第35話 一真の夢の中で

 ケリーが寝付いたころ、アリアが密かにケリーの身体の黒子になって、夢魔を使って一真を呼び出した。


「起きなさいよ一真」


「あ、アリア。これ夢なの」


「いつも私をいやらしい目で見ているから、今日は好きなようにさせてあげようかと思って」


「僕はそんな・・・」


「冗談よ。したけりゃしてもいいけど。私を自由にしてもいいわよ。夢の中だし」


「いえそんなつもりは・・・・」


「夢の中でまでヘタレね。実はちょっと話があって」


「なんですか」


「まずケリーと一緒に寝ると睡眠時間長くない?」


「そうですね。僕には半分でいいんですけど、どうしようもなくて」


「睡眠耐性あげるわ」


「どういうことですか」


「並列思考あるので、ケリーは寝ているけど、一真は起きていることができる。身体は動かせないけれど、思考能力はある状態ね」


「そうしてもらえるとありがたいです」


「それじゃ今日からね」


「毎晩相手してくれるんですか」


「そんなに暇じゃないわよ」


「でも嬉しいです。やりたいことあったので」


「たとえば」


「僕、前世で生物と化学の境界領域というか、中間の研究していたんです」


「それ何よ。分かるように言って」


「薬師みたいなことですかね」


「それで」


「こないだポーションの作り方の本読んだんですけれど、それ僕の得意分野だと思うんです」


「それ役に立つかもしれないわね」


「この世界にガラスありますか」


「あるけど高価すぎて、手が出ないわね」


「それじゃスライムの体液使ったガラスもどきでいいかな。それで器具を作ればもっといいものできるはずなんです。それを考える時間も欲しいし」


「他にも何か」


「ケリーに、もうすぐ計算スキルが発現すると思うんですが、それをですね、表計算の形にしたいんです」


「私には分からないけど」


「いや、すごく便利ですから」


「まあやってみて。それでね、ケリーに誘拐された時のこと聞いても大丈夫かなって。一真に聞けばわかると思ったんだけど」


「本当なら忘れたほうがいいのかもしれないですが、僕に映像記憶があるので、何回でも生々しく思い出してしまうんです。ケリーには悪いとは思っていますが」


「けっこう覚えているの」


「さっき起きたみたいに鮮明なんです。それが一生続く」


「復讐したら消えるかな」


「消えはしないですが、一区切りにはなるでしょう。ケリーは自分を責めているんです。そんな理由は何にもないのに」


「なんで自分を責めなくちゃならないの」


「助けられなかったとか、自分が居なかったら父さんも母さんも逃げられたって」


「そんなわけないでしょ。悪いのは人さらいと、その黒幕よ」


「ケリーも分かってはいるんですよね」


「顔を覚えている?」


「ひとりはっきり覚えています。男の顔。お母さんを犯しているのを、ケリーに見せつけた男です。ケリーなら男の顔を上手に書けますよ。絵画のスキル手に入れてますから」


「それでケリーがおかしくなるってことはないかしら」


「今よりひどくなることはないです。もしあっても僕が何とかします」


「まかせていい?」


「あと人数は4人でした。一人女がいたんです。声でわかりました。若い女だと思います」


「絵が描けたら、エルザに届けてくれる。お願い」


 エルザに正確な絵が届けられたのは3日後だった。これならクルトが王都で探すのがかなりたやすくなる。王都を根城にしている傭兵団の一員だとわかっているし、ルミエの女がいたという証言とも一致する。


 エルザはしばらく前にサエカ村へ行ったときに壊れたナイフを拾ったことを思い出した。証拠は何もないと思ったが、女物のナイフは証拠になるかもしれない。取り出してよく見ると、柄の部分に小さなマークが入っている。お父さんに絵を渡すとき、このナイフも渡そうとエルザは思った。

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