第93話 ヒョットコ

 エルザは吸収というスキルを持っている。モンスターからスキルを奪うことができる。育成では重宝している。モンスターから奪ったスキルを、育成者に贈与できるからだ。


 カシム組や新兵、衛兵たちが強くなれたのもこのスキルのおかげだ。しかし吸収したスキルを無制限に育成者に分け与えるのはかえってその人を自滅させてしまう。よくわかってはいないが、スキルを無制限に持つことはできないようだ。したがって吸収しても使い道のないスキルがエルザにたまる。


 イエローハウスの老人が贈与してくれた能力やスキル。あるいはスキル強奪でクルトが奪ったスキル。スキルが余るという現象がチームに起きていた。これらを全部、スクロール化しておきたかった。捨てるのはもったいない。


 エルザが考えているのはスキルや能力をスクロール化してストックすることだ。ワイズはスクロールを管理してくれているが、ほとんどが死蔵されている。これを何とかしたい。それで困った時はセバスである。


「セバス。スキルをスクロール化することできる」


「今はできませんが、付与魔法のレベル7にしてくれれば可能です」


「ちょっと待って、セバスはスキル使えるっていうこと?」


「はい。すでに念話本部のスキルをもらって、活用していますが」


「そっか忘れていたわよ。今の時点で、他にどんなスキル使えるの?」


「コピーというスキルがあります」


「なんでもコピーできるの?」


「生き物は無理ですね。物質的なものはだいたいコピーできます」


「ちょっと、スクロールも物質だから、コピー可能なの」


「可能です」


「ずるいという意味でのチートそのものね。いまやチームはお金に不自由しなくて、スキルも簡単に手に入るんだ。これは人をダメにするやつだ」


「エルザ。それは質問ですか?」


「話し戻すけれど、魔法スキルを贈与すれば、セバスも魔法使えるということであってる」


「おおざっぱには合ってます。攻撃魔法はつかえないなど、細かい制約がいろいろあります」


「例えばリペアできる?」


「ダンジョン内にブツを持って来てくれれば可能です」


 エルザが自分の中にたまっているスキルを、スクロール化したのは言うまでもない。そしてストックにないスキルでチームの誰かが持っているスキルをセバスにリストアップさせた。リストアップされたスキルは、その人から贈与してもらう。スキルストックの充実は長期的課題である。


 こないだのスタンピードでゴブリンなんかが持っていた武器はまだリペアされていない。リリエス一人ではこなしきれていなのだ。エルザはにんまりする。全部セバスにやってもらえばいいのだ。


 死蔵されているスキルの活用も課題である。例えばドラゴンから吸収したファイアーブレスは貴重なスキルだが、死蔵されている。人間がこれを使うと自分を焼いてしまう。


 一真がこのスキルに挑む。面白半分だ。中二病がまだ治っていない一真である。このスキルを、ファイアーとブレスに分解する。これができるのが新たに一真が授かった分解・統合のスキルである。

 

 ファイアーはまだ使えないが、ブレスだけなら使えそうだ。ブレスを100分の1にして、ドラゴンブレス(小)というスキルを作った。試し打ちはワイズに頼む。


 ゴブリンなんかは一息で吹っ飛ぶ。ワイズの唇を尖らせた顔がヒョットコのようで可愛い。一真のオタク的知識では、ヒョットコは火を竹筒で吹く「火男」だ。一真は筒も作ってみた。と言っても、ダンジョンメニューから金属の筒を買っただけだが。


「一真。ここに矢を入れたらどうかな」


「ワイズ賢い。吹き矢になる」


「そういう武器あるんだ」


「前世で忍者が使っていた」


「忍者って暗殺者みたいな人?」


「まあ似ているかな。正面から勝負はしない。僕の理想の戦い方だ」


 吹き矢もダンジョンメニューにあって、一真はそれを買うだけで良かった。ドラゴンブレス(小)と組み合わせると、長弓より強力で、鎧を貫通する。軽くて携帯に便利。エルザにあげたら、ダンジョンのダーツの的で遊んで、的を壊していた。


 一真は毎日4時間、ダンジョンで吹き矢を練習し、2か月後吹き矢レベル1のスキルを獲得することになる。普通スキルは2か月では獲得できない。成長促進の指輪を使っても無理である。一真は夜間の8時間、自分はケリーかワイズに憑依して、小次郎に吹き矢だけを訓練させたのである。合計1日12時間。成長促進の指輪で経験値は2.3倍になる。


 吹き矢は索敵隊の標準装備に採用された。ドラゴンブレス(小)レベル1のスキルも全員に贈与された。さらに遅れてだが、吹き矢レベル1のスキルも贈与されることになる。ダンジョンの索敵訓練の階層に吹き矢訓練場が設置されたのは言うまでもない。


 索敵隊というのが一真のどこかにはまったようである。迷彩色の戦闘服を作ろうとした。ダメもとでダンジョンメニューを開けてみたら、なんとそこにいろいろな迷彩柄の戦闘服が売られていた。買いたい人の強い思いとはっきりしたイメージがあれば、再現して売ってくれるのかもしれない。それとも一真のような転生者が既に存在したのか。


 迷彩色の戦闘服を見たジュリアスが、食いついてしまった。美しいというのだ。アリアから習った技術を全部つぎ込んで、ジュリアスが義勇軍の制服を作った。しかも12種類。月替わりである。


 確かに季節により風景は変るから合理的ではある。そしてジュリアスの迷彩は本当の森の風景を写して美しかった。温度調節などの様々な効果が付与されているのは言うまでもない。ジュリアスにもオタク的何かが開花したようである。


 一真の快進撃というか、悪乗りは終わらない。たとえばワイズの地下活動というスキル。土の中をひたすら歩いていると、地中の地図が見えてくる。でもワイズは地上の地図と地下の地図がつながらなくて苦労していた。


 一真は地下活動のスキルに鷹の目のスキルを統合してしまった。確かにこうすれば地下を歩いているワイズに、地表での自分の位置が分かる。それだけでなく、ワイズの頭の中の地図が地中だけでなく、地表のものと連動し始めた。ワイズの脳内で世界は新たな姿を見せ始める。
















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