第99話 新しい生産工房

 ダンジョンコアのセバスからチーム全員に希望調査があった。ダンジョンの構造についての、最終希望を聞かれた。あと3日でダンジョンはリニューアルオープンとなる。アンジェラの2億チコリの予算はまだ余っている。もちろんそれ以後でもダンジョンの改変はできるが、この機会を逃す手はない。


 すでにワイズの薬師工房がある。一真の魔道具の工房もある。DPを使えばこの世界の最高峰の工房ができる。森の番人モーリー。木を愛するモーリーは木工工房を希望した。モーリーは森の銀狐のイスを作ってから、木工に目ざめたのである。製材から彫刻までなんでもできる木工工房が完成した。道具類も最高水準でそろっている。塗装までできる。


 一番すごいのはメートル法の曲尺だ。その他の定規類。ダンジョンマスターのエルザが、セバスを単位の支配者にしたので、チーム内ではすべて一真の前世の単位を採用することになった。単位の統一は時間にも及ぶ。チームの人間は念じれば秒単位で時間が分かる。そのうち時計の魔道具が開発されるだろう。


 モーリーとリリエス、ルミエ、ワイズは食品加工工房を希望した。モーリーは森の恵みを様々に活用している。モーリーは単なる干し肉ではなくて薫製に。あるいはハムやソーセージ、ベーコンにと、肉を様々に加工していた。保存性が上がると同時に、美味しくなる。


 今は冬だから活動していないが、来春からは大量の蜂蜜が採れる。それを瓶詰めする場所が必要だった。瓶も必要なのだが、ガラス瓶がダンジョンメニューで買えるのが便利だった。DPで買えるので、まとめ買いをした。


 他にはイチゴなどの木の実や草の実。干したり蜂蜜漬けにしたい。春にはカエデやシラカバからとれるシロップもある。木の実は乾燥したり、樹液は密閉して冷暗所に保存したかった。そういう場所も作ってもらえた。


 リリエスには血をソーセージに加工する場所が必要だった。それにドングリを粉にする施設も。どんぐりを粉するには手間がかかる。乾燥させて皮をむく。その後長時間川に漬けてあく抜きしていた。その工程が短縮される。一真の分解の魔道具のおかげである。そしてどんぐり粉のパンを発酵させ焼く窯がいる。パンを発酵させるとなれば、発酵を前世で研究していた一真の出番だが、彼にはまだ余裕がない。


 ルミエはジャムやクッキーを作ってみたい。ユグドラシルから与えられた千日の試練で苦しいルミエだ。たまには甘いもので癒されてもいいだろう。それにもっとおいしいお茶を作ってみたいのだ。エルフであるルミエは森の植物に詳しいから、きっと新しいハーブテーを作ることも可能だろう。


 ワイズが加わっているのは、タンポポコーヒーを作るためである。薬師であるワイズは、そちらでも作れるのだが、さびしいので食品加工工房にも顔を出すことにした。


 ジュリアスはアラクネのアリアから、布のすべてを教わった。そのジュリアスは布工房を希望した。製糸、機織り、染色、裁縫、刺繍、ボタン作りなど様々な工程が、最高水準の道具で準備された。染色に必要な清流さえ作ってくれたのである。


 布工房には特筆すべきものが2つある。1つはアリアからもらった糸の指輪。無制限にスパイダーシルクを吐き出し、糸巻に巻き取られる。もう一つリリエスが送ってくれたミスリルの織機がある。この織機は古代のアーティファクトだ。ディオニソスの神殿遺跡から出土した。神殿を復元をしているリリエスからの贈り物だ。


 ジュリアスが今取り組んでいるのは、ワイズのドレスだ。ワイズは高潔な13歳の少女である。三日後の第2国立劇場のこけら落としに来ていく服だ。2人分の礼服の仕立券は、一真とエルザに使った。ヴェイユ家に貢献しているクルトは招待されたが、パートナーがいなくて、エルザを連れていくことにした。


 ワイズのドレスは?一真はワイズの服装にこだわったのである。例の特殊な趣味である。一真はけっこうこじらせているのであった。一真は映像記憶を使って、前世の記憶を探し尽くした。一真が見つけたのは白いサリーである。


 念話がレベルアップして、イメージ共有ができるようになっている。ワイズに見せて了解を得た。といってもワイズの心は純白だから、一真を信じているだけだが。本当に純粋なワイズである。一真の傍で黒くならないでほしいものだ。


 下に着るのは白いスクール水着だ。これも一真の趣味である。痛い。しかしワイズが着ると神々しさが漂う。その上に白い5メートルほどの長方形の布を着る。それをスパイダーシルクで織っている。実にシンプルでワイズには良く似合う。


 リリエスは革細工工房を希望した。皮の剥ぎ取りから、鞣し、縫製、染色などあらゆる工程が可能になった。皮は大量にたまっていた。もともと得意なマジック・バッグ作りも、他のことにかまけて停止していた。作りたいものがたくさんある。


 皮は貴重な素材だ。バッグにも使われるが、靴も革製だ。ベルトなど衣類にも使われる。もちろん防具にも使われる。軽いので敏捷性重視の戦士には愛用されている。飛翔するワイズや一真、モーリーにはいいかもしれない。


 毛皮のコートやマフラーなどもこの世界では普及している。毛皮を使うのは富裕な奥様やお嬢様が多いが、リリエスは安くて実用的な貧者の毛皮を考案中である。手袋も作業用は皮製が好まれる。火を使う仕事には革製の手袋が欠かせない。塩を煮詰める仕事は火を使うので、需要が大きいのだ。


 今リリエスが注文を受けているのは、索敵隊のブーツである。敏捷性を付与して、しかも足音を立てないブーツ。作るのは可能だ。そして木登りしやすい手袋。頭を守る革帽子。


 参考になるのは一真の前世の記憶だ。念話のバージョンアップのおかげで、イメージの共有ができるようになった。それを見たリリエスにはアイデアが無限に湧いて来る。


 索敵隊がらみでは、DPでゴーレム馬を購入することができた。魔石で動く馬で、非生物なのでマジックバックに入れることができる。これを15頭購入した。リリエスは鞍や鐙などを革製で作ることになっている。もちろん様々な付与を与える予定である。


 最後にワイズが希望した。地図作製工房である。ワイズは1か月、新しいスキルである地中活動の訓練をしていた。一真が統合してくれた鷹の目と地中活動の視野を複合させて世界を見る。それがワイズの見ている世界である。これは地表だけを見ているのとは、かなり違った世界を見ることだ。そこから得られる情報は貴重だ。


 この情報を共有するには地図が一番いいとワイズは思う。新しい形式の地図だ。索敵隊と協力してピュリス周辺の正確な、新しい地図を作りたい。そう思ったワイズは自ら索敵隊に加入し、その一員として活動することにした。その成果は近い将来結果を出すに違いない。





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