第81話 一真の気ままな生活
身体を得て自立した一真。サイスの図書館の本を書ききったら、やらなければならない日課は何もない。新しいダンジョンに自分の部屋と研究室を作ってもらったので、そこで気ままにしている。
一真は自分の部屋に満足している。前世と同じくらい快適だ。ダンジョンコアのセバスが、パソコンとテレビとミサイル以外の要望にはだいたい応えてくれた。電気器具がないのは知っている。パソコンとかは言ってみただけだ。それに表計算はもうスキルになって使っている。
声でコントロールできる照明。快適なエアコン。ふかふかのカーペット。ソファー。スプリングのちょうど良いベッド。プールと乗馬のできるトレーニングルーム。殺戮を楽しめるダンジョン。源泉かけ流し温泉。冷たいコーヒー牛乳か炭酸。
「セバス。トレーニングルームと温泉にサウナ作って」
「はっきりイメージしてくれれば、再現可能です」
頭の中で前世で行ったサウナを思い浮かべる。どうせ作るのだから、薬草の蒸し風呂と水風呂と白樺の枝で肌を叩くロシア式の施設もつけて。
リリエスのところに行ってみた。
「リリエス。人殺したことあるの?」
「一真か。アリアスでヤクザの親分殺したってね。人殺しか。私はあんまりない。殺すより半殺しにして、奴隷に売るから。殺したのは100人以下かな。手加減に失敗して」
「普通の人は、人殺したらだめだっていうけどどうしてかな」
「考えたことなかった。でも人を殺さないやつは、誰かに代わりに人を殺してもらっているんだ。肉食べるのに、動物を代わりに殺してもらうみたいに。そういうやつは顔が汚くなるんだよ。エルフは人を殺す覚悟があるし、殺される覚悟もある。だからきれいなんだよ。リリエスもね。私もきれいだよね。一真」
「アリア、人殺したことあるの?」
「神なら殺したことあるけど」
アリアはディオニオスの神獣だから、基準が違いすぎて、かみ合わない。アリアも人を殺したことはある。それも一真の目の前で。ワイズがまだ小さいアリ型モンスターだった頃、みんなで盗賊を皆殺しにした。アリアは忘れているというか、当たり前すぎて人を殺したのを記憶していない。
「エルザ。人を殺したことある?」
「私はない。まだね。盗賊は殺したことがあるけど」
「普通、人を殺したらいけないっていうけど、どうしてかな」
「昔は誰でも人を殺して良かったんだ」
「どっかで人を殺したら駄目になったということ」
「約束したんだ。すごい昔。人を殺せるのは王様だけだって、王様は自分でやらなくて、家臣に命令するだけだけど。それ以外の国民は暴力をふるってはいけないという約束ね。その方が安心して生きていけると思う人が増えて」
「でも僕たちみんな人を殺しているよね」
「初めて人を殺して嫌だった?」
「ゴブリンと同じかな。命を奪うのは」
「そんなもんだ。戦争が始まれば、人を殺したら王様から褒められるし」
「昔は誰でも人殺しても良かったら、殺し合って地獄みたいだったのかな」
一真は前世の学校で、「人が人に対してオオカミである」とか「万人の万人に対す戦い」とか、習ったことがあった。
「そんなわけはない。エルフは今でも国家を作らないで、一人一人が人を殺してもいいけど、エルフ同士が殺し合ったなんて聞いたことないし」
一真は自分が人を殺すことを何とも思っていないことに戸惑っていた。前世では人殺しは大罪だった。バジェットを殺したのに、自分は罪の意識がない。それは異常なのかと。
一真がためらったのは、室内で小便をしたことの方だ。トイレトレーニングを無視する方が、心理的に抵抗があった。室内で小便をすることで、一真は自分の中の何かを壊したのだった。
人を殺したのに罪の意識がないこと。なんとなく整理はついた。イエローハウスにいる老人を、楽しみのために殺すのは駄目だ。殺したり殺される方の世界にいる人間、極道のバジェットなどは、殺しても問題はない。それは自分が殺されてもしょうがないということだ。
ただバジェットの殺し方には後悔がある。殺し方が一真の美学に反していた。鋼糸はやっぱり違う。みんなが見ている場での殺人は、一種の儀式であって、美しくなければならない。やっぱり剣だ。剣での戦いしかない。それならジンメルの居合がカッコよかった。チームの中には日本刀を欲しがる人はいないし、チームの誰とも被らないから、侍系に自分を育ててみたいと思う一真だった。
それにケリーから受け継いだ攻撃魔法は火魔法だが、火魔法は一般的過ぎて魅力がない。ゲームにはまっていた一真は闇魔法か、氷魔法のようなマニアックな魔法が欲しかった、あとで交換してもらおう。エルザとセバスに相談してみよう。
でもそれ以前にやりたいことがある。新しくもらった分解・統合のスキルだ。今、考えているのは、ドラゴンのファイアーブレス。強力すぎて、人間には使えないスキルだ。スクロールのストックに死蔵されている。
分解したらどうだろう。ファイアーとブレスに分ける。さらにブレスを100分の1に分解したら、人間でも使えるようになるのでは。フッと息を吐けば、100メートル先のオークが飛んでいくのではないだろうか。
エルザは転生者の自分のことを見直していると一真は思っていた。ダンジョンづくりに貢献しているし、これを成功させたら、ますます自分を尊敬すると一真は思う。調子に乗っている一真だった。前世で友達はいなかったから、人付き合いのコツのようなものが身についていないのだ。
偉そうなことを言っている一真だが、夜になるとさびしくなる。ワイズに憑依させてもらって和む。ケリーに憑依させてもらって、リリエスに抱かれて、甘ったれる13歳の一真。本当は24歳+5歳であった。
リリエスに甘えている間も、身体は小次郎に任せてダンジョンを周回させている。ちゃっかりレベリングだ。ワイズがあきれている。一真が好き放題していると、ワイズは小次郎に取られるかもしれない。小次郎は無駄に性格も外見もいいから。一真がそういう風に作った。
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