第61話 戦いは情報戦

 翌日の朝。ケリーからクルトへの念話。朝7時。


「動き出した。ゴブリンがたくさん」


 クルト(と憑依している一真)は計算する。ピュリスまで約20キロ。今までのスタンピードのデータから、モンスターは時速3キロで進むから7時間後に着く。午後の2時だ。各所に連絡。いい時間だ。城内は万全の態勢でモンスターを迎えられる。それまでリラックスだ。


 1時間しないうちにピラリでの狙撃が始まった。念話でリアルタイムに動きが分かる。ここは崖が狭まっている場所で、モンスターは細い場所を長く伸びて通りすぎる。絶好の狙撃場所だ。


 斥候のクルトはここを良く知っている。外の部隊の弓兵は、ピラリに集中だ。遠隔魔法や弓ができるものは、衛兵や商人の護衛でも参加して良い、クルトはそう通知する。本格戦闘はモンスターの全容が明らかになった後だ。


 ただし自由行動部隊もいる。シーフ達はもう昨日のうちに出発している。追加でアリアには午後2時までに城内に帰って来ることだけ頼む。彼女の右目、左目の効果が欲しい。あとは万能型のリリエスも自由行動の方がいい。彼女たちは集団行動にはなじまない。


 モンスターの種類が変わるごとに念話が来る。クルトはモンスターの弱点を確認していく。一真はその度に、適した人材をピックアップして、一覧表を更新する。全体が明らかになったのは9時。モンスターは6キロの長さのスタンピードを起こしていた。


 ケリーから念話が来る。

「報告。ゴブリン1000。ゾンビ600。コボルト800。スケルトン500。ボア300。オーク100。ウルフ120。リビングアーマー40。ロックゴーレム30。ミノタウロス20。報告は以上」


 クルト(一真)は皆に聞こえるように声に出して復唱する。聞いている人たちは改めて数の多さに驚く。500もいれば大規模スタンピードだ。それが3500以上。異常な規模のスタンピードだった。


 2時間あったから、ほぼ戦術はできている。まず戦うのは外の軍団だ。リーダーたちとすり合わせは終わった。厄介なのはアンデッド軍団で認識は一致。通常と倒し方が違う。


 ゾンビは頭を鈍器で殴るか、火魔法で燃やす。モーリーと斧使いのアンザム、Sランクの火魔導士が3人、それにカシム隊で火魔法が使えるものが5人。ゾンビ対策チームとして出動だ。


 リーダは斧使いのアンザム。ピラリの崖より東側(ピュリス寄り)を、戦場とすることを全体に徹底。。弓隊の攻撃を邪魔しないためだ。


 次はスケルトン。浄化が有効。上級魔法だ。使えるのは4人。リーダーはカリエリ。勇者パーティーのヒーラーだ。ルミエも含む。護衛にタンクを2人。あとはカシム隊の槍部隊など。全部倒さなくても、数が減ればいい。主戦場は城壁だから。倒しすぎても困る。


 問題はリビングアーマー。こいつらにはエンチャントした武器が必要。これはリリエスに付与してもらうしかない。幸い前線にいる。ここはアーサーとマーシャルに任せる。当代最高の二人の天才剣士。


 実質的な勇者引継ぎ式になる。二人とも無様な姿は見せられない。あとはカシム隊の剣技を持っている25人。カシム隊は足止め役といったところか。


 ケリーは最後尾。鷹の目で戦況報告、全体の進行状況が分かればいい。新兵10人も怪我をしないように。クルトは5歳児には戦果を期待しない。


 さて大筋が見えてきた。仕上げは、自由行動第2弾。まず王都から来ているジンメル達。このパーティーはSランクの影部隊だ。ヒーラーは浄化を使えるのでスケルトン部隊に行ってもらった。こういう可能性があるので自由行動を保留していた。


 ジンメルパーティーの残りは剣士、斥候、闇魔導士。規律がある集団戦では実力を出せない。彼等を自由行動にした。このメリットは大きい。


 ワイズは不死だから、適当にモンスターの数を減らしてもらう。念話ができるから、移動しながら状況を報告してもらう。こちらがメインかな。予備の念話があることは重要だ。


「何しろ戦いは常に情報戦だから」


とクルトは呟く。

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