第45話 ダンジョンマスターのエルザ

 エルザはダンジョンマスターである。ドライアドのダンジョンと同盟する前は、冒険者ギルドの掃除係に過ぎなかった。同盟してからは、月10万チコリかかる。この費用はキース銀行のケリーの口座から出している。


 ドライアドダンジョンと同盟していることは、冒険者ギルドには内緒だ。ギルマスのクルトが黙認しているから問題はない。登録した人物のダンジョン転移ができる代償と思えば月10万チコリは高くはない。


 他にも特典があった。ダンジョンポイント(DP)が与えられるようになった。3層の小さなダンジョンで、そこで人が死ぬことはないためごくわずかだ。でもそれなりにDPがたまっている。孤児院の子たちが毎日ダンジョンに入るのも地味にDPに貢献している。


 エルザは貯まったDPで4層目を作った。そこにオーク1体をDPで購入し配置した。4層に入れるのは自分以外に、不死の属性を持つルミエとワイズのみとした。ケリーや孤児院の子はまだ無理だ。ルミエはソロで大丈夫だろう。ワイズは無理だが、ネストで不死なので問題はない。


 既存のモンスターのスキルは突進、剣技や槍技、格闘術などの武術など。有用そうなのはホブゴブリンが持っている指揮。エルザはすべて吸収してみた。新しく導入したオークからは怪力を吸収した。チームの若い子たちに簡単にスキル与えるのは、良くないと思ったので、彼等には与えていない。クルトにカシムの組の組員を育成するように頼まれた。


「エルザ、いやだろうが、カシムの組員を育成してもらいたい」


「なんであんな人たちを」


「王都へ進出するには、奴ら力不足なんだ。まず3人頼む」


「ヤクザとしての能力を高めるっていうこと?」


「この3人は治安部隊に入れる。領主のヴェイユ家は東地区の治安部隊をしている、そこに入れる」


「東地区にはスラムがあるわよね」


「治安部隊のヴェイユ家と冒険者ギルドのギルマス、カシムの闇の組織が連携するんだ」


「あくどい」


「俺は悪にでもなれる男なんだよ。あくどいっていうのは誉め言葉だ」


「予算は?」


「チームの予算から出してくれ。無制限でいいということになっている」


 3人はヤクザにしては弱い。読み書きもできず、治安部隊に入っても使えないだろう。まず冒険者登録をした。Fランク。


「ギルドの武器や防具、レンタルするから、自分で選んで」


「はい姉御」


 姉御と呼ばれるのが気持ち良かった。彼等を引き連れて、スライムを倒す。エルザはスキル吸収で、スライムの突撃スキルを奪って、3人に贈与していく。3層までたどり着く間に、全員にモンスターのスキルレベル1以上を贈与し終わる。前に吸収していたスキルもついでに付与。2周目からは自分たちだけで周回。


 受付嬢の仕事に戻ると、ケリーがやってきた。いつものように換金は隣の子に任せて、ケリーとダンジョンでの訓練。基本の気配察知、気配遮断、接近して瞬殺、それを何回も繰り返し、3層まで進む。途中で3人を見かけるが、厳しく睨んでおく。ただヒールはしておく。その方が休憩を取らなくていいから、より鍛えられる。私の新しいスキル、指揮が効いているから、ブラックでも子分たちは文句を言わない。


 訓練の後ギルドで、ケリーは冒険者3人に痛み耐性を贈与している。現役冒険者も、引退した冒険者もいる。痛み耐性は1週間効果があるので、今は合計18人が治療してもらっている。ケリーはギルドを出て今日は一人で、イエローハウスへ行ってくれる。まあアリアが肌に黒子になっているのだが。


 エルザはテッドの店でリテラシーのスクロールを3つ買う。これからは極道も読み書きできなくては駄目だ。ただカシムの組員何人いるか知らないが、あまりたくさん買うと目立つ。今後はあらかじめ別の街で購入しておこう。


 リリエスに念話して、チームの標準機能を付与したダガーを3本注文した。それとアリアの安い方の下着も注文。下着には物理耐性をつけてもらう。


 夕方、孤児院の子供たち、ワイズ、ルミエと1層だけのダンジョン訓練。ちらっと見たら、3人組はへばっているが、指揮のスキルには逆らえず、ダンジョン周回を続けている。兔を狩ったら、子供たちはお勉強。解散するとエルザは受付嬢に戻る。そろそろ忙しい時間帯だ。


 そのあと3人組に夕食をとらせる。ヒールもしてやる。お酒は禁止。休憩1時間で、またダンジョン周回。この時間帯は彼等についてやれる。能力値を確認すると、成人平均の50に満たない項目がかなりある。老人たちからもらったHPや能力値を贈与して、すべての能力を50以上にする。テッドの店で買ったリテラシーも贈与してやる。こいつら堅気になれるかもと、エルザは思う。


 それから3時間くらいダンジョン周回。エルザがモンスターから吸収したスキルを与える。そのくり返し。宿は初心者冒険者用の、ギルドの相部屋。明日も早い時間に集合させる。そしてピュリス近郊にある、湖のダンジョンに、3人だけで挑ませる。9層のダンジョンだ。ダンジョンボスはミノタウロス。生きて帰ってくれば、クズとしては、けっこう使えると思う。それに一人当たり20万チコリ稼いでいる。それを小遣いにあげるつもりだ。

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