第60話 光の都市

 丸一日何もない平和な日があった。クルトと一真は、おかげで準備が整ったと、ほっと安堵していた。城外の村の避難もできたし、食料やポーション類の準備もできた。正確な地図ができて、崖上の道路も拡張された。


 ピラリの攻撃拠点も整備できたし、ピラリと似た地形のフンベにも拠点を築いた。拠点と言ってもただの広場とベンチだが。ピラリの広場には野営に慣れた勇者たちがテントを張っている。8人のシーフ達も到着している。


 住民が自発的に城壁を修理し、粘土を塗って補強してくれた。土の家を作る人が多かったので、やり方を知っている人が多い。


 この町の粘土は明るい黄色なので、印象が明るくなった。まるで光の都市になった。それに地下空間が増えたので、住民の避難所が広くなった。二人いる土魔導士が手を貸したのは言うまでもない。


 クルト(一真)の指揮計画はほぼ順調。そこに新戦力だ。まず次期勇者候補マーシャルのパーティーがやってきた。アーサーと同じSSランクパーティーだ。勇者の引退を祝うつもりで来たらしい。明後日が引退記念パーティーの予定だった。彼等が協力してくれるのは本当に心強い。


 極道のカシムの軍団も来た。カシムの愛人3人の、王都への引っ越しで、ちょうど来ていたという。54人。彼等はこの町の冒険者とは相いれないので、外で戦う方がいいと、クルトは考える。クルトに憑依中の一真は、外で戦う一覧表に、カシム軍団一人一人を登録する。


 なんと義勇軍を名乗る人が28人来た。参戦すると最低15万チコリもらえるので、来るかなと思っていたクルトである。正直邪魔だが、長い目で見ると良いことかもしれない。安全に城壁の上で戦ってもらう。面倒なことはエルザにすべて任す。一真が城内で戦う一覧表に28人を追加。



 さらに新都市サエカから援軍が来た。領主の13歳の娘、プリムが率いる兵士23人と、それとは別に引退して、サエカに移り住んだ冒険者パーティー2つで9人。お嬢様は当然ヴェイユ伯爵の指揮下に入る。一真は領主側の一覧表に24人を登録する。冒険者側の遊撃隊という新しい一覧表に9人を登録。


 冒険者は一旦中に入ってもらって、経験値買取のことを了承してもらう。その上で西壁と南壁の敵を、背後から攻撃してくれるようにお願いする。ベテランなので戦闘の判断は任す。城内の準備は終わる。夜も更けた。司令部もいったん解散。


 クルトは念話でアーサーと打ち合わせる。まず戦力の点検。アーサーの現勇者パーティー、マーシャルの次期勇者候補パーティー。この2つはSSランク。セバートン王国にはこの2つしかいない。次がジンメルのSランク。特殊な闇魔法のパーティーだ。そして大斧使いのアンザムが率いるAランクパーティー。最高峰の4パーティーだ。


 それに数だけは多いカシム隊。54人もいる。リリエスのチームは最前線に集結している。クルトとエルザは本部だが。新兵10人も最前線。ダンジョン出口が見える丘の上にいる。テッドのゾルビデム商会とジェビック商会も20人以上の人を出してくれている。馬車と馬も待機中。商人隊には衛兵がそれぞれ10人ずつついている。配置は完了だ。


 ピラリでは駐屯している軍団が宴会をしていた。最高峰の4パーティーのうち、次期勇者を除く3つのパーティーはこの戦いで引退だ。語り合うことはたくさんある。みんなリリエスのかつての所属パーティーだったしね。アーサーが念話でリリエスを呼び出して、宴会はさらに盛り上がる。


 カシム隊も交えて、大きな火を囲む宴会は楽しい。カシム隊には娼婦兼冒険者もいて、いい声の女性が歌っていた。彼女は魅惑と歌声のスキルを持っている。リリエスも久しぶりに歌い踊る。戦い前夜とは思えない和やかさだ。でも今すぐ敵が来ても大丈夫。ヒールをかければ酔いは醒める。


 リリエスが最近覚えた、魔法を武器にエンチャントする技術を、カシム隊に自慢していた。言葉巧みにエンチャントをねだるカシム隊。悪いやつは本当に口が上手い。リリエスは気分よく、カシム隊全員にエンチャントしてやった。リリエス、人が良すぎるとアーサーは思う。


 カシムたちはご機嫌だ。エンチャントした武器は高く売れる。引退の時にそれを売れば老後は安泰だ。満足したカシム隊は明日に備えて寝始める。リリエスも帰り、冒険者も眠りにつく。


 最前線ではアリアがケリーを寝かしつけ、アリ型モンスターのワイズと石化したエルフのルミエが交替で見張りをしている。モーリーは星を見ている。


 新兵たちも交替で見張りをしてくれる。新兵たちは美少女二人に夢中で、見張りは心もとない。だがスタンピードを見逃すことはありえない。大量のモンスターがもうすぐ湧き出てくるのだから。

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