第82話 索敵隊

 建て替えの1か月の間、冒険者ギルドは違うところに移転した。図書館は休館になった。サイスは何もすることがない。義勇軍に加盟したので、エルザによる2日間の育成を受けることになった。


 育成の時には能力値を補正している。10歳なのでジュリアスと同じでいいだろうとエルザは考える。能力は最低40に底上げ。知力がもともと高いので60。5年後の成人までは、何もしなくても1年に3ぐらい能力は伸びるので、最低でも55,知力は75にはなる。それ以上伸びるかは本人の努力次第だ。


 そんなころアンジェラがエルザのもとにやってきた。あらかじめジュリアスも呼んでおいてくれということだった。


「エルザはちょっと聞くだけにして。索敵隊になってほしいのよ。ジュリアス」


「私がですか。索敵隊って何でしょう」


「プリム義勇軍作ったんだけど、ジェビック商会の護衛から、手練れ50人集めたから、義勇軍の方が領主軍より強くなった」


「プリムって領主の娘ですね。索敵隊はどうなったんですか。ついていけないです。私、馬鹿ですか」


「今のヴェイユ家のピュリスの軍隊は正規兵110。衛兵20。しかも魔導士はほとんどいない。端的に言って弱い」


「えっと。アンジェラ」


「サエカの兵を集めても弱すぎ。それで私の最強の義勇軍が意味があるわけ。で索敵隊なんだけど」


「ちょっと待ってください。プリムが新しい義勇軍を作って、アンジェラが強い兵隊集めたのは分かりました」


「50人以上増やすことも可能なんだけど、増やしすぎると、他国を刺激する。そこで索敵隊、この名前が嫌なら、伝令隊でもいいんだが、どっちにする?」


「今の義勇軍はどうなるんですか」


「ひとり100万チコリ。それで手を打ってほしい。この機会に引退してもいいし、斥候として訓練し直してもいい。良い話しだろ」


「みんなに聞いてみないと」


「ここからはエルザに向けて話す。残った索敵隊の育成を頼みたい。まず伝令が欲しい。馬は新しい義勇軍が育てるから、いつでも自由に使えるようにしておく」


「ジュリアスがそう決めたら、協力はする。テッドはどう言っているの?」


「エルザには冒険者として1カ月の指名依頼している。育成に専念できるように。それとテッドと私は夫婦だって知らなかったかな?」


「「え!」」


「答えは明日まで」


 美しい黒い笑顔でアンジェラは颯爽と去って行った。背の高い後姿が躍動している。お尻が見事に張っているなとエルザは思っていた。アンジェラの話はいつも分かりづらい。意外な話の連続で、エルザとジュリアスは二人ともしばらくボーとしている。


 確かにピュリスの防衛力は高くない。冒険者の協力を得たとしても、兵力は300人いない。先日のスタンピードに勝てたのは、王都から来ていた超一流の冒険者パーティーがいたからだ。


 だからアンジェラの集めた精鋭50人は心強い。それに天才アンジェラがこんなに急に動いたのは、実際にピュリスが攻撃される可能性があるからだろう。エルザにはピュリスが危機に直面しているようには見えなかった。むしろ平和で活気がみなぎっていると感じていた。だが多分アンジェラが正しいとエルザは思う。アンジェラは天才なのだ。


 テッドとアンジェラは商売敵なのに、夫婦だったんだというショックは大きい。だが、女二人でそのの話になると、話は終わらなくなる。だからそこは避けて話す二人だった。


 たしかに今のピュリスの戦力には、魔導士部隊が足りない。冒険者にはいるが、領主軍には魔導士はいないはずだ。アンジェラの指摘は正しい。義勇軍という名目で腕利きの魔導士を集めたのなら、弱点は補強された。


 索敵は冒険者パーティーにシーフが8人いる。彼等は冒険者であって、普段からピュリス周辺の索敵をしているわけではない。もしピュリスがどこかから攻撃されたら、不意を打たれる可能性がある。スタンピードの時も勝てたのは十分時間があって対策できたからだった。不意打ちされたらモンスターに負けていた。


 もし他国が攻めてきたら、やはり完全に不意打ちされたら負ける。もし前日に気がついて、閉門して籠城に持ち込んでも、耐えられるのは敵が千人以下の場合だろう。セバートン王国は国王の力は弱い。領主が勝手に領地を支配しているので、内戦は普通に起きる。傭兵団も多く、内戦の時は彼等に頼ることになる。不意を打たれたら、それもできない。


 テッドも義勇軍を索敵隊にするのに賛成。義勇軍はテッドのゾルビデム商会の後援で成り立っている。そしてテッドの妻天才アンジェラ。アンジェラは領主の長男ダレンの意向を受けて動いている。


「エルザ、私この話受けようと思う。正直義勇軍には戦いに向かない人がけっこういるのよ。忙しい人もいるし、高齢の人もいる。100万チコリもらって義勇軍を引退できたらうれしいと思う」


「ジュリアスは悔しくないの。義勇軍という名前取られてしまうんだよ」


「貧乏人は名誉なんか無縁だから。エルザには分かるでしょ。それに伝令や斥候はやってみたかったしね。私の授かったスキル兆候発見だから、役に立つかもしれないし」


「ジュリアスが決断したら、みんなついて来ると思う。それじゃ、育成はまかして。それとジュリアスとサイスを私たちのチームに招きたいと思う。みんなの同意は得ている。あなた達次第」


「なんとなくわかっていたけれど、チームのこと、説明してもらえる。エルザ」


「ケリーと(その中にいた一真)、エルフのルミエの二人は同じ日に、4人組の誘拐団にさらわれた。ケリーの両親だけでなく、サエカ村は殺され焼かれて、全滅した。その二人の復讐に協力するのがチームの目的。ただサイスとジュリアスには復讐自体には参加させない」


「チームに入るなら、復讐まできっちりやりたい」


「チームには協力者として入ってもらいたいの。孤児院の子やスラムの子には、本当は冒険者にもなってほしくないの。そういう血なまぐさい連鎖は断ち切りたい。決行は5年後よ。ケリー10歳。ルミエ15歳。十分強くなっていると思う」


「私たちも15歳だ」


「成人の時にまっさらで、社会に羽ばたいてほしいのよ。どうしても復讐にまで参加するというなら、チームには参加させない」


「わかった。それでいい」


「それじゃ、念話のスキルと、ダンジョン転移、マジックバッグと成長促進の指輪をあげるわ」


「えっと、エルザ。意味わからないんですけど」

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