第84話 兆候発見
義勇軍索敵隊には8人しか残らなかった。それ以外の人は100万チコリもらって義勇軍の予備役になった。スタンピードのような非常事態になったら、城壁の上から攻撃するのには協力してくれることになった。
エルザもジュリアスもそれでいいと思う。ほとんどの人は常備軍の一部として、あてにされても困る人たちだ。社会人としてきちんと役割を果たしているか、果たし終えた人たちだから。それでも住民が戦争に参加する道を開いたピュリス義勇軍の意味は大きいとエルザは思う。
今大事なのは索敵部隊を育てることだ。とりあえずこちらの義勇軍の活動は1か月停止する。その間にエルザが訓練計画を立てる予定だ。新しいダンジョンの中に索敵用の階層を作り、城壁の外での訓練カリキュラムも作る。
ジュリアスの自殺盾の戦闘スタイルは変更になる。リリエスに連絡した。リリエスはどんな戦闘スタイルにも対応してくれると言ってくれた。リリエスの大雑把さが沁みる。
スケルトンのドロップが高額に売れたので、武器や防具だけでは余るからと、ミスリルの織機を送ってくれた。アリアからは一緒に糸の指輪が送られてきた。スパイダーシルクだけが出る、平和な糸の指輪だ。沁みすぎて泣く。
図書館の手伝いも、孤児院の子の訓練も無くなった。アリアもケリーの訓練で忙しくなったからアリアからの訓練もしばらくない。ジュリアスに残されたのは、早朝の市場の手伝いと、テッドの店の開店準備だけ。そのテッドから、1か月間の特別な仕事を依頼された。
毎日サエカを往復して、ピュリスとサエカ間の詳細な地図を作ることだ。マッピングという地図作りのスキルと、乗馬のスキルをもらった。1か月の給料は10万チコリ。時間は自由だ。貧しいジュリアスにはとてもありがたい。ジュリアスは母と妹の生活費も一部負担していた。妹を娼婦にはしたくなかった。
道路だけでなく、川も山も。特に重要なのは森や林の様子を詳しく。花や動物も。モンスターもダンジョンも。特に古代の遺跡とかないかはよく探すようにといわれた。帰ったらゾルビデム商会に寄ってその日の報告をするようにと。
一番大事なことを忘れていた、小さな袋と大まかな地図を渡された。地図は30等分されていて、それぞれの区画に数字が書かれていた。すべての地区の土の採取を指示された。テッドから、土の質を調べるのも、詳細地図作製と並んで大きな目的だと言われた。
ジュリアスにとっては、自分を斥候に鍛える絶好の機会だった。途中のダンジョンに潜ってモンスターを狩ってもいいし、薬草の採取もしていい。それらはジュリアスのものにしていいと言われた。売ってもいいし、肉はイエローハウスのみんなや、家族と食べてもいい。
市場の仕事は休まない。500チコリは貴重だ。それに朝6時までは暗い。早く出ても意味がないのだ。馬は最初ちょっと怖かったけれどすぐ慣れた。スキルは偉大だ。マッピングスキルも、自分がどうすればいいのか教えてくれる。
ケリーは乗馬はスキルではなく、経験でできるようになったみたいだ。テッドはケリーの育成には時間をかけて丁寧だが、自分はスキルを与えられて終わり。一瞬嫉妬の気持ちが起きたが、高価なスキルを与えられてそんなことを思った自分にジュリアスは驚いた。
チームに入る時もらったカード型記憶は、風景をそのまま記憶できる。今回の仕事にぴったりなスキルだった。それにマジックバッグも持っている。途中でモンスターをたくさん倒しても、これに入れれば大丈夫。恵まれすぎている自分に慢心してはいけないと、気を引き締めるジュリアス。
天候にも恵まれて楽しい小旅行の毎日だった。夕方4時には報告も終えて、イエローハウスに帰る。この頃ルミエが家にいないので、ジュリアスが獲ってきたモンスターを、庭で血抜きして、スープにする。最後の味付けは料理上手のルミエにしてもらうけどね。この頃モーリーが夕食を一緒に食べるので、量は多めに。
ルミエは昼間モーリーと過ごしている。老人たちの世話のない1か月は、ルミエにとっても自分を変えるチャンスなのだろう。サイスは王都アリアスに行っていて、1か月帰ってこない。クルトのところに弟子入りしているようだ。みんな頑張っている。
ジュリアスは、夕食後、新しいダンジョンに潜る。水魔法のレベルをあげたかったし、レイピアの練習もしたかった。それにエルザが作ってくれた斥候のための索敵訓練の階層もあった。残ってくれた義勇軍8人のためにも、隊長として成長しておきたかった。
特別な1か月もあと1週間となったある日。海辺の町サエカとの間の、地図を作る作業はほぼ完成に近づいていた。残されている地点のひとつ、サエカ東の2キロ地点へ向っていた。暗い森で、土が少し軟らかいような気がしていた。
小川の辺で火が燃えていた。焚火の跡もないのに。ジュリアスのスキル、兆候発見が反応している。だが何があるのか分からない。分からないまま、水をかけ、足で踏みつぶして火を消した。山火事になることはないだろう。
土を採取して袋に入れ、今日の仕事はほぼ終了。ジュリアスは後ろ髪を引かれる思いで帰路に就く。帰りは塩作りの現場でも見て帰ろう。テッドのゾルビデム商会は、サエカ近郊で海水から塩を作る事業をしている。それにしても、兆候発見は何を告げていたのだろう。ジュリアスはいぶかしんだ。
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