第79話 一真と小次郎

 ワイズが進化の実を食べた。アリ型モンスターが一体増えた。人格は一真の希望で、ケリーとワイズとサイスを合成したものになった。一真は密かにサイスを尊敬していた。サイスは不遇なのに、自分を信じ成り上がっていく。自分だけでなく、ジュリアスのような、貧しい子達も引き上げながら。


 自分を肯定できず、他人を思いやる余裕のない一真には、サイスは密かに尊敬する人物だった。ケリーのひたむきさも好きだ。ワイズの素直さも自分にないものだった。この人格に小次郎と命名した。アリアスでバジェットを殺した時の名前だ。自分が他の誰かに憑依した時や、一人で閉じこもりたい時は、身体を小次郎に任す。


 一真の人格は小次郎に憑依し、統合される。小次郎は人工的な人格だから、それに憑依し一体化するのは、魂の殺人ではない。一真にはケリーの時のようなためらいはなく、すんなり新しい人格と一体化することができた。それでも小次郎という人格も存在させておく。自分の中に閉じこもって研究したり、小説を書いたりもできるので、それも心地よかった。それにこれをすると3重思考の状態になる。


 能力値はエルザと相談して、一真が決める。最低が成人の平均である50。それ以外もケリーが頑張っていたことを尊重することに。スクロールを使っていくらでも上げられるが、それをやると自滅するというのがみんなの意見だ。


 ケリーは魔力と知力が高いので、それを受け継いで、魔力は95,知力は91に設定した。ケリーが8年後に到達しそうな能力値だ。成人までは自然にまだ伸びる。そして努力次第でも伸びる。一真は新しい体を与えられて、自分を鍛えると決意していた。前世を通じても初めて本気になった。


 転生の時に女神から与えられた映像記憶や、並列思考、異言語理解などもきちんと受け継いだ。糸術や絵画などのケリーと共有していたスキルもすべて受け継いだ。ケリーにもこれらは残ったので問題はない。アリ型モンスターとしてネストと飛翔という固有スキルも持っている。


 さらに転生の女神は、異世界で持っていた能力をちょうど良いタイミングで与えることにしていたらしく、分解・統合というユニークスキルを一真に与えてくれた。このスキルは前世で科学に志していた一真の力らしい。


 一真は外見にこだわる。前世では地味系であることに、必要以上にコンプレックスを抱いていた。どんな外見でも思いのままなのだ。13歳の中性的で、素晴らしくイケメンの男性になった。実は前世の一真とよく似ているのだが、一真は気づいていない。ケリーからワイズを譲ってもらって自分の従魔にした。 


 ワイズは13歳の黒目黒髪の少女になった。知的だがスポーツでも鍛えている女性という感じ。一真が従魔から解放しようと言ったが、それはワイズが断った。ワイズは一真と特別なつながりが欲しかった。


 ワイズの能力値は一真と同程度。スキルは地中活動が発現した。年齢が8歳上がったのに伴うことだと思われる。エルザは土魔法のスキルを与えてくれた。これでワイズのスキルは、種族のスキルのネスト、飛翔、地中活動レベル1、人化。攻撃スキルは弓技レベル2、土魔法レベル1。生産スキルは薬師レベル2。それ以外には念話本部、表計算、カード型記憶となった。


 カズマもワイズもFランクの冒険者として冒険者ギルドに登録された。ついでに小次郎も。小次郎単体でも冒険者として活動できる。小次郎が出現するのは、一真のいない時なので、能力値やスキルは一真と同じだ。13歳だから本当はGランクから始まるのだが、ギルド職員のエルザが上手くやってくれた。


 一真がまずやったのは、カシムの図書館で記憶した本をもとに、何冊かの本を書いたことだ。禁断の恋愛話を集めて、架空の男性の恋と性の遍歴の物語を書いた。一真がイメージしていたのは前世の『源氏物語』マンガで読んだことがある。


 次が極道たちが書いたほら話の集大成。スラムの子が勇者に成り上がる物語。これはカシム組の底辺の極道たちの切実な願いだった。一真にとっても身近な話だったから、すいすい書けた。前世のラノベからパクりまくって、ざまあ要素もたっぷり入れた。


 エルザをテーマにしたものを集めて、『女冒険者エリンの冒険』。カシム組は全員エルザによって育成されていた。エルザは尊敬すべき姉御であり、かつ巨乳なのでで妄想の対象になりやすいタイプだ。これもエロ要素をたっぷり盛り込んだ物語になった。名前はエリンに変えてある。ばれたら怖い。


 ピュリスでのスタンピードの話は、真面目な話とほら話と2種類。カシム組が書いたのはほとんどほら話。しかしスタンピードの指揮を執った一真としては、真面目な話も残しておきたかった。


 子供向けの民話集。これは『グリム童話』を混ぜておいた。料理のレシピ本には前世の料理レシピを追加しておく。カシム図書館の便所の落書きに近い本は、立派な文学や実用書になった。どれもピュリスの図書館で人気本になった。ただ後世の評価はカシムのクズ本の方が高い。

 

 サイスの図書館では、一気に蔵書が増えて盛り上がった。ピュリスの第5学校の教科書絵入り版も、全種類をそろえた。これは学生に大人気。狐獣人の子ジュリアスも、図書館の手伝いの時間にはこれを写本していた。写本しながら内容を理解していく。学校に行ける身分ではないが、こうして学校に行ったのと同等の知識を手にに入れることができる。


 それは一真やサイスやワイズも同じだった。この世界の知識は、成人となる15歳までには身につけておきたかった。絵の入った教科書のおかげで、学校に行けない貧しい子や、身分の低い子も、知識を得ることができた。

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