第94話 Bar セバス
「バーテンさん。強いお酒お願いよ」
「エルザさん。スプリッツァーでよろしいですか」
「セバス。酔いたいのよ。今夜は」
「何か悩み事でも?」
「セバスのせいよ」
「心当たりはございませんが」
「なんで私に敬語使ってるの。そうやって私を遠ざけようとしているのね」
「そんなつもりは」
「私に隠しごとしているでしょう」
「言ってないことはあるかもしれないですが、それは聞かれないからで、隠しているわけではなくて」
「白状しなよ。こうした方がいいと思ったけど、私に言ってない事」
「えっと、朝の決まった時間に念話でアラームできます」
「やっぱり重要なこと隠していたわね。困っているのはそれよ。時間が曖昧なことなのよ。すべての単位の支配者に任命する。謹んで受けよ」
「すべての単位ですか。私はアラームだけのつもりで」
「断るっていうの」
「いえ、やらせていただきます」
「このカクテル強いわね。もう一杯」
「やめておいた方が」
「私は客じゃないっていうのかしら」
セバスは炭酸だけグラスに注いだ。ワインのソーダ割でここまで酔う人も珍しい。
「人化してよ」
「それは私のポリシーで」
「人化しないのなら私泣くわよ」
「わかりました。二人だけの秘密ということで」
妖艶な40代の女性がお店に現れた。
「エンプティーでーす。エルザ。悩み事聞いてあげるわ」
「ち、女かよ。まあいいか。投げ罠ができないのよ」
「投げ縄ですか。牛捕まえる」
「漫才じゃないのよ。投げ罠よ。遠隔罠の高速設置。それができなくて。いや落とし穴はできるのよ。それ以外が難しくてね。スキルちょうだいよ」
「それにぴったりはないですけど」
「けど?」
「投げダンはいかがでしょうか」
「何よ投げダンって。ダンが分からないわよ」
「投げダンジョンを略しました」
「略さなくても分からん」
「私を投げるんです。小さいほうの」
「あのポータブルダンジョンね」
「あれを投げると、そこにダンジョン入り口が開きます」
「そこへ誘い込むって。誰を?」
「敵ですね。味方誘い込んで、どうするんですか」
「いや一緒に飲もうって」
「それ別に罠かけなくても、普通に誘えばいだけじゃないですか」
「私、味方に嫌われてるから」
「それで敵を誘い込んで一緒に飲もうって?」
「敵と酒飲んでどうするのよ。私はそこまでさびしい女じゃなわよ。馬鹿にしないでよ」
「寂しい女も魅力的ですよ」
「私口説いてどうするつもりよ」
「敵を誘い込んで、飛ばすんですよ」
「どこへ」
「同盟ダンジョンのランダムな階層へ」
「悪知恵が働くおっさんだわね」
「一応女でーす。そもそもドライアドの同盟ダンジョンはそのために同盟しているわけなのよね」
「私ね。ダンジョン深層のモンスター孤独だと思うのよ。特にでかいダンジョン」
「なんでです?」
「最下層まで来る冒険者なんて、ヒック、いないんじゃないのかな」
「確かに」
「私は孤独が分かる女なのよ。投げダンしてあげようじゃない。孤独なモンスターを救うために」
「孤独が分かる女。大人の恋をする資格がありますよ。お嬢さん」
「まだ隠しているでしょ。白状しなさいよ」
「えっと、念話のレベルを上げることできますが」
「念話って、レベルあったんだ」
「レベル2になると、イメージの共有ができます」
「お願いよ・・・・」
「お客さん。ここで寝ないでくれますか」
「それ頼んだからね。セバス・・・」
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