第36話 モーリーの一日

 モーリーはカマキリ型モンスターだ。最初はケリーの従魔だった。途中からリリエスの従魔になったが、やる事は変らない。ずっと一人で木を伐っている。


 リリエスには4つのセーフハウスがあるが、それよりもかなり外側、森の深い部分を左回りに移動している。リリエスはその内側、森の浅い部分の木を伐っている。二人は話したことはほとんどない。


 どの木を伐るかは最初リリエスがしるしをつけてくれていたが、2,3回で放置された。でもなんとなくわかる。手の入らない森は暗い。下草があまり生えない。そこにお日様の光が入るようにすればいい。そうするといつの間にか森が変わる。


 ピュリスは国境に近い都市だから、この森は北に深く深く続いている。徒歩だと1か月ほど歩くと、神聖クロエッシエル教皇国の国境に着くという。途中にエルフの居住区があるが、大きな町はなく、宿もない。


 はっきりした道はなくモンスターが出るので、普通の人は森を通らない。原生林に近い森なのだ。エルフの居住地域には世界樹の木という巨木があり、エルフはそれを信仰している。巨木が神なのだそうだ。この森もその世界樹の森の南の端なのだろう。


 ともかくモーリーはリリエスに命じられて木を伐っている。木を伐るだけではない。伐った木の枝を払い、皮をむき、丸太にしたものを積み重ねる。細い木や枝や皮は一定の長さに切って縄で縛り、やはり積み重ねる。


 立派な丸太はピュリスの街から人が来て引き取っていく。残された薪はひたすら乾燥させる。よく乾燥させていない薪は煙ばかりで燃えない。


 木を伐っていると、良くモンスターが出る。近くに出たときは戦って倒す。魔石とドロップを取って埋めるのが基本だ、人間が肉を欲しがる兔やイノシシ、オークなどは解体し、毛皮と肉に分ける。肉は血抜きをして塩を擦り込んで4つの家のうちで、一番近いところに、置いておけばいい。毛皮も同じ。でも時々は死体を放置し、獣たちにも肉を分ける。


 いつからか、リリエスが肉を切って干しておくようにとか、皮をなめしておくようにと命じるようになった。従魔なので逆らうことはできない。だが実はそういう仕事も楽しいのだ。


 森には様々な実りがある。木の実、草の実。食べられるものは生で、あるいは干しておく。人化して働いているので、自分でも少し食べると実にうまい。うまい木の実は、空き地に種をまいておく。


 仕事の合間にカマキリに戻って空を飛ぶ。能力が上がっているせいか、巨大化して飛翔能力も高くなっている。以前より高い所まで飛べる。周りには広大な森が、手を入れられないまま、俺を待っている。


 木を伐ってピュリスの周囲を一回りして、数日後同じ場所に戻る。森が少し明るくなって、日の光の中に花がたくさん咲いているのに出会う。それもうれしい。俺が木を伐ったから花が咲く。


 花にはたくさんの虫が来る。時々じっと観察する。蝶もいれば蜂もいる。今はそいつらを食べたいとは思わない。虫は森の花を受粉させるだけでなく、町や郊外の畑の花を受粉させて稔らせる。蜂は花の蜜を集めて蜂蜜を作る。


 今年はたくさんの女王蜂が巣立った。俺も何匹か女王蜂を捕まえて箱に入れた.

しばらくすれば蜂蜜を、リリエスに届けることができるだろう。


 俺の仕事に新しく加わったのが、家づくりだ。森の4つの家を、土と藁の家に作りかえた。それを皮切りに、ときどき街に出て土の家を作っている。土魔法で家の下の粘土を掘れば、後は簡単だ。スライムのシートは大きめに作ってあるので、窓に合わせて、柔らかいうちに切れば、後は自然に窓に密着するから、そんなに手間はかからない。


 屋根に付ける風魔道具だけお金がかかるが、あとはタダ同然だ。風魔道具はなくてもまあ大丈夫だ。俺


 土魔法は森でも使い道がある。川から水を引いてきて、川の傍の泉をつなげれば、細い支流ができる。それが森を潤し、魚の数を増やしてくれる。罠を仕掛けて獲った魚は、塩をもみこんで干すと美味しくなる。


 俺も夜は短時間寝る。星を見ながら、月に照らされながらいつの間にか寝る。そして夜明け間に鳥のさえずりで起きて、日の出を見ながら働く。なんという平和で美しい日々だ。


 今日もリリエスと、斧で語り合えるのだ。

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