第46話 シスター 聖人に会う
字が読めるようになった子が。楽しみのために読む本なんて、この世界にはない。孤児院の子たちと、ワイズのために、一真(ケリー)が絵本を書いた。浦島太郎や桃太郎。でも子供たちに受けたのは『シスターナージャが聖人に会う』という話と『モーリーの一日』。
1ページ目。
シスターナージャは市場の八百屋の女将さんだった。
みんなが良く知っている市場の絵を描いた。
2ページ目。
散歩している時、子供が走って林に入って行った。ナージャはほんの少し空を見上げた。子供は消えてしまった。
ここは空を見上げるナージャと走って行く子供の絵。
3ページ目。
それからナージャは空を見ない。いつも街のはずれを探している。
絵は広場を歩き回っているナージャ。
4ページ目。
川原に誰かが座っていた。だがそれは貧しい服装の大人の男。
このページは川原に座る男の後ろ姿と、それを見て走り寄るナージャの絵。
5ページ目。
ナージャは泣き崩れる。男は「あなたはもう許されている」とナージャに言った。
ここの絵は立っている男の人とうずくまって泣くナージャ。
6ページ目。
男は砂漠に住んでいる「隠れたる神の兄弟団」と名乗った。
ここは砂漠の絵。そこを歩いている男。
7ページ目。
食べるものもなく、泣く子供たち。そこにナージャが現れる。
ここは泣く子とナージャの絵。
8ページ目。
ナージャは、みんなと孤児院で暮らすようになった。
ここの絵はシスター姿のナージャと笑う子供たち。
孤児院の子はこの本を読むと泣く。この本を自分で読みたくて、字を覚えようとする子もいる。ルミエも泣く。ケリーも泣く。
一真は最初、この世界に孤児が多くて驚いた。貧しくて親が餓死したり、餓死しそうな親に捨てられた子たちだった。モンスターに襲われて親が死んだ子もいる。孤児院に入れたのは幸運な方だ。5歳以下の子は神様の子と言われて、死んでも葬式をしない。基本放置されていた。
6歳からは大人の手伝いをして生きる。孤児院でも6歳以上は奴隷商に売ることが多い。国教であるアズル教の孤児院は、ほとんどの子供を売るので有名だ。ただそういう孤児院や奴隷商が悪徳なわけでもない。飢え死にが普通にある社会では、奴隷商は人命救助の役割も果たしている。
一真はナージャの話をワイズから聞いた。ワイズは一緒に字を習っている孤児院の子から聞いた。ナージャは子供たちになつかれている。そして元気のいいおばさんだ。ナージャが抜けて人手が足りなくなった八百屋を孤児院の子供を使って穴埋めしている。
ナージャは子供を奴隷には売らない。10歳までは育てる。でも10歳過ぎて社会に出てから奴隷に落ちる子はいる。それは仕方がないとナージャは諦めていた。
エルザはナージャが来た時には、もうクルトの養女になっていた。でもよく孤児院を訪ねてお金を寄付していたから、ナージャのことは良く知っている。そして母のように慕っている。
だからこそエルザは孤児院の子供たちは今度のことに巻き込みたくない。ナージャの大事な子供たちだから。
ナージャはエルザに感謝している。子供たちに兔を毎日持たせてくれる。そればかりが数百チコリのお金を持たせてくれる。それ以上に感謝しているのは字と計算を教えてくれることだ。
この世界では読み書き計算ができるのは、貴族と大商人の子供たち、それと豊かな農民の子供たち。貧しいものが成り上がることは、読み書きができないために、ほとんどないのだ。
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