第53話 ドラゴンスレイヤー

 リリエスが借金返すためのタダ働き。実はクルトとアーサーの目的は、リリエスの経験値を増加させることだ。オークたち、アンデッド、ミノタウロスたちなど、今まで3回行って、その経験値の95%はリリエスに渡っている。それでもリリエスのスキルレベルは上がらない。


 今の時代、魔王が復活する気配はない。だから勇者パーティーというのは、その国の最強のの冒険者パーティーのことだ。リリエスとの遠征が終わればアーサーたちは解散する。そして若い世代から新たな勇者が選ばれる。


 今回はドラゴン、赤竜の討伐だ。火のドラゴン。アーサーたちは独自のドラゴンの倒し方を確立した。その方法は次の世代の勇者パーティーにのみ伝えるつもりだ。だからリリエスにも魔法契約で厳重な守秘義務がかけられている。


 リリエスは自分のやることは荷物持ちだと思っているのでのんきだ。ただエルザが面白がって、ドラゴンのスキルを吸収して来いとリリエスをそそのかす。ドラゴンのファイアーブレスは人間の身体で行使したら大変なことになる。リリエスは乗り気ではなかったが、まあ使えないなら、使わなければいいだけだった。好奇心で吸収を試みることにした。


 1週間後、無事帰ってきたリリエス。新たに得たスキルは少なかった。だが吸収は成功していた。ドラゴンの咆哮。ドラゴンのファイアーブレス。これが吸収した分。勇者たちが使ったスキルは結界。完全結界。新しいスキルはこの4つだ。ドラゴンの倒し方は秘密だが、結界を使って倒したことは分かる。


 使えるのはドラゴンの咆哮かなとエルザは思う。威圧の上級スキルだ。デパフとしてかなり有効だろう。ファイアーブレスは人間が使うことはできない。自分が燃えてしまう。それほど強力なスキルだ。


 結界は防御として貴重だ。同じようなスキルの完全結界もある。古代魔法のようだ。リリエスは古代魔法は持っていても使えないという。その違いは良く分からない。世界には普通の魔法スキル以外に、古代魔法のスキルがあって、同じようなものなら古代魔法の方が強力だ。だが古代魔法の使い手はほとんどいない。


 古代から生きているアリアによれば、古代魔法は神聖言語を詠唱して成り立つ。神聖言語は、現実に優先する。現実が神聖言語と異なっている場合、現実の方が修正される。たとえば神聖言語で「ない」とされたなら、現実世界に存在していたものは消え去る。


 最近の魔法は自分の中にある魔力に頼った魔法だが、古代魔法は世界の理を使う魔法だそうだ。アリアもごく一部使えるだけで、魔法とは違う能力を修練しなければならないという。これに反応したのは、ケリーの中に隠れている一真。オタクを刺激する設定だ。アリアが修練方法知っているなら、ぜひ弟子になりたい。俺しか使えない古代魔法。極めてみたい一真である。


 スクロールやアクセサリーはたくさんあった。これらは後で整理。多くて訳が分からない。ただ竜の鱗や竜の爪などの貴重なものは。次の世代の勇者に引き渡される。だから数は多いがそこまで貴重なものはないはずだ。


 リリエスが得たのは莫大な経験値だ。成長促進の指輪もしているから、多分とてつもないものになる。それを測る手段はないのだが。2か月後にはどれだけ莫大な経験値が得られたのか明らかになる。2か月後にはリッチのジンウエモンが約束した、30年の期限がやってくる。


 アーサーはリリエスが本来得るべきだった経験値を補充していると思っている。その場合、リリエスのスキルは勇者並みに、あるいは30倍されるのだから、それ以上になるかもしれないとアーサーは楽しみにしていた。もしそうなってもリリエスの引退もそう遠い未来ではない。脅威にはならない。


 リッチのジンウエモンの30倍のレベルアップの約束。それを知っているのはアリアの他には、クルトとエルザだけだ。それとちょっと誤解しているアーサー。


 クルトはレベルアップを保留した回数、それを30倍すると考えている。レベルが低いほど少ない経験値でレベルアップする。だからずっとレベル1だったリリエスのレベルアップ保留回数は凄いはずだ。レベル1からレベル2になる時の経験値は、少なくていい。だから何回も保留される。リリエスの30年の冒険者生活で、例えば火魔法のスキルのレベルアップは何回保留されただろう。多分10回ではきかない。


 クルトの計算力では計算不可能だが、レベル10のスキルの限界を軽く超えることは明らかだ。リリエスには限界突破のスクロールを読んでもらっている。アリアとクルトはリリエスがもし怪物に変わったら、自分たちの命に代えてもリリエスを殺す覚悟でいる。


 勇者パーティーの荷物持ちがもう一回ある。最後は因縁の死の谷のダンジョンだ。そんなに難関のダンジョンではない。ただ広すぎてモンスターに出会う確率が低く、時間がかかる割に見返りは少ない。だから人気がなく放置されているダンジョンだった。


 アーサーは、死の谷のダンジョンを、最後にきちんと始末して終わりたかった。それがけじめだ。経験値はさほど稼げなくても、リリエスとの最後の仕事にはふさわしいはずだ。

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