第54話 血まみれ聖女
ドライアドのダンジョン同盟。参加するメリットはなんと言ってもダンジョン転移にある。ダンジョン内の転移は、ダンジョンマスターの設定によって可能になるのが普通だ。よくあるのが5層ごとにボス部屋があり、ボスを倒すと、入口への転移システムが現れるという形だ。
それ以外でもランダムな階層に転移させる罠として使われることも多い。この時パーティーが一人ずつ分断されると悲惨なことになる。ドライアドのダンジョンは、この罠を活用していた。
このシステムを使って、強敵からダンジョンを守っているらしい。その場合階層が多い方が有利である。そこで同盟したダンジョン全体を、仮想的に1つのダンジョンと見なして、転移する技術の開発に成功した。
異なるダンジョン間での転移。これを人の移動に応用したのが、現在のダンジョン転移である。そしてこのシステムをルミエ以上に使いこなしている人はいない。ルミエは不眠の呪いがかかっているから時間がある。1日10時間は転移して、どこかのダンジョンで戦っている。まだ深い階層には行けないから、違うダンジョンの似たような階層へ行きたくなるのだ。一日に10回くらいは転移する。
ダンジョン転移に地図はない。ダンジョン名を思い浮かべると、確認後そのダンジョン入口に転移するというシンプルなシステムだ。しかし裏技がいろいろある。例えばモンスターを指定すると、そのモンスターのいる階層を持つダンジョンが、脳内に一覧表示される。そこから選ぶことでも転移できるのだ。しかも直接目的の階層に行ける。
ルミエはダンジョン転移の達人になっていた。今はアンデッドのダンジョンだけを、集中的に攻略している。浄化のスキルを試すためだ。浄化はリリエスから受け取った聖魔法の上級スキルだ。アンデッドを範囲攻撃できる。
浄化は本来、ヒールの上位魔法だ。ヒールをある程度極めると浄化の獲得条件を満たす。ルミエのヒールは、もらったときは2だったが、今は3に上がったところだ。
ルミエは浄化スキルをもらって、自分の中に何か歪みが発生しているのが分かる。整合性を持たせるために、ヒールのレベル上げが必要なのだろう。ルミエは漠然とそう思っている。そのために聖魔法のスキル経験値をあげなくてはならない。
千日の試練の中で自分をどう育てていけばいいのか。ルミエはまだ模索している。ヒーラーが武器を持って自ら接近戦をする。それ自体は悪くないとルミエは思う。
最初はソロでどこまででも戦えそうな気がした。不死でもあり、攻撃を受けても自分でヒールすれば、永遠に戦えると思った。成果もあった。成長促進2倍以上の指輪のおかげもあっただろう。強くなっているのが実感できた。もちろんポーションやMPポーションをがぶ飲みしながらだ。
壁にぶつかったのはどこかのダンジョンの5層近辺。アンデッドの階層だ。浮遊するゴーストや、限りなく湧いて来るスケルトン。初めて自分に限界を感じた。1対1の物理攻撃だけではだめなのだ。効率が悪すぎるし、浮遊する敵には手が届かない。
限界を感じながらも、1層から5層を手当たり次第周回した。そんな時にもらった浄化スキルは使い勝手が良かった。それ以来、アンデッドを求めて、あちらのダンジョンこちらのダンジョンと、ダンジョン転移が指し示す階層を時間の許す限り歩いている。そしてそれなりに強くなった。
湖のダンジョンで、遠隔攻撃を求められた時、自分にその手段がないことを自覚した。急遽風魔法を与えられて、急場を乗り切ったが、自分の弱点を突き付けられた。
だが風魔法の風刃を身に着け、成長していく決断はできない。風魔法は血まみれ聖女というルミエのスタイルに合わない。そもそも私はスキルが多すぎるとルミエは思う。MPは今60弱くらいだと思う。それに対して戦闘用スキルは棒術レベル2、浄化レベル1、ヒールレベル3、風魔法レベル1。他にも魔力操作や料理などのスキルはあるが、同時に使いこなすスキルはこんなものだ。
MPに対して持っているスキルの数が多すぎるとルミエは思っている。使いこなせるスキルの数は、MPによる制限があるはずだ。その関係はルミエにはまだ分からない。ともかく幼いルミエがあれもこれもたくさんのスキルを持つのは無理だ。
特に系統が違う風魔法を急に使えと言っても無理だ。それをしたら自滅することがとルミエには直感的にわかる。風魔法はエルザに返そうと決意する。遠隔攻撃が必要なら聖魔法の中のホーリーアローが使えるようになればいい。
それともう一つ、湖のダンジョンで感じたことがある。前衛で接近戦をしている時、仲間の状態が見えない。ヒーラー失格だ。ヒールレベルは3に上がっているが、早くこれを4に上げて、パーティー全員をヒールするオールヒールを手に入れたい。
それができたら、ヒールレベルが低いのに上級の浄化を持っているという歪みも無くなる。ホーリーアローとヒールレベル4。目標が定まって、少しスッキリしたルミエだ。
でもスキルは全部努力して手に入れたものではなく、何の努力もしないでもらったものだ。いわゆるチート。こんなことで試練になるわけがない。でも激痛と3歳児並みのステータスに戻ったなら、何もできなくなる。ルミエは悩みのループにはまっていた。
いつの間にかダンジョンを出て、草原をさまよっていた。その時、道などないのだが、草の浅い場所をたどって、1台の馬車がやってきた。ルミエは身を隠した。馬車は素早く去って、あとには大きな袋が残されていた。
近寄って袋の口を開けると、出てきたのは高齢の男性だった。おそらく死期を迎えた奴隷を、誰もいない場所に捨てに来たのだろう。老人は死を甘んじて受けるつもりらしかった。
助けてあげたいが、ルミエは沈黙の試練も受けていて、喋ることができない。ルミエはエルザに念話した。
「助けて。お姉さん」
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