第68話 ダレンの野望?
ジェビック商会のピュリス支店長アンジェラは、領主の長男ダレンに呼び出された。ダレン18歳。王都アリアスに滞在する父に代わって、ピュリスの内政を担当するようになった。スタンピードの時、負けて有名になった。ゴーレムに武器を与えた人物である。領民の賛否は割れている。意気地なしか。仁慈の貴族か。
ダレンの依頼は、ピュリス近郊のサエカへ向かう川沿いに、100人規模の新都市を作る事。サエカと同じ客家方式なら、簡単にできるだろう。もちろん100人の都市を命じられて、本当に100人都市を作るほどアンジェラは馬鹿ではない。その100倍?そのくらいはできる。
さらにそこの川港とサエカ間の定期航路を作ってくれといわれた。これもジェビック商会ならたやすい。ジェビック商会は船を用いる貿易商だから。ピュリスでは奴隷商だが、それは過去のピュリスがただの辺境だったからだ。
定期航路の話は内部ですでに検討していた。ジェビック商会は近いうちにセバートン西部のリングルやカナスと、東部のサエカとの定期航路を開設する。その関係で、一応補助的な工事として、川を使ったカナスとの連絡は必要という結論だった。
それはサエカが港町として、ピュリスと並ぶほど繁栄する未来を前提としていた。サエカを領地とするだろう次男アデル。ジェビック商会は彼に命運を賭けようとしていた。
世界的な貿易商ジェビック商会が、港町サエカを拠点とすれば、次男の支配するサエカが、長男の支配するピュリスを逆転することも可能だ。いや必ず逆転しただろう。将来は神聖クロエッシエル教皇国との貿易も、視野に入れているのだから。
長男ダレンは、このタイミングで、ピュリスの近郊新都市建設をジェビック商会に命じてきた。そこが大規模な川港を持つことになれば、カナスへの定期航路の発着都市はピュリスとなり、サエカの発展は抑制される。今から弟の権力の芽を摘んでおこうということだ。なかなかの慧眼だった。
近郊新都市は妹プリムのものにするという。名前はプリムスポリス。プリムはスタンピードで、遊撃隊として活躍している。その遊撃隊が拠点とした場所が、新都市のあたりだ。確かにこの新都市ができれば、遊撃隊の拠点として使える。サエカの援軍をここに運べばいい。経済的にも軍事的にもよく考えられている案だ。アンジェラは舌を巻いた。
それと同時にジェビック商会のピュリス支店にスパイがいると確信した。もしスパイがいなくて、情勢だけで判断しているなら、この青年は敵に回したら恐ろしい。
もう一つの頼み事は、冒険者ギルドの建て替えだった。確かにそういう時期に来ていた。しかし単純な建て替えではなかった。劇場を併設してほしいというのだ。ピュリスが将来繁栄すると予測すれば、恩を売っても元は取れる。どこまで本気なのか。それが問題だ。
地方都市が王都にかなわないのが、文化面であり、特に劇場が存在しない事だった。人口5万人では劇場は成り立たない。しかしサエカが発展し、さらに新都市プリムスポリス建設で、一帯の人口が10万人に増加したら、採算は取れる。サエカは今は100人の寒村に近いが、すぐに3万にはなる。そして新たな近郊都市が2万。合計で10万だ。東北の辺境都市ピュリスが、王都に匹敵する力を持つことを意味する。
そうなればヴェイユ家は念願の辺境伯に任命されるだろう。ヴェイユ家の位置は、辺境伯となってもおかしくない場所にある。セバートン王国の東の国境にあるのだ。辺境伯になれないのは、すでに辺境伯であるカナス辺境伯が邪魔をしているからだ。もしヴェイユ家が辺境伯になったら、少なくとも兵士2千人は派遣される。
アンジェラは面白いと思った。サラリーマン支店長に過ぎないが、ジェビック商会は自由裁量が許される気風だった。絡めるなら絡んでみたい。それにこのダレンが面白かった。スタンピードの最後の見せ場で負けたのはわざとだろう。若いのに、切れる男だ。
「ちなみにですが、ゾルビデム商会にはどのような役割をお与えになりました」
「4つの村に城壁を作ってもらう。地元の商人も協力してだが。ピュリスには、結界士はいないから、スタンピードの時に村を守れない。村を守るだけでなく。城壁の角に門を新設して、角になってさびれている4地域を活性化してもらおうと思っている。特にスラムを無くすつもりだ」
「それだけですか」
「あとは競馬をやってもらう。競馬が始まったら、ジェビック商会も出場してくれるとうれしい」
アンジェラは空怖ろしくなった。4つの村はピュリスの城壁の、4つの角の外部にある。ここに城壁を作ると出城になって、門を攻める敵を横から狙撃できる。軍事的にピュリスの防御力を飛躍的に強化できるだけでなく、村を保護することで農業人口が増え、農産物を増産できる。
「アンジェラ、別件だが、僕はプリムが可愛くてしょうがなくてね。プリムが自分も義勇軍を持ちたがっているんだ。どうしたらいいかな」
「ダレン様。ジェビック商会にお任せください」
うまいやり方だ。今の義勇軍はゾルビデム商会のテッドが支援している。ジェビック商会が関与して新しい義勇軍を作れば、負けるわけにはいかない。規模は50人前後になってしまうだろう。目立たなく軍事力を増強しようというのだ。
それに競馬。単なる遊びではない。馬の数を増やすことも、軍事力の増強になる。ジェビック商会は次男アデルから、長男ダレンに乗り換えることにした。
カナス辺境伯は不愉快だろう。反カナス派はピュリスを抱きこもうとする。この情報をつかんでいるのは私が最初だ。踊れというなら、見事に踊り切って見せよう。
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