第27話 30年後の指輪

 クルトは王都アリアスにいた。勇者パーティーのリーダー、 勇者アーサーに会うためだ。勇者パーティーは幼馴染6人から始まった。そこから聖女候補のリリエスが脱落した。今では5人は王国の最高のパーティにまでなり上がった。それから15年。いよいよ今年引退する。アーサーはクルトとも旧知の親しい仲だ。


「実はリリエスのレベルが上がらない。全く」


「俺たちも不思議なんだ。リリエスを追放したのは、そのせいだったから。本当は彼女も含めて6人で引退したかった」


「その理由が分かった。それで協力してほしいことがある」


「是非聞きたい。そしてできることなら協力したい」


「30年前に死の谷のダンジョンに行った時のことを覚えているか」


「忘れることはできないさ。手ひどい失敗だった。ただ不思議なことに、記憶がはっきりしないんだ」


「記憶は消されたんだ。あるリッチによって」


「消されたと言われれば、そうかもしれない。全員気を失っていた。最下層で。思い出してもぞっとするよ。不思議なのは誰が俺たちの気を失わせたのか、その記憶がない」


「リリエスにもその記憶はない」


「誰か見ていたのか」


「リリエスは自分の中にずっと従魔のようなものを封印していた。そいつが最近解放されたんだ。そいつが見ていた」


「あるかもしれない」


「リリエスが最後まで生きていた。他は死んでいたそうだ」


「俺たちは死んでいたのか」


「リリエスが呪いを受け入れることで、全員蘇生された」


「呪いがリリエスだけに行ったのか」


「証拠はないから、信じてくれとしか言えない」


「クルト、俺にはウソを見破るスキルがある」


「レベルアップ保留、30年」


「それはきつい。ほとんどの冒険者は30年生きないし、生きても引退する。俺たちみたいに」


「でもリリエスは現役だ。当分は」


「新しいパーティーに入ったということか」


「5歳の男の子とな」


「そんな趣味じゃなかったが」


「30年分のレベルアップがもうすぐ来る」


「それはめでたいな。で?」


「リリエスはどこのパーティーでも、自分のスキル経験値を最小にしてきた。だからトータルで見ると、経験値が不当に少ない」


「それは俺たちも気がついていた」


「パワーレベリングをしてくれないか。引退を半年先に延ばして、今度はリリエスに最大の経験値が入るようにしてもらえないか。もちろん金は払う」


「これをリリエスに返してくれ。成長促進の指輪だ。最初のダンジョンでスライムが落とした」


「なんでこれを」


「成長促進1,1倍。大したことのない指輪だが、リリエスはこれにごくわずかだが倍率をあげる付与をかけていたんだ。今じゃ倍率2倍以上になっている」


「売れば1億チコリにはなる」


「俺たちはもう金はいらないんだ。そして、指輪だけじゃない」


「・・・?」


「武器や防具、俺たちは全員、一番最初に勝った安い市販品を今でも使っている」


「まさか勇者パーティだろ。伝説の魔剣だと思っていたよ」


「リリエスさ。ごくわずかな成長。でも30年継続するととんでもない力になる」


「継続はなんとかだな」


「リリエスから、昔、使いこんだ賠償として100万チコリ送られて来てな」


「そりゃまた律義な」


「俺は突っ返すつもりでいる。金はね。代わりにリリエスに、タダで働いて返してもらう。パーティの一員としてな」


「ありがとう。アーサー。そういう形でリリエスのレベリングをしてくれるってことか」


「リリエスは命の恩人だし、俺を男にしてくれた最初の女だからな。惨めに死なせたくはない。チャンスをくれて、ありがたいのは俺たちだ」


「月1回、7日くらいでどうだろう」


「すると5回だな」


「そうだ。ただその度に移動に7日かけかるのが問題なんだ。5歳の子を抱えているしな」


「それなら最近いい方法を知った。ダンジョンの転移を利用する方法なんだがクルトは自分の自由になるダンジョン持っているか?ダンジョンが必要なんだ。その転移を利用するために」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る