第52話 エルザは悩む
暑さのピークは過ぎたようだ。エルザは湖のダンジョンでの経験をどう評価すべきか悩んでいた。チームは強い。だが弱い部分がある。自分を含めた4人だ。
エルザ、ケリー、ワイズ、一真。絶望的に弱い。この4人は今も弱いが、将来もモーリーのようには強くはなれない。みな線が細く、強さよりは、敏捷性や知力で戦うタイプだ。チームに一人は欲しいが、全員軽量級では戦えない。
ルミエはちょっと別扱いだ。ルミエは強いが千日の試練が終わったら、エルフの仲間のもとに帰るだろう。リリエスやクルトには、数年後には老いや死が迫る。そうなったらアリアやモーリーはチームから去る。
自分たち4人が中核として強くならなければならない。ただ希望もあった。一真の指揮は見事だった。並列思考を生かして、一真が冷静に指揮をすれば、エルザが片手間で指揮をするより良いはずだ。
ただ一真は人間的に弱い。自分を信じていない。そんな奴に自分の命を預けることはできない。強くなってほしい。ケリーから独立し、一真が自分を確立することが急務だ。
ケリーはまだ幼い。剣技もいまだスキルが生えてこない。剣の才能がないのだろう。ケリーの長所は勤勉なことと、魔力が多いことだ。でも攻めの手筋がない。湖のダンジョンでも、急遽火魔法を付与した。魔力が多いのだから攻撃魔法があった方がいい。
だが火魔法はケリーに適切だろうか。他の魔法の方がいいかもしれない。ここは慎重に考えよう。育成担当のエルザは悩むのである。武器はどうすべきか。剣系のスキルは基本だからあってもいい。しかし剣の才能がないとしたら、どうする。今回得た糸術は珍しいから、いいかもしれない。ただそれではアリアと被る。
そしてワイズ。飛翔して、上からの弓攻撃は有効だった。ただ有効だったのは弓がエロスの小弓だったからだ。ワイズの弓にエロスの小弓に似た効果を付与できないか。それを検討すればいいだろう。これはリリエスに相談するしかない。
エルザ自身も問題だった。シーフ型ということが、ケリーと被っている。もし一真がケリーから独立したとしたら、スキルを引き継ぐだろう。そうなると3人のタイプが被ってしまうことになる。
普通の冒険者パーティーなら、4人の場合はどうなるだろうか。冒険者経験もあり、ギルドの受付として、たくさんの冒険者を見てきたエルザだ。パーティー構成については詳しい。剣士(あるいは格闘家)、タンク(盾士)、攻撃魔導士(あるいは弓士)、ヒーラーという構成が一般的だ。そしてエルザもこの構成が一番有利だと思っていた。
無理にこれに当てはめると、前衛は剣士(糸使い)のケリー。タンクは避けタンクになればエルザもできる。後衛は弓士のワイズ。火魔法兼指揮の一真。ヒーラーはエルザが兼務。このパーティーは多分弱いとエルザは思う。
だが面白いかもしれない。ケリーの糸術が強くなり、ワイズが特殊な矢を射て、一真が強力な攻撃魔法を習得したら、相手は対応しづらいだろう。エルザが獣人の敏捷を生かした回避型のタンクになれればだが。
それよりも5年後の対戦は、最初は4人との対人戦になる。対人戦はモンスターと違ってヘイトを稼ぐタンクは必要ない。だとしたら暗殺者が4人という構成は、理想的ともいえる。最強の暗殺部隊ができるかもしれない。
ケリーは商人に偽装できるようにする。ワイズと、一真はベースがアリ型モンスターだから、人化のスキルで何にでもなれる。エルザも暗殺術のスキル持ちだ。
問題はもし黒幕との戦いになった時どうなるかだ。ただ黒幕はいるだろうが、その情報が全くない。結局この戦いは情報戦なのだ。こちらの存在を隠し通し、敵の情報をどこまで手に入れられるか。そこが勝負の分かれ目になる。対黒幕戦は、今のところ考えても意味がない。
エルザが考える育成の方針。それぞれの長所を伸ばすしかない。ケリーは糸術を使えるようにする。攻撃魔法は必要だが、火魔法かどうかは保留。魔力は増やす。
ワイズは弓を練習してスキルをあげる。特殊効果のある弓は、エルザがリリエスと相談して考える。それよりも多忙を何とかしてやりたいとは思っている。あの生活では訓練に集中できない。
一真は、自分を信じられるように自分を強化し、早く独立することだな。同時に指揮の経験を積む。魔法や武器はその後。独立しなければ、訓練も育成も始まらない。でもどうしたらそれができるようになるのか。こじらせているなら、自分が一真を男にしてやるか。こじらせは結局性的なものだから、それで何とかなるかも。ちょっと雑かな?でもまだ体がないんじゃ、セックスは無理か。
エルザ自身は、敏捷性を生かしたタンクの可能性を探るのもいいだろう。それと具体的な細かいことも考えている。今回一真に指示された、戦闘中に遠隔設置する罠だ。今は落とし穴しかできないが、いろいろできれば、遠隔攻撃の手数が増える。
もう一つ考えていることがある。暗殺術というのは、様々なスキルを統合したものだ。その中に投擲がある。投げナイフとか石つぶてのことだ。一時期はクルトに厳しく仕込まれた。それを洗練して、新たな攻撃手段を増やせないだろうか。
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