第44話 濃い時間

 リリエスに奴隷として買われてから4か月。ケリーの生活は微妙に変わりつつある。朝寝坊するのは同じ。どうしても早く起きられない。起きてすぐリリエスに挨拶し、クリーンで身だしなみを整える。


 家の中にはワイズがいる。可愛いミニのメイド服だ。ケリーの可愛い従魔だ。サエカには同じ年頃の子はいなかったから、ケリーは一緒にいるのが楽しい。二人で外に出て狩と薬草採取。ケリーは剣、ワイズは弓だ。もちろんアリアが出てきて、狩を手伝ってくれる。二人で20体くらい狩って、朝はおしまい。


 家に戻って朝ごはんを手伝う。最近は蜂蜜を塗ったパンと、具だくさんのスープだ。スープには大麦が入っている。テーブルに座って3人で朝食。昔は外で焚火しながら食べていた。それも好きだったケリー。


 出かける前にワイズが予定を確認。


「私は遺跡を少しリペアしてから、東の大木に向けて森の手入れをする」


 リリエスが住まいにしている塔の、すぐ奥の部分が神殿になっていることが分かった。いくつかの彫像が復元されていた。


「僕は冒険者ギルドで品物を渡して、エルザと訓練。痛み取りの商売はギルドで3人、イエローハウス、広場。テッドの指名依頼の買い物をして、行商。ゴミ漁りは東門の近く」


 門を出たら、町まで走る。予定を順調にこなしながら、昼に肉の串を買い食い。テッドのところでは市場の地図を描かされる.

これにも慣れた。普通の庶民は昼ご飯は食べないが、リリエスは子供たちの成長のために、昼ご飯を食べることにした。

 

 ワイズはリリエスの手伝いをしながら、みんなの様子を念話で確認している。モーリー、エルザ、クルト、ルミエ。みんな順調。


 昼ごはんのあとはおやつを持って町へ向かう。今日は干した野イチゴの蜂蜜漬け。行く先はイエローハウス。ルミエが待っていて、二人で老人のベッドを回る。ルミエはヒール。ワイズはおやつをあげる。


 ルミエと魔力操作の訓練をして、ギルドへ向かう。まだ時間が早いので一人でダンジョンを周回する。一人なので飛翔、毒針、蟻酸のスキルも交えて思う存分戦ってみる。ワイズも冒険者。もちろんGランク。危なくないのかって。ネストに逃げ込んで15分で復活するから、どんな危険なところも大丈夫。おかげでワイズは強くなっている。


 夕方になると市場の子たちとエルザも来て、みんなでダンジョン攻略。全員がそれぞれ兔1体以上倒したところで終わる。そのままちびっこ学校が始まる。ワイズが残ったおやつを出して、みんなで食べる。ワイズはここでみんなと字を覚えているのだ。ルミエは口がきけないが、紙に書いて計算を教える。紙は高級品だが、1枚あればクリーンして何回でも使える。


 孤児院の子たちは帰り、エルザは職場に戻る。ルミエは買い物だ。ワイズは城門を出るまでは歩いているが、誰もいなくなると飛翔のスキルで飛ぶ。家の近くで狩りをして遊ぶ。マジックバッグを持っているから、いくら狩っても問題はない。エルザから解体の仕方も習っている。


 ケリーが行商から帰ると、ワイズが待っていてくれる。この頃はあまりにも高価なものはテッドに出さないで、備蓄して自分たちで使うようにしている。お金が多くなりすぎている。


 テッドがいなくなるとアリアが出てきて、今日の本格訓練だ。嗅覚強化・聴覚強化によって、そして地図作りの訓練で、気配察知の能力は上がっているとケリーは思う。今日はそれに加えて、鷹の目を使ってみる。


 戦いに入る前に、自動発動を試す。嗅覚強化、聴覚強化、鷹の目と気配察知のスキルを自動で発動するようにする。スキルを統合して、察知というスキルを作る。こうしておくと早いし、忘れない。これは一真が教えてくれた。マクロというのだそうだ。ケリーが贈与+痛み耐性を、祈りというスキルにまとめたのと同じ。


 目を凝らし、モンスターを感じ取る。スケルトン3体。並列思考で過去の映像記憶を検索する。スケルトンを倒したシーンを見る。ケリーの今できるのは、剣で腰を砕き、落ちた頭蓋骨を真正面から打ち下ろし、魔石を取って殺すこと。


 1体しか相手にできないから、念話でワイズに2体の足止めを頼む。ワイズがおとりになって、弓で足止め。この部分は以前ならアリアの粘糸に頼っていた。


 このくり返しで23体。察知・映像検索・ワイズに指示・攻撃。このくり返し自体をマクロというかスキルに統合できるかもしれない。


 アリアは何にもしていないけど、右目左目のスキルで、バフとデバフをしてくれている。ケリーは実力じゃないことは十分わかっている。ただ盗賊を殺してから、覚悟ができた。「僕は人を殺すために強くなるんだ」そういう覚悟だ。だからと言って急に強くなるわけじゃないが。


 3人で楽しく夕食。終わるとしばらくしてケリーは眠たくなる。ワイズは自分のお部屋でお勉強。4つの家全部で、ワイズの部屋を増築してくれた。優しいモーリー。


 待っていると一真がやってくる。ワイズに憑依するのだけれど、並列思考ができるので、一つの身体で、二人の人格が同居する。この時間はけっこう濃い。一真の知識や感情がワイズにじんわり染みてくる。前世の知識もなんとなくわかる。ワイズの過去は空白なので、染みやすいのかもしれない。


 仲間に順番に念話して、今日のお金の出入りを記録して、計算する。必要なら明日冒険者ギルドや、キース銀行でのお金の動きを念話で頼む。


 まだ不安なので、一真に計算が間違っていないか聞きながらやっている。そうしているうちにアリアがやってくる。3人で雑談するのだが、この時間は楽しい。一真が前世の浦島太郎のお話とか、いろんな話をしてくれる。ワイズは一真に、絵本作ってとお願いしている。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る