第25話 遺跡のドロップ
道具屋のテッドはリリエスと同年代だ。リリエスの古いなじみの一人だが、ピュリスを離れていた期間が長く、深い関係はなかった。彼はセバートン王国だけでなく、ン・ガイラ帝国、神聖クロエッシエル教皇国にもいたことがある。世界一の商会ゾルビデム商会。テッドはそのピュリス支店長だ。
テッドは世界中の支店を回ってきた。ベテラン商人だ。40代を迎えて、2年前から生まれ故郷に帰ってきた。本来なら店頭で接客するような立場ではない。でもテッドは店頭に立つことが好きだった。
リリエスが姿を見せると、テッドは大喜びしてくれた。リリエスがこの町で果たしている経済的役割をテッドは理解していた。だがケリーが袋を開けて、今日の品物を見せると、ちょっと難しい顔になった。
「テッド、どうかしたか」
リリエスも懸念はしていた。雑魚モンスターが落とすドロップとしては高価すぎる。
「リリエスよ。これどうやって手に入れた」
「普通にモンスターのドロップだが」
「場所はどこか聞いてもいいか」
「二日分だから、1カ所は古代遺跡。実はいい武器はここで出ている。もう1カ所は東の大木のあたりだ」
「遺跡の前は?」
「廃坑」
「その前は」
「北の砦跡だ」
「リリエス。持ってきたものから推測したこと話していいか」
「もちろん。これからもこの4カ所を主な狩場にする予定だから」
ゴミ捨て場のゴミと、モンスターのドロップ。この二つをリペアしたものが、リリエスの新生活の収入の柱になるはずだった。
「東の大木のあたりのモンスターのドロップは安物だ」
「私もそう思う。冒険者が捨てたか、落としたかしたもんだろう」
「砦跡は昔の軍隊のものだろうな。粗悪品ではないが、量産品だ」
「砦があるくらいだから、多分昔ここが戦場だったのかな。その時の武器をスケルトンが持って出てくるということだろう」
「このクラスの武器は売りやすい。高くないし、質も悪くないから」
「多分量も多いと思う。5年でちょうど取り尽すぐらいかなと思っている」
「次の廃坑のドロップもいいんだ」
「武器もあるが、鉱山の道具が多い場所だな」
「こういう道具類は高くないが、欲しい人はたくさんいるんだ。問題はその後の遺跡だ」
「貴重品すぎて売れないのか」
「その場所の歴史っているのがある。古代の栄えた文明の時代、この遺跡は古代の大帝国の首都だったんだろうなと思う」
「確かに。ここで私が家に使っているのは、入り口の塔だけなんだ。奥にはまだ手付かずの遺跡がかなり広くある」
「これ以上のものが出るとばれたら、戦争になる」
「それほどのものか」
「文化財といった方がいい。国宝級」
「私も軽く鑑定したから、いいものだとは分かったんだ」
「これをそのままマーケットに出したら、俺たちはみんな殺される」
「私はしぶといから」
そういう問題ではない。たくさんの人が巻き添えになるし、ピュリスの平和も危なくなる。テッドは人間の欲の深さを知り尽くしている。10万チコリのためだって、人は人を殺す。
「ともかく絶対秘密だ。値段のつかないものが3つある。いっぺんにマーケットに出したら危ない。匿名の闇オークションに、タイミングを見て1つずつ出すしかない」
「今日、お金はもらえないのか」
「仮払いで8千万チコリは出す。ただ急に冒険者ギルドの残高が増えるのも危ないな」
「1500万チコリはほしい。借金があるから早く返したいんだ」
「その程度はいいさ。残りはキース銀行に口座を作って、そこに入れておく」
「そこは大丈夫なのか」
「ここは表は立派な銀行なんだが、闇の銀行もやっている。紹介がないと口座作れないんだが、私が紹介して口座を作ってもらう。いいね」
「ああ頼む。ただ名義はケリーにしてくれ、私はもうそんなに長く生きないし、私が死んだあとケリーにいくらかのお金は残してやりたいんだ」
「リリエス。僕は大きくなってリリエスをお嫁さんにするんだから。死んじゃダメだ」
「可愛いな。爺婆は孫になつかれるとうれしいもんだ」
「あんたには孫いるのかい」
「二人な。それでピュリスに戻ってきた」
「ともかく銀行の方はそれで頼む」
「いいとも。情報の隠蔽のためには偽名でいいんだ。それに将来ケリーは大商人になるかもしれないしな」
「なぜそう思う」
「この子は売りに来るとき、その品物の名前や使用法、品質の見分け方を必ず聞くんだ。5歳から始めたら、成人するころはかなりの目利きになっているさ」
「そうだなケリーは商人になるのがいいのかもしれない。計算も得意らしいから」
テッドの道具屋から、冒険者ギルドに戻り、1500万チコリ口座に入れて、エルザに昔のギルドへの送金を頼む。迷惑をかけた分を返したい。人生の借りをすべて返したら、安心して死ねる。そう思うリリスだった。
北のゴミ捨て場でゴミを漁る。ここは富裕層のゴミが多い。ケリーがうれしいのは本が手に入ることだ。他にも高く売れそうな陶器の破片があった。
リリエスとケリーは、いつものコースを少しはずれて、途中の農家によって麦わらを買う。持ちきれないから荷車を借りて明日の朝帰すことに。
リリエスが森の手入れをしていることは、農家の人は良く知っている。おかげでこの30年、モンスターの被害は減ってきている。城壁の外の農家には何よりありがたい。リリエスには麦わらぐらいタダであげたいくらいだ。
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