第58話 泣いてもいい?
「今度は新兵訓練なんだが、エルザ、頼めないか。領主様のとこ。カシムのところと同じでいいから」
「お父さん、人がいいから。しょうがないわね、何人?」
「10人なんだ」
「リテラシーのスクロール準備してくれればやってもいいよ」
エルザは8歳の時に孤児院からクルトに引き取られた。エルザを引き取っただけでなく、養子にしてくれた。猫獣人の娼婦の父無し子のエルザを。そして一人前の冒険者に育ててくれた。そんなお父さんの頼みをエルザが断るわけがない。
男女混合5人ずつ。育成の二日間の日程は確立している。冒険者登録。レンタル武器防具の選定。冒険者ギルドのダンジョンで実戦、周回。合間にステータスを最低50に補充。リテラシーを贈与。モンスターから吸収したスキルも平等に贈与。運のいい人は武技だけでなく、魔法も手に入る。翌日は湖のダンジョン周回。
受付の仕事と両立して片手間でできる。それにダンジョンは放置すると、こないだのようなスタンピード起こすので、育成はちょうどいいのだ。新兵が終わったら、すぐ衛兵20人も頼まれた。エルザはこちらも引き受ける。全部で6班12日の日程だ。
湖のダンジョンは初心者にはちょっときつい。特に深い3層はオーク、グリズリー、ミノタウロス。しかしオークは2体、グリズリーとミノタウロスは1体だ。こないだのスタンピードが異常だった。パーティーなら倒せなくはない。
だからいつもは放置して周回させている。今回は空いている時間はできるだけ新兵さん・衛兵さんについた。自分をブラッシュアップしたかった。1つは避けタンクの可能性を試す。2つ目は遠隔罠設置。落とし穴はできるが、戦いの最中にそれ以外の罠を新たに設置できるか。3つ目は投擲。
タンクはヘイトを集めて自分を攻撃させるのが仕事だ。攻撃を受けるのではなく、避けることで、エルザのような敏捷特化でもタンクができるはずだ。やってみての問題は、避けるとその攻撃は後衛に向ってしまう。魔法攻撃なら後衛にあたってしまう。
遠隔罠設置は落とし穴はできる。でも見え見えで設置した落とし穴には、さすがにモンスターも落ちてくれない。相手に見えない罠設置。自分にはまだ無理だった。
投擲はもともと得意だったから問題なくできた。ただ殺傷力が弱い。小さな剣を投げるだけでは、当たっても倒せない。目に当てることができるなら、あるいは毒ナイフを投げるなら、使い物になるかもしれない。
新兵さん、衛兵さんたちの疲れを無視して、高速周回した。モンスターたちから、スキルをたくさん吸収してしまった。結果新兵さん、衛兵さんたちのスキルが異常に多くなった。武技だけでなく、全員が魔法スキルまで、手に入れてしまった。ちょっと反省。本人たちは喜んでいるので、まあいいか。
もう一人ブラッシュアップに励んでいる人がいた。ケリーというより一真である。糸術というのは一真のオタク魂を刺激しまくっていた。だが糸を操るのは、スキルがあっても簡単ではない。
糸の指輪をもらっているから、3種類の糸は出せる。3種類というのは。神糸、粘糸、鋼糸である。糸を操ることはできなくはない。アリアがケリーを教えている。
「糸を動かすんじゃないわよ。ケリー。空間を意識して」
「空間なんて見ないんだけど」
「空間が見えない人はいません」
「見えていると言えば見えているんだけど。何にもないからっぽ」
「空間が見えてきたら、空間の中に境界があるの。筋みたいなやつ」
「ただの空っぽしか見えないです」
「糸は境界に存在する。でもそれだけじゃ動かせない」
「見えないです」
「空間は何もない点でできているの」
「わかんない」
「空間というのは、点のことなのね」
「分かるように教えて」
「すべての点は力の矢印を持てるのよ」
「聞こえているけど意味が分かんない」
「心を空間と一体化するんじゃなくて、力と一体化すればいいのよ。単純なことなんだけど」
「泣いてもいい。アリア」
「乳首吸う?」
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