第31話 お土産
出会いから2か月後。ケリーの生活は微妙に変わっている。リリエスが7日間いなかったとき、代わりはアリアがしてくれた。口の中に乳首を押しこまれ、何かを飲まされて、強制的に熟睡させられた。いつもの泣いたり、叫んだりはしないで寝ていた。それがいいことなのかどうかは、誰にも分からない。
アリアは彼女本来の染色や裁縫の能力を発揮して、いろいろな服を作っていた。自分の糸、スパイダーシルクで作られたものは絹以上の最高級品。森の魔法素材で染めた服がふんだんにできていた。ケリーのものが主だが、リリエスやモーリーのものもあった。魔法陣が刺繍してあるものは、魔法耐性とか、温度調節とか、何らかの魔法効果がついている。彼らのチームの生活は、ますます充実していきそうである。
アリアと廃坑跡で狩りをしている時、木の影の草むらでケリーが小さな卵を見つけた。アリアがモンスターの卵だと教えてくれた。卵から孵ったモンスターは、テイムできる可能性が高い。こんな幸運もアリアの右目スキルのおかげだろうか。卵はポケットに入れても割れない位硬いので、寝る時も一緒、肌身離さず温めている。薬草採りも順調で、嗅覚強化スキルもいい仕事をしてくれている。
リリエスがいないときは安息日の森の探索は無しで、ケリーは一日中テッドの商会で、倉庫の商品と帳簿の照合や、帳簿の計算の検算をやっていた。計算は前世に珠算が得意だったので、数字を見ただけで暗算でできる。テッドに感心された。
毎日のテッドの行商も継続している。ただ少し変わった。テッドがギルドに毎日指名依頼してくれる。100チコリだが、市場での買い物の仕事だ。行商先の農家に持っていくものだ。ケリーを市場での買い物に慣れさせるためだろう。果物1個でも、できるだけ良いものを安く買って来いということだ。ケリーには嗅覚強化があるから、熟れ具合や腐っているかどうかはよくわかる。映像記憶で店頭の商品の値段を比較しながら、良くて安いものを選ぶ。テッドはケリーを商人として育成しているように見える。
リリエスは勇者パーティーから大量のお土産を持って帰ってきた。
「マジックバッグ、容量はお屋敷1軒分くらい入るらしい」
そのバッグはいつも使っているウェストポーチと同じだ。リリエスが30年前に作ったものだ。
「こんな小さいカバンに家が入るんだ」
「最初は大したことなかったんだけどね、30年使い続けたら、成長したらしい」
「勇者パーティーの人たちもういらないのかな」
「もうすぐ引退するからね。それで5つも返してくれてね。1つは私が使うとして、あと4つはどうしたらいいかな。1つはケリーで決まりとしたら。あと3つ」
「あのね、リリエス。僕にに新しい従魔できそうなんだ」
ケリーは温めている卵を見せる。
「随分小さいな。でもこのマジックバッグは使うものの大きさに合わせて自動調節できるから、どんなに小さくても使えるんだよ。それじゃ新しい従魔にあげようか。あと2つ」
「エルザとルミエはどうかな」
「若い子が持つのがいいかもしれないな。それじゃ、その若い子たちに成長促進の指輪もあげよう。これも最初は大したことなかったんだが、スキル経験値2倍以上にになるらしいよ」
「僕の従魔ももらっていいの」
「いい従魔生まれると良いな」
「ありがとう、リリエス」
今回の遠征、勇者パーティーのメンバーが、経験値の95%をリリエスに集中するように設定したのに、やはりレベルは上がらなかった。その代わりリリエスのスキルが増えた。威圧、真偽判定、魔力操作、罠自動解除、雷魔法。どれもメンバーの使ったスキルだ。持っていないスキルの経験値をもらうことで、リリエスにスキルが発現するらしかった。
今回挑んだダンジョンは、25層もあり、人型モンスターが多いダンジョンだった。5層ごとにボスがいて、ダンジョンボスはキングオーク。リリエスに莫大な経験値が入っているのは言うまでもない。それでもレベルが上がらない。やはり呪いがかけられているのは事実のようだ。30年ぶりに呪いが解けたらと、事情を知る人は楽しみにしている。ただクルトはアーサーにそれが30倍になることは話していない。それにそもそも肝心のリリエスはそれを知らないのだが。
もう一つ驚くことがある。宝箱を含めドロップが多く、レアものも多かった。それはすべてリリエスがもらった。遠慮したが、リーダー命令だと言って押しつけられた。
リリエスはケリーには聴覚強化のスクロールを、エルザには身体強化のスクロールを、ルミエには魔力操作のスクロールをあげるつもりだ。スクロール以外にもアクセサリーや本も出た。モンスターの持っていた武器や、ダンジョンのゴミも大量に集めて来たので、リリエスはおいおいリペアするつもりだ。勇者パーティーでのタダ働きは、リリエスと仲間をとんでもなく豊かにする。
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