第90話 ワイズ
いきなり13歳になったワイズ。黒い経験はほとんどしないで、魔法的に成長しているので、心は穢れなく純粋なままだ。素直で疑うことを知らない。心の美しさが外面に現れている。黒目で黒髪なのは、一真の設定だ。でもワイズの神々しさは設定では出すことはできない。
地中活動という珍しいスキルが芽生えた。もともとアリ型モンスターでなので地中での活動は得意のはずなのだ。ただ人化してから土に入ったことがなく、ワイズは戸惑っている。この地中活動というスキルは人化したままで、地中を自由に歩き回れるというものなのだ。
特別な1か月はワイズにもやってきた。ワイズはチームの事務的仕事から解放された。念話本部の仕事はダンジョンコアのセバスがやってくれることになった。財産の管理やスケジュール管理、口座管理も全部やってくれる。それ以外のイエローハウスや孤児院の子供の育成も今はすべてお休みになっている。
エルザがくれた土魔法と合わせて、ワイズは自分の能力を研究中だ。 新しく生まれ出るために、楽しみながら、苦しい訓練を自分に課しているワイズである。指導者はリリエスだ。
でもリリエスほど人にものを教えることに向いていない人はいない。ほとんどワイズを放置。しかしワイズのような素直な子は教えると教えに縛られるので、放置は正しいのかもしれない。ひたすら地中を歩いている。地上や空中とは見えるものが違う。
地中での視界とは?障害物を感じるのである。視力の一種なのだろうか。それともソナーのようなものなのか。土の中の風景が見える。その風景?を絵画のように記憶していく。スキルのカード型記憶だ。そうすると、地中の地図のようなものが分かってくる。
時々地上に出て、地形を確認し、さらに飛翔して大きな地形を確認する。また地中に戻りひたすら歩く。このくり返し。ルートはリリエスの進行方向が基本。つまりピュリスの周辺をぐるりと回る。地中の地図と地表の地図が完全には接合しないのが、ワイズの悩みである。統合した地図がまだできない。
ケリーが帰ってきて一緒に夕食。楽しい団らんの時間だ。リリエスもケリーも13歳になったワイズにすぐ慣れてくれた。ケリーが寝てしまうと、ワイズはイエローハウスの地下にある新しいダンジョンに転移する。ワイズは転移階層は一真の研究室である。ワイズはほとんど寝ないので、1日の半分は薬師の訓練をしている。
まずダンジョンの二つの薬草園で必要な薬草を採取する。一般向けの薬草園と、一真とワイズしか入れない薬草園と二つある。特別な薬草園にはマンドラゴラのような危険な植物もある。マンドラゴラは土から引き抜くとき大きな声で叫ぶ。叫び声を聞いてしまうと気が狂うのだ。聴覚遮断の魔道具をつけないとこちらの薬草園には入れない。
今作っているのはポーションとMPポーションだ。ゴミ捨て場から拾ってきた本をリリエスがリペアしたものがある。その本には様々な薬のレシピが乗っていて、その最初の2つがポーションとMPポーションだった。
両方とも一応は作ることに成功し、チームのみんなには必要量を配布している。
まだ高品質のものは作れない。ポーションで言えばハイポーションやエリクサーが目標だが、とてもそこには到達できない。普通のポーションとMPポーションができるだけだ。それでもチーム内でこの二つを自給できることは大事なことだ。一真にそう言われてうれしかった。
「一真。私役に立っている?」
「すごい役に立っていると思う」
「どの辺?」
「きれいだから、見てて癒される」
「そういうことじゃなくて、チームの人とか、一真に役に立つと思われたいの」
「役に立つことは大事なことじゃない。ワイズがワイズらしく生きらればそれでいいのさ。きれいだから大人になるのが楽しみだ」
「ちょっと、一真。エッチなこと考えているんじゃないでしょうね」
一真から求められているのは、種類を増やすことだ。毒薬や麻痺毒、遅効性の毒薬などだ。マンドラゴラという植物を使えばできるらしい。一真の好きな、ちょっと黒い女になれば、そういう悪い薬もできるようになるのかな。大人の女のふりをして、黒い笑い方を練習するワイズであった。
研究室にある器具は、ダンジョンのメニューからDPで買う。冒険者ダンジョンのコアは仮死状態だったので、今まで最低限のことしかできなかったそうだ。死の谷のダンジョンコアが来てからいろいろ便利になった。名前はセバス。
メニューからの購入も、便利になったことのひとつだ。この世界で再現できるものなら、一真の前世にあったものも再現してくれる。本物ではなくて似たものが再現されることもある。それがこの研究室のビーカーや試験管、フラスコなどだ。市場で買うと高価だが、ガラスはこの世界にもある。
ダンジョンメニューで買うと、そんなに高くない。詳しい理由は分からない。もしかしたら一真以外に転生者がいて、実験器具は既に定番製品となっているのかもしれない。
電気製品はメニューにない。あたりまえだが。それから銃や火薬の近代兵器はない。再現可能な気もするが、何らかの制約があるのかもしれない。もし銃が再現されてメニューで買えたら、この世界の歴史が変わる。それは危険すぎるから制限されているとか。しかし制約があっても、便利であることは確か。
知っているものしか出ないので、ワイズが見ると種類は少ない。ワイズには物質的なもので欲しいものなどないのだ。一真が見るとたくさんメニューに現れる。ちなみにDPは1か月間はジェビック商会のアンジェラの支払いになって、無制限に使っていいと言われている。
一真の好きな前世のものが、メニューにたくさん出てくる。すべてこの世界で再現可能なものだ。食品やお菓子にワイズの目が輝く。できるなら自分で再現してみたい。薬のレシピ集にもあった、コーヒーを自分で作ってみた。タンポポの根を乾燥させて作る。ほろ苦い大人の味がした。
こっちの研究室に一真はあまり来ない。一真が今夢中になっているのは、新たに授かったスキル、分解・統合だ。あらゆるものを要素に分解し、統合するそうだ。要素の組み合わせを変えることで、新しいものを生み出せるって、一真は言う。ワイズには作ったものを見せてもらわないと、今一理解できないスキルだった。
ちなみにリリエスは普段と全く変わらず、森の手入れに忙しい。ワイズの新生に手を貸していることを覚えているかどうかは、かなり疑わしい。ただ結果的に13歳のワイズは、たくましく、そして素直に自分を鍛え上げているようである。
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