第100話 ジンウエモン
Bar セバスを訪れているのはアリアだ。さすがに大人の雰囲気が漂う。数百歳。あるいはそれ以上か。定かではない。飲み物は最近愛飲している砂漠産のワインである。
「セバス。このワイン、砂漠のどこで作っているのかしら」
「どこかの修道院と聞いています。ゾルビデム商会から仕入れていますので詳しいことはそちらに聞いてもらえると」
「テッドはこのところ忙しいらしくて。あまり会えないのよ。今夜も一人ぼっち」
テッドはこのところ塩のコストを下げるのに夢中だ。それがセバートン王国を変えるかもしれない。恋は人生で一番大事なことだ。でも世界を変えるチャンスは、今しかない。優先順位はつけられないが、アリアと会う機会は間遠になっていた。
「ひとりは嫌いですか」
「嫌いじゃないけど、夜は昔のことを思い出してしまうから、紛らわしたくなるのよ」
「昼間は何をしているんですか」
「ケリーのお守り。糸と風魔法の訓練している」
「ケリーならお守りも楽しそうです」
「あんなにちっちゃいのに、私とおんなじ。7か月前に起きたことを思い出しては苦しんでいる。それを紛らわすために、真剣に生きるしかないの」
「今も夜は泣き叫ぶんですか」
「リリエスが良く知っている。私はそのときいないから」
「良く心が折れないですね」
「折れているわよ。折れているのをまたつなぐ。だけど両親が殺された時の映像は消えない。ケリーはまだその本当の意味を知らない」
「ジルですね」
「母親がひどいことされたとしか思っていない。妹まで殺されていたと分かった時」
「もう心をつなげない?」
「ケリーも悪魔になるかもしれない。でもそうならないように、私達が見守っている。ケリーも強くなるため頑張っている」
「けなげです」
「私もよ。私も心が折れるの」
「何かありましたか」
「あんたに聞きたかったの。30年前にリリエスが呪いかけられた時のこと。覚えているわよね。死の谷のダンジョンコア」
「忘れられません」
「ジンウエモン一人じゃなかったわよね。私もその場にいたんだけど、怖くてはっきり見えなかった。でもいたと思う」
「あれが誰かは私も知らないんです」
「でもいたのね。どんな外見だったか教えて欲しいわ」
「ガーゴイルでした」
「・・・ガーゴイルか。私はアラクネ。似合っているかもね」
「お知合いですか」
「向こうはもう私のことを忘れているわよ。自分が誰かさえ覚えちゃいないはず」
「長く封印されていました。死の谷のダンジョンの奥深くに」
「殺す方法がなかった。だから封印したんだと思う」
「その封印を解除したジンウエモンは相当な強さなんでしょうね」
「リッチ。悪魔の一種だけど、そこまで強力なリッチは聞いたことがない」
「でも10年前死んだ。そう聞いてますが」
「10年前、カナスで。でもどうやって、だれが殺したのかは分からない。むしろ死ねたことに感心する。良く死ねたなって」
「そうですね。なんか執着していることがかなえられた。そういうことあったんでしょうかね」
「こんどアリアスに行くことになって」
「おや、でも、ダンジョン転移使えば、いつでも来れますから」
「宮廷の最下級の雑用になるんだ。この歳で」
「アリアにしかできない事をしに行くんですね」
「そのガーゴイルがだれか確かめる。そして今、ガーゴイルを支配しているのがだれかもね」
「あの参考になるかどうかわからないんですけど、昔、ジンウエモンという名前を聞いたことがあるんです」
「教えて」
「同じ人かどうかわかりませんが、日本というところからの転生者でジンウエモンという人がいたらしいです。こちらの世界に日本刀や居合の術なんかを伝えたという話なんです」
「誰から聞いたの?聞いても無駄かな」
「200年くらい前なんで」
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