第23話 性奴隷が欲しいわけじゃない
アリアはずっとジンウエモンというリッチと戦うのだと思っていた。それほど圧倒的な悪意だった。神獣であるアリアを心の底からおびえさせるほど。
リリエスに対する呪いは怖ろしいものだ。30年もの間、スキルがレベルアップしない冒険者がどんな人生を送るか、あいつは正確に理解していた。まず冒険者を30年続けられない。弱い冒険者は死ぬのだ。
冒険者にとって平和に引退することは、奇跡のようなものだ。昔リリエスといっしょだったパーティは皆、幸運にも生き延びている。だがそれは本当に希なことだ。そして引退できたとしても、多くの冒険者は惨めな老後を送るのだ。
スキルが低いまま冒険者を続けられる確率はごく低い。レベルが低いまま冒険者を続けられたリリエスはごくまれな例なのだ。そのかわりリリエスはどれだけの屈辱を受けてきただろうか。15回のパーティー追放。その度に受けたリリエスの傷の痛さを、アリアだけは知っている。
もしその屈辱に負の感情が掻き立てられたとしたら、リリエスは復讐を渇望する怪物になっていただろう。ジンウエモンの狙いはそこにあったとアリアは思う。その怪物になった人間がとつぜん強大な力を得たら、とんでもないざまあの悲劇が始まるからだ。ジンウエモンはそれを楽しむつもりだった。
だが意外にもジンウエモンは死んだ。10年位前だ。あんな強大で、凶悪な魂が滅びるとは、アリアには信じられなかった。しかも多分殺された。あのジンウエモンを殺したのだから、さらに強い何者かだ。それは自分たちの心強い味方か、それともさらに恐ろしい敵か。
それにジンウエモンが死んでも、あれほどの魂が、悪の痕跡を残さずに生きたはずがない。必ずそれを受け継いだものがいる。悪は伝染するのだ。最悪の場合、敵は2つだ。ジンウエモンを倒した巨悪。ジンウエモンを後継している巨悪。
その巨悪はケリーの復讐ともつながっているはずだ。誘拐団の目的はケリーの誘拐や海辺の寒村の襲撃だったはずがない。誘拐して一番金になるのは、エルフの若い女だ。サエカ村の北の道はエルフの里に通じている。やつらの目的はおそらくエルフの誘拐。ケリーの悲劇は行きがけの駄賃なのだ。
1つの場所で、例えばセバートン王国という場所で、巨大な悪は多数が同時に成り立つことはない。この誘拐を追って行けば、おそらくジンウエモンにつながる何かに突き当たる。
やることは徐々に明確になってきている。まず6か月後のリリエスの覚醒だ。30倍がスキル経験値を30倍するだけなら、レベルはカンストしないだろう。それでも十分強力だ。おそらくリリエス一人で勇者パーティーより強い。怪物化したら災害になる。
もし保留されたレベルアップ回数が、30倍されるのなら、今リリエスの持つスキルはカンストする。限界はレベル10。リリエスはたくさんスキルを持っているから、史上最強の冒険者になる。
戦う相手がジンウエモンだとしたら、その程度ではとても勝てない。ジンウエモンが死んでこの世に残したものも、おそらくジンウエモンと同じくらい強い。だとしたらやはりカンストしたリリエスでも勝てないのだ。そしてもしジンウエモンを倒したものが敵だったとしても、やはりこの程度のリリエスでは勝てない。
つまりどうしても限界突破したリリエスが必要なのだ。スキルレベルオール50くらいのリリエスを造る。神か悪魔のレベルだ。もし悪魔になったら、アリアはリリエスにとりついて、まだ混乱している隙に倒してやるつもりだ。
あと6か月のうちにリリエスの経験値をあげられるだけあげて、ジンウエモンの予想をはるかに超えるリリエスを作り出さねばならない。その最初の戦いは6か月後に迫っている。限界突破のスクロールを手に入れ、リリエスの経験値をできるだけ上げる。
その次が5年後のケリーの復讐。実行犯の特定とその殺害は可能だ。問題は二つある。この背後にはジンウエモンの悪意を継承する邪悪な人物がいる。その人物まで明らかにできるかどうか。トカゲのしっぽで終わてはこちらの負けになる。
もう一つの問題は、リリエスが50歳になるということだ。平均寿命は50歳ら、酒浸りだったリリエスがあまり長生きするとは思えない。だから巨悪のと対決は、ケリーの復讐と連続して行いたい。
さて今日はクルトと話をしておきたい。冒険者ギルドにいればいいが。
クルトはちょうど出かけるところだった。アリアは化粧で平凡な顔になっているから目立たない。でもできれば人に見られたくないので、人目のないところでクルトの皮膚に棲みつく。神獣アリアは境界に住むものだから、ヒトの皮膚に張り付くことができる。この状態で声を出さずに話す。
「限界突破のスクロールのことで、カシムのところに行くところだ」
「なぜカシムなのかしら」
「奴は裏社会のボスの一人で、俺に借りがあるんだ。それを利用して、闇のオークションで限界突破のスクロールを買えないかと思ってな」
「だったらもう一つ、そこでエルフの女奴隷、買えないか試してみてほしい」
「エルフの女は1億チコリぐらいする。金がない。それに使い途がないだろう。あんたにだって。そういう趣味なら別だが」
「性奴隷が欲しいわけないじゃない。誘拐団がケリーを目的にわざわざ遠征してくると思う?ケリーとサエカ村はとばっちりで、奴らの目的はエルフの女の子よ。でも何か不都合があった場合、闇のオークションに出てくる可能性がある」
「その線をたどれば、確かに人さらいたちの情報が手に入るかもしれない。だがそんな幸運は千に一つだ」
「私ね、千に一つくらいなら、幸運をつかむ強力なスキル持ってるのよ」
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