第32話 ダンジョン転移

 安息日だからと言って仕事を休む人はあまりいない。リリエスは昔から安息日はパーティーの仕事を休んでいた。代わりに森へ行き、モンスターの整理をし。森の手入れをしていた。30年続けたことでピュリスの安全は保たれていた。領主も町の人も知らないし、本人も自覚がないが。


 今はリリエスは安息日にも森の仕事を休まないが、ケリーには町での仕事、痛み取りの仕事を休ませていた。そのためアリアがこの日は休日になる。そこで安息日の昼に、アリアとクルトとエルザがギルドに集まることがなんとなく定例化していた。


 今日の話題はルミエのことだ。エルザの鑑定でハイエルフというエルフの上位種であることは分かっている。そして千日の試練中であることも。だが試練の課題は何かは分からない。あと2年数か月でその試練を成し遂げなければならない。ルミエは必死であがいているが、それが正しい方向なのかは謎だ。


「これはエルフの側から呪いかもしれないわね。神獣である私も聞いたことはないんだけど」


「誘拐団がかけた呪いだとしたら、それで大損しているわけだから、その可能性が高いと俺も思う。呪いというより加護なんだろうな」


「当分見守るしかないわね。運命の導くままに。そう言えば、運命なんだけどね。リリエスはルミエに魔力操作のスクロールをくれました。こういう気まぐれも運命なのかしら」


「魔力の力を上げなさいっていうことか。リリエスが何か考えているとは思えないけどね。だからこそ、その気まぐれが運命なのかもね。私には夢魔のスクロールくれた」


「神獣に夢魔か。夢の中に入り込んで、その人の秘密聞き出すか。俺に使うのはやめてくれな」


「クルトとなら夢の中でしっぽりするのもいいわね。現実の交尾より感じるらしいわよ」


「私一応娘なんですけど。娘の前でやめてくれる。そんなことより、私達のチームどう育成していけばいいのか。そこが問題じゃないですか」


「チームなのか、俺たち?。ケリー、リリエス、モーリー、ルミエとここにいる3人」


「ルミエがチームの一員かどうかは分からないわね。ただ誘拐された被害者であり、それがきっかけでひどい目に合っている。チームに仮登録ということかな」


「ともかく敵じゃない。試練を支援して、育成していくべきだわ」


「こないだケリーが卵、見つけたから、もう一人従魔が増えるわよ。私が教えてやったのよ」


「もうこれ以上仲間を増やさない方がいい。秘密が漏れたら危ない」


 自分たちを隠すという方向で3人は一致した。隠したうえで敵を探す。直接誘拐に携わった者たちだけでなく、その黒幕も。3人にはそうする理由があった。


 エルザは猫獣人だった母が攫われて、娼館に売られている。この戦いは彼女自身の戦いでもある。クルトの恋人は狐獣人だった。彼女の死に誘拐団が深く絡んでいるようだ。クルトが独身を続けているのもそのせいらしい。そしてアリアはリッチに怯えた自分が許せなかった。神獣としての誇りに関わる戦いだ。それに結果として同盟者リリエスの人生を台無しにした負い目もある。


「ルミエに誘拐された時のことをさりげなく聞いたんだけど、ほとんど覚えていなかった。激痛が始まって意識が混濁したらしいのね」


「全く何も覚えていないということはないでしょう。40日くらいあった」


「少人数だったということと、女がいたことは分かったらしい」


「やはりケリーに聞いてみるしかないか。俺は気が進まないが」


「ケリーの心の傷は深いわよ。毎夜。泣き叫ぶ。ただケリーの中に異世界から転生した一真という大人がいて、ケリーが変になるのを防いでいるから大丈夫かもしれない」


「アリアが聞いて。アリアはケリーの皮膚に寄生しているんだから、できるでしょう」


「寄生とは違うんだけど」


「それと俺、転勤する。情報は王都にいる方が集まりやすい。それとエルザとの関係も隠蔽した方がいいから」


「向こうでもギルマス続けるなら、あんまり動けないわね」


「カシムを呼ぶつもりだ」


「お父さんカシムは信頼できないわよ」


「利用するだけだ。闇の情報が欲しい。ギルマスがヤクザとつるんでいるのは良くあることだしな。金で動くから分かりやすい」


「王都へ行ってしまったら、毎週情報交換するとかは無理かしら」


「アーサーの教えてくれたダンジョン転移を利用すればいい。毎月10万チコリは負担だが」


「馬車に乗らなくて済むのがありたいわね」


「お父さん。ダンジョン転移って何なの。あまりに都合よくないかしら。誰かが私たちを罠に誘っているかもしれない」


「確かにアーサーにも全貌が分からないらしい。10年位前に、念話のようなものでアーサーに話があった。それ以来便利だから利用していると言っていた」


「ただ便利なものじゃないような気がするの」


「そうだな。アーサーにピュリスのダンジョンを向こうから提案して来たらしい。そしてリリエスの利用を登録したと。何も言っていないのに」


「神獣としての直感では悪いものじゃないわ。こちらも利用すればいい」


「私たちに示しているのは、全部じゃじゃないわよ。私が転移しようとしたら、示されるのはン・ガイラ帝国の帝都ビスクのドライアドのダンジョンだけ。それ以外に行きたい時はその地名を念じると、近いダンジョンが候補にあがる。利用したことはないんだけどね」


「アーサーの話では、そのドライアドのダンジョンが、勇者が侵入した時やダンジョンバトルの時に、敵を分断するためにダンジョン転移を利用しているらしい。パーティーは分断されると弱いから。転移先のダンジョンで倒す必要はなくて、あくまでも分断するために、同盟ダンジョンが必要ということじゃないかな」


「それは同盟する側に危険はないのかしら。急に勇者が現れて、ダンジョンコアを破壊されるとか」


「ダンジョン転移は一瞬だし、コアは転移してきたものには認識できない。俺はそう聞いている。ピュリスの冒険者ギルドのダンジョンが同盟に参加する時に確認した。ギルドのみんなには公表していないけどな」


「ルミエに教えたら、毎晩どこかのダンジョンに転移して、訳の分からない魔石持ってくるのね。リリエスからマジックバッグもらったから、肉もたっぷり。戦闘ジャンキーになりつつあるのかも」


「あんまり変な魔石は、ギルドには出さないほうがいいな。ダンジョン転移は秘密だから。それに老人を使った能力値の上昇は目立たないようにな。孤児院の子供達にも分けるとか、従魔なら能力値を気にする人もいないから問題ないけどな」



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る