかじめ強奪しておけばいい。これは夜寝なくていいワイズか一真かな。サイスは念話で一真に情報を伝えた。
念話を受けた一真は、セバスから鑑定とスキル強奪を付与してもらい、ワイズと一緒にベガス村へ。ワイズがこの道をダンジョンの一部にしたので村へは簡単に転移できる。
ワイズの地図は完璧。村から2キロ離れた地点に、周りより2メートルくらい高い場所に、3軒の古い家が建っている。大きな棟は寮のようなものか。1軒家があり、その後ろは倉庫だ。既に薄暗い。一旦帰って深夜もう一度やってきた。
一軒家の前に見張りが立っている。ここにボスがいるというのが見え見えだ。ワイズが素早く吹き矢で倒す。殺してはいない、麻痺薬を塗ってあるので2時間くらい動けない。
鍵は見張りが持っていた。一真が鍵を奪い、ドアをわずかに開けて、忍び足で侵入する。ワイズがあとに続く。魔石の光なのか薄明るい。ワイズが魔道具をマジックバッグから取り出す。廊下の奥へ転がし、毒霧を発生させる。
霧の効果は睡眠だ。一真たちにはリリエスの苦いお茶で耐性がついている。盗賊たちは深く寝入っているので、不要かもしれないが念のためだ。霧が隙間から各部屋に行きわたる時間をとって気配を探る。
一番奥の部屋にボスは一人で寝ていた。40歳くらいの大きな男だ。ケンタウロスではなくヒューマンだった。ボスを鑑定してみる。能力値は平凡だが、呪縛というスキルを持っていた。スキル強奪でボスのスキルを奪う。今日の目的は達成だ。
隣の部屋には連れ去られた獣人の女性がいる。この際救出して、連れて行くことにした。一真がミックスの女性を鑑定してみた。
【名前】 リビー
【人種】 獣人ミックス
【年齢】 15歳
【状態】 呪縛
【HP】 70/85
【MP】 78/78
【攻撃力】 91
【防御力】 85
【知力】 91
【敏捷】 87
【器用さ】 59
【運】 10
【スキル】 魔法武器
とんでもない逸材だった。成人の平均能力値が50。2倍まではないが、相当高い。一真は寝ているリビーをまじまじと見た。エルザに匹敵する能力値だ。運だけが極端に低いが、身体的能力と知的、魔法的能力がバランスがとれている。しかもスキルが魔法武器。魔法剣士が有名だが、リビーはあらゆる武器に魔法をまとわせられるのだろう。
サイスは良いやつで、一真は尊敬しているが、人を見る目、特に女を見る目がない。一真の前世の基準で言えばリビーは絶世の美女だった。顔立ちは目が大きくエキゾチックな。身体は出るところが出ている。
素早く外に出て、ついでに見張りはそのまま連れて行く。一人につき一人なら一緒に転移できる。こうすれば見張りと獣人の女性が二人で逃げたと思い込むはずだ。
ベガス村まで移動し、ダンジョンに転移し、一真の部屋でしばらく待っていると、獣人の女性と見張りの男が目を覚ました。だが様子がおかしい。ただ戸惑うばかりだ。二人ともに質問に答える様子もない。毒霧の効果がまだ続いているのかもしれない。鑑定すると、ボスのかけた呪縛がまだ解けていない。
呪縛というスキルは奪った。遠くまで移動して、ボスの力はもう及ばない。それなのに鑑定では、状態が呪縛中になったままだ。呪縛を説く方法は一真にもワイズにも分からない。
セバスに聞いてみると、魔法とは違う系統の呪術というものだという。解呪しなくてはならないが、浄化のレベル2が必要だ。チームの中ではルミエが浄化レベル1を持っている。幸いルミエも眠らない子だ。
ルミエに頼んできてもらう。浄化のスクロールを読んでもらって、浄化レベル2にしてもらった。無事、解呪というスキルが芽生えた。頼んでさっそくリビーと見張りの男に使ってもらう。
とりあえず二人にはまた寝てもらった。もちろん別々の部屋で。出られないように鍵をかけてある。ワイズには今日の朝の狩を休んでもらって、盗賊団の監視に戻ってもらう。さてどうしようか。テッドの朝の朝食会までに決めないと。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます