第29話 石化したハイエルフ

 エルザの生活は激変した。


「エルザ。面倒を見てもらいたい子供がいる」


「お父さん隠し子?」


「奴隷を買った。9歳のエルフの女の子だ」


「そう言う趣味だったとは。私に手を出さなかったのは獣人だったから」


「呪われているんだ。石化の呪いがかかっている」


「それはまた・・・・特殊な趣味ですね」


「1か月前、ケリーが攫われたのと同じ頃、闇のオークションに出た」


「石化の呪いがかけられたエルフの幼女。それを性的対象とする男性は世界で一人しかいないかも」


「俺は変態じゃない」


「それじゃなぜ」


「ケリーはついでだったんだよ。エルフを対象とする人身売買組織だ。それがルミエを浚った。ついでにサエカ村を襲い、女の子と間違えてケリーを攫ったんだ」


「彼らが攫ったのは2人だったということ」


「エルザ、家を出たほうがいい」


「お父さん変態だと思ったのをそんなに怒らなくても」


「お前も18歳だから、俺と同じ家に暮らしていると不要な誤解を生む。血はつながっていないしな」


「お父さんが出て行けというなら、私は従うしかない立場ですけど、猫ですし」


「ルミエを頼みたいんだ。いろいろひどいことになっている。そのせいで俺でも買うことができた」


「いくらでした」


「100万チコリ」


「エルフの幼女なら途方もない金額がしますよね。普通」


「だからどうしようもなく呪われている。人身売買組織が持てあます位にな」


 エルザが見たルミエは外見からしてひどかった。白大理石の彫像だ。美しいが人間には見えなかった。しかも激痛に苦しんでいた。エルザは痛み耐性を贈与した。毎日過剰にケリーから痛み耐性はもらっていたし、贈与のスキルも持っている。


【名前】 ルミエ

【人種】 ハイエルフ

【年齢】 9歳

【状態】 千日の試練 残り952日

     石化 不死 不眠 沈黙 激痛

【HP】  10/10

【MP】  10/10

【攻撃力】 10

【防御力】 10

【知力】  10

【敏捷】  10

【器用さ】 10

【運】   10

【スキル】 痛み耐性


 HPや能力値は成人の平均で50。15歳で45.ほぼ年齢×3が標準。9歳だったら30近くあっていい。3歳児並みに減らされている。しかも石化だけなく呪いがひどい。不死というありがたいものもあるが。そして分からない千日の試練。


 エルザは彼氏と別れる決心をした。クルトにルミエを奴隷解放しておくように頼んで、夜なのにカシムの奴隷商に走った。処分予定の高齢奴隷を2人買った。2人とも瀕死だった。一人は犬獣人の男性63歳。もう一人はヒューマンの女性55歳。2千チコリ。


 手順は同じだ。HPをはじめ多くの能力値を手に入れた。ルミエの力をすべて50にした。余った分はエルザがもらう。スキルでは棒術レベル2と嗅覚強化、料理レベル2が手に入った。ヒールレベル2と合わせて、嗅覚強化以外をルミエに贈与する。


 ルミエは協力的だ。夜を徹して二人の老人にヒールをかけ続け、MPが尽きたら、庭でメイスを振るように。明るくなったら、朝食を作るように頼んだ。契約関係はない。あると贈与ができない。


 翌日、安息日だったので、エルザは休日。老人たちの介護をルミエにませて、エルザは家を探した。不動産屋に訳アリでもいいから、格安ですぐ入れるところと注文を付けた。紹介してくれたのは、冒険者ギルドからあまり遠くない裏通りの、大きな屋敷。一家惨殺事件があって、ゴーストが出るという噂の家だ。即決して、ゴーストたちは退治した。


 安息日明けには、リリエスがケリーについて来る。ケリーの訓練を終えて、二人を家に連れて行き、ルミエを紹介する。転居することをリリエスに言うと、新しい家を見てくれるという。リリエスが古い屋敷をリペアしてくれて、ついでにモーリーに土の家にリホームさせてくれることに話がまとまった。この時お礼にケリーに嗅覚強化のスキルをあげた。こっそりだけど。


 エルザのあわただしい変化はまだ終わらない。新しい家で老人たちが亡くなって埋葬をした。カシムのところには処分する高齢奴隷はいなくなった。もともとそうたくさんいることはなくて、このところ異常に多かっただけなのだ。


 ルミエを鍛えるために夕方から、ダンジョン攻略訓練をすることになる。一人では寂しいかもしれないと、孤児院の子で市場で働いている子たちを呼んだ。市場はまだ暗いうちに仕事が始まり、夕方には仕事が終わるのだ。


 全員冒険者登録をし、Gランクだが、エルザが加わってEランクパーティー月影が結成された。毎日1時間くらいギルドのダンジョンで狩りをする。稼ぎは1日一人500チコリと兔1頭ほど。だが、孤児院にとっては大きい。市場で働く子たちがもらって来るクズ野菜のスープに肉が入る。

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