第67話 自殺盾
ゾルビデム商会のテッドが、義勇軍を援助してくれることになった。店で売れ残った武器や防具を、義勇軍に寄付してくれた。さらにエルザによる育成費用を出してくれた。
それだけではない。テッドはジュリアスを、義勇軍隊長として月5万チコリで雇ってくれた。スラムの狐獣人の娼婦の子で、謎スキル兆候発見しか得られなかったジュリアスに就職先などなく、貴重な救いの手だった。
スタンピードの時、エルザは忙しく城壁を出入りしたので、ジュリアスに指揮スキルを与えて、臨時の副隊長にしていた。義勇軍の大人たちも子供の指揮を嫌がらずに受け入れてくれていた。エルザは冒険者ギルドの正規の職員だから、隊長は無理だ。ジュリアスが隊長になるのは自然なことだった。10歳児に月5万チコリも安すぎるとは言えない。
義勇軍の28人が、育成のために仕事を休む時も、テッドはその分の賃金も補償してくれた。4名ずつ7班十四日。隊長としてすべてにジュリアスも付く。
エルザとよく似た生い立ちのジュリアス。他人事には思えなかった。ジュリアにイエローハウスに一緒に住もうと誘ったら、喜んできてくれた。手の空いたときに老人の世話をしてくれる条件で、食事つき月1万チコリの家賃。部屋はたくさん空いている。ルミエは深夜いないから、夜いる人が一人増えるだけでもエルザは心強い。
ジュリアスの能力の補充をどこまでするか。10歳の子に、成人並みの50は高すぎる。しかし隊長の能力が団員よりもひどく低いわけにもいかない。10歳の子の能力平均値は30なのだ。エルザは悩む。ジュリアスは知力と敏捷が高い、エルザと同じ能力特性だった。それを生かすとして、能力の最低は40。知力と敏捷は両方50にした。
15歳までは1年に3ポイントくらい上がるので、5年後の成人の時には最低は55、知力と敏捷は65になる。ジュリアスは読み書き計算もできるし、かなりいい人材に育つはずだとエルザは予測している。
スキルは今のところ兆候発見というものと、スタンピードの時にあげた指揮を持っている。育成の中で希望を聞いて、武技と魔法のスキルを1つずつ贈与してあげたい。エルザは甘すぎないと思う。ジュリアスの逆境を思えば、それで妥当だと思った。
9歳のルミエにとって、ジュリアスは孤児院の子供たちと一緒に戦ったり、字や計算お勉強をしてきた友達だ。一緒に暮らせるのはうれしかった。ジュリアスは10歳だから歳も近い。それに今の生活では老人たちだけになる時間帯があった。ルミエが孤児たちの訓練につきあい、市場で買い物をする夕方の時間だ。今まで特に事故もなかった。でも誰かが傍にいたほうがいいのは確かだ。
ジュリアスが選んだ戦闘スタイルは、軽い盾とレイピアだ。隊長としてみんなを守るという決意。だがタンクになるには体と力がない。敏捷を生かして、自ら攻撃にあたりに行くタンク。自称して自殺タンク。そんなスタイルが成り立つだろうか。ジュリアスが言うには、味方に当たりそうな攻撃は、敵が動き出した瞬間に分かるのだという。
義勇軍と一緒にまわるのは、弱いモンスターしか出ない階層なので、育成期間中は、自殺盾でも問題はなかった。エルザの贈与で、水魔法を使えるようになったので、兆候発見で攻撃阻止もできている。水魔法は鍛えるとキュアという回復スキルも使えるようになる。頑張ってほしいエルザであった。キュアを老人たちに使ってもらえると助かる。
育成終了後のジュリアスの生活は忙しい。朝5時から1時間、市場を手伝う。500チコリとクズ野菜をもらう。6時からテッドのところで朝食の世話。その後開店準備を手伝っている。これはテッドによる育成の一環だった。一流の商人の薫陶を受けるのは貴重な経験だ。
9時からは冒険者ギルドで、ケリーの訓練に付き合って1時間。指導者はエルザ。主に気配を断つ訓練。10時からは図書館の手伝い2時間半。その間にサイスはテッドと昼食をとる。テッドはケリーだけでなく、本気でジュリアスとサイスを育てようとしている。図書館にいる間に、本を読んだり、テッドから学んだことを復習したりするジュリアス。
12時30分から16時までは、冒険者ギルドのダンジョンで訓練。アリアが訓練に付き合ってくれる。14時からはワイズも参加。15時にアリアは帰って、孤児院の子たちと訓練と勉強。ジュリアスはここでは先生役だ。16時にイエローハウスに帰る。入れ替わりにルミエが市場へ買い物へ行く。
老人たちの世話をしていると、ルミエが帰ってきて夕食になる。エルザも一緒だ。夕食後は義勇軍のメンバー数人と冒険者ダンジョンで1時間訓練。ここでは隊長として指揮を執る。ダンジョンでの訓練は全部で5時間くらいだ。ジュリアの様々な能力が育成されている。
1か月5万チコリのうち、1万チコリを家賃に払った後は、4万チコリを母への仕送りに当てている。市場の手伝いとダンジョンで稼いだ分だけがジュリアスの自由になるお金だ。使い切れないので貯金している。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます